「NGWS」といわれていたのです。これは「ドット・ネット」
の狙いをそのままあらわしています。
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NGWS/Next Generation Windows Service Platform
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NGWSは、ウインドウズをネットサービス化し、次世代の礎
にしようという計画だったのです。すなわち、すべての情報機器
がインターネットに接続されるという前提に立って、ネット上に
あるアプリケーションやデータを必要に応じて情報機器から引き
出して利用できる環境を作るというのですから、まさにクラウド
・コンピューティングそのものといえます。
しかも、2000年といえば、ブロードバンドや携帯電話もあ
って、NCやネットスケープの時代とは異なるのです。マイクロ
ソフト社は時代を先取りしたかに思われたのです。
しかし、結果としてドット・ネットは失敗に終わったのです。
どうして失敗したのでしょうか。
オンラインサービスでは、アクセスしてきた利用者が本人であ
ることを確認する個人認証のシステムが必要になります。マイク
ロソフト社では、この個人認証のシステムとして「ヘイルストー
ム」というものを用意したのです。ヘイルストームを直訳すると
次のようになります。
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ヘイルストーム=雹の嵐
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個人認証といえば「ID」と「パスワード」がありますが、各
ネットサービスごとにIDとパスワードを設定していくと、数が
増えてしまい、しまいにはわけがわからなくなります。
この弊害をなくすために、オンラインサービスのユーザーは、
ヘイルストームに対して個人情報を記録します。この個人情報と
ひとつのIDとパスワードを照合し、認証を行うのです。すなわ
ち、各ネットサービスは個人情報を蓄積しないで、必要になった
ときに、ヘイルストームを参照し、個人情報を一時取得するので
す。そして不要になったらそれを廃棄します。
こういう方法でひとつのIDとパスワードで済ますようにした
のです。このこと自体は別に問題はないのです。しかし、このヘ
イルストームがマイクロソフト社から発表されたとたんに強烈な
拒否反応が出たのです。
当時マイクロソフト社は、PCのOSをほぼ独占状態にしてお
り、それに関連する多くの訴訟も起こされていたのです。そこに
もってきて、ヘイルストームで個人情報の蓄積をやろうとしたの
で、「マイクロソフト社はOSのみならず、個人情報までも牛耳
るつもりなのか」と非難されたわけです。
それにヘイルストームという名前も悪かったのです。ヘイルス
トームとは「雹の嵐」――マイクロソフト社が天から雹を降らせ
て個人情報を奪うとして拒否反応が起こったからです。マイクロ
ソフト社は直ちに「ドット・ネット・マイサービス」と改名して
対応したのですが、一度ついた悪いイメージは消えず、ドット・
ネット・マイサービスは、自社のウェブサイトの一部で使うシス
テムにとどまったのです。
なお、ドット・ネットは、マイクロソフト社の技術基盤「ドッ
ト・ネット・フレームワーク」として採用され、広く使われてい
ますが、当初予定したものより大きく後退してしまったのです。
この2000年のドット・ネット構想を一新して登場したのが
既にご紹介した「ウインドウズ・アジュール」なのです。これこ
そ「ウインドウズ・クラウド」というべきものであり、本質的に
は、2000年のドット・ネットと同じ技術ですが、きわめて画
期的な技術であるといえます。
このウインドウズ・アジュールについて、マイクロソフト社の
チーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オジー氏は次のように
解説しています。
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(ウインドウズ・アジュールは)ウインドウズという名前は付
いているが、これは市販、あるいはOEMされる新しいOSで
はない。クラウド・サービスを開発、運営するためのプラット
フォームだ。その中身は、データセンターを構成するウインド
ウズサーバーとマイクロソフト製ミドルウェアで構成されてい
る。クラウドサービスを提供するのは、マイクロソフト自身、
あるいはマイクロソフトのパートナー企業だ。
――2008年12月13日付、『週刊/東洋経済』より
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マイクロソフト社がOSを独占できたのは、ウインドウズ95
と同時に発売された「オフィス95」の大成功にあるとオジー氏
はいうのです。
ライバルのソフトウェアベンダーが大幅に改良されたウインド
ウズ95への対応を手間取っている間にオフィス95でライバル
社を抜き去り、引き離したのです。
OSが盤石の体制を整えるには、そのOSの環境で動く多くの
アプリケーションの質と数が必要です。すなわち、新OSベース
のソフトウェアを構築するための優れた開発ツールが必要である
とオジー氏はいうのです。
マイクロソフト社はウインドウズに機能を追加するたびに開発
ツールの方もバージョンアップさせ、その使い勝手を大幅に向上
させてきたのです。その結果、1997年に生まれたのが、「ビ
ジュアルスタジオ」という、今日、世界中の開発者たちが利用す
る開発ツールなのです。
特質すべきことは、ウインドウズ・アジュール上で動くアプリ
ケーションの開発にもビジュアル・スタジオが使えることなので
す。これは、クラウド対応のソフトウェアの開発に大きな威力を
発揮するのです。――[クラウド・コンピューティング/25]
≪画像および関連情報≫
●レイ・オジー戦略メモについて
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ここ数年ビル・ゲイツの靴を埋めるので必死だったマイクロ
ソフト社チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのレイ・オジ
ーが自分なりの一歩を歩み出した。社員に宛てた驚くべき戦
略メモの中でオジーは基本的に、マイクロソフトのミッショ
ンをパソコン用ソフトとスタンドアローンのサーバー作りか
ら、デバイスと人の間を繋ぐメッシュ作りへと転換を図ろう
としている。ウインドウズやオフィスを捨て去るわけではな
い。氏が言っているのは、MSのソフトウェアの価値を決め
るのは「それ独自で何ができるか」ではなく、今後ますます
「他のものと一緒に何ができるか」という方にかかってくる
だろうということだ。もはやソフトウェアがどうこういうよ
りも、ウェブベースのサービスとしてどうなのか、そちらが
重要になってくる。
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マイクロソフト社のレイ・オジー氏


