2009年11月17日

●「クラウド・コンピューティングの原点」(EJ第2696号)

 「クラウド」の概念は、そういう言葉は使わないまでも、それ
をあらわす考え方は大型コンピュータの時代からあったのです。
そのとき使われた言葉としては次のものがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ユーティリティ・コンピューティング
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ユーティリティ・コンピューティング」とは何でしょうか。
 ここでいう「ユーティリティ」という言葉は、電気、ガス、水
道、電話などの公共サービスのことを指しています。「ユーティ
リティ・ビル」といえば「公共料金」のことです。
 これらの公共サービスでは、例えば、スイッチを入れれば電気
がつき、蛇口をひねれば水が出る――利用者は自分が使った分だ
けの料金を支払えばよいのです。ガスも電話も同じようにして利
用できますが、コンピュータもそうならないかという考え方が出
てきても不思議はないのです。
 利用者の立場からは、どのようにして電気が供給され、どうい
うメカニズムで蛇口から水が出るのかなどは詳しく知る必要はな
い――そんなことは、「クラウド」の中のことであって利用者は
知らなくても利用できるのです。
 電気、ガス、水道、電話などの公共サービスは、いずれも莫大
な初期投資が必要であり、設備や資源をひとつの組織に集約し、
必要に応じて分配する方式の方が資本効率がよいのです。こうい
う考え方に立って実現しようとしたのが「ユーティリティ・コン
ピューティング」なのです。
 現在のようにPCがなかった1960年代までは、コンピュー
タといえば大型コンピュータであり、非常に高価だったのです。
したがってコンピュータを何台も導入できないので、一台の大型
コンピュータを何人もの人たちが端末(ターミナル)を通して使
う「タイムシェアリング」という方式を考え出したのです。これ
も一種のクラウドであったといえます。
 このようなクラウドの構想は、今までに何度も出てきているの
です。なかでも積極的だったのは、オラクル社のラリー・エリソ
ンCEOとネットスケープ・コミュニケーションズです。
 ラリー・エリソンCEOは何とかPCを安くしようとして19
96年に「NC/ネットワーク・コンピュータ」を発表したので
す。そのキャッチ・フレーズは「500ドルPCの実現」だった
のです。1996年といえば、日本では「ウインドウズ95」が
発売されてから1年後のことであり、PCは17万円から30万
円以上はしたのです。
 その構想はある意味では極めてシンプル――大型コンピュータ
をサーバーとする「タイムシェアリング」だったのです。この場
合、端末に当たるのは500ドルPCのNCであり、ハードディ
スクを持たず、OSやデータはサーバーに置くという構想です。
 オラクルとしてはサーバーで集中管理をするのであれば、デー
タベース機能が必要になるので、そこを押さえればビジネスにな
ると考えたのです。
 それでは、ネットスケープ・コミュニケーションズは何を考え
ていたのでしょうか。この企業は、1990年半ばにウェブブラ
ウザをめぐってマイクロソフト社と戦ったのです。そのウェブブ
ウザ「ネットスケープ・ナビゲータ」は、当時明らかにマイクロ
ソフト社の「インターネット・エクスプローラ」の機能を超えて
おり、インターネット普及の初期の時代において、市場を席巻し
マイクロソフト社を激しく追い詰めたのです。
 マイクロソフトとしては、こうしたライバル社の動きに対して
次のような警戒感を持ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アプリケーションがサービス化すれば、OSにもう支配力はな
 い。もはや、ウェブラウザこそがOSなのだ。
                     ――西田宗千佳著
           『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、結果として両社はマイクロソフト社を追い込めずに終
わったのです。それは当時ブロードバンドがなく、ケータイも単
なる電話に過ぎなかったからです。
 そもそもオラクル社にしてもネットスケープ社にしても、戦略
に計画性も余裕もなく、強大なマイクロソフト社と戦うにはあま
りにも無理があったといえます。
 オラクル社の500ドルPC――NCは採用企業があらわれず
ビジネスモデルも明確ではなかったのです。ましてブロードバン
ドがない中で、企業内のシステムとしてしか実現できなかったの
です。そうしているうちにPCはハードディスクやOSを搭載し
たまま普及して価格を下げていったのです。そして、現在、NC
は「ネットブック」として実現しています。
 ネットスケープ社については、企業の体力に問題があったとい
えます。その目指す方向は正しかったものの、マイクロソフト社
との激しい競争の中でマイクロソフト社のソフト開発力に敗れて
品質を落とし、AOLに買収されてしまっています。
 抵抗勢力を排除したマイクロソフト社は、2000年にある動
きを加速させます。その背景として2000年にはPCも大きく
普及し、ブロートドバンドが実現しつつあったのです。そして、
もはやインターネットというものを無視できない状況になってい
たのです。
 そのある動きとは、「マイクロソフト・ドットネット戦略」な
のです。2000年6月、マイクロソフト社は、次世代インター
ネット戦略として、「ドットネット」を打ち出したのです。
 マイクロソフト社はこの戦略を「MS−DOSからウインドウ
ズへの移行に匹敵するほどの根本的なパラダイムシフト」として
大きく打ち出したのです。これはマイクロソフト社にとって、満
を持して打ち出したとっておきのネット戦略であったのです。
       ―――[クラウド・コンピューティング/24]


≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフト・ドット・ネットとは何か
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  インターネットを含むネットワーク上に散在したアプリケー
  ションが自らの機能を「サービス」として公開して、各種の
  端末から利用するための基盤となるソフトウェアや記述言語
  ・プロトコルなどの規約の集合を構築することを目指してい
  る。「.NET」に対応した端末はJava仮想マシンのような
  ソフトウェアの動作環境が搭載され、OSの種類に関係なく
  サービスを受けられるようになる。
         http://e-words.jp/w/Microsoft202ENET.html
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西田宗千佳氏の本.jpg
西田宗千佳氏の本
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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