2006年02月15日

ケインズ政策をどこまで理解しているか(EJ1775号)

 今回のテーマをスタートさせてから17回目になります。そろ
そろ今回あたりから、「それじゃ、どうすれば良いのか」という
解決策の検討に入っていきたいと思います。
 デフレ下のこの時期に増税が駄目なら、どういう手が残されて
いるのかというと、米国のように減税をして個人消費を刺激する
とともに財政を出動させて公共投資を実施する――日本でこのよ
うにいおうものなら、きっとブーイングを浴びるでしょう。
 そんなことは今まで何回もやって失敗しているではないか、だ
いいち財政赤字が膨れ上がっているときにさらに赤字国債を発行
しろというのかという一斉砲火を浴びること確実です。
 日本では、このような積極財政を主張する人――政治家や学者
それに評論家を含めて「ケインジアン」と呼び、まるで間違った
政策をとる人の代名詞のようにいう風潮というか雰囲気が出来あ
がりつつあります。最近テレビによく登場する学者や評論家を見
ると、ケインジアン的政策を述べる人はほとんど姿を消していま
す。これも巧妙きわまる財務省の世論形成工作の陰謀によるもの
と考えられるのです。
 しかし、ケインズ政策を批判する人は、ケインズ理論をどのく
らい正確に理解しているのでしょうか。私は一度「ケインズ」を
EJのテーマに取上げようとしたことがあるので、彼の『雇用、
利子および貨幣の一般理論』を勉強してみたのですが、一般に考
えられていることとは相当違うのです。
 確かに日本はバブル崩壊後において、総額140兆円にのぼる
財政政策をとってきていますが、これらをケインズ政策と呼ぶの
はかなり乱暴な話なのです。小泉首相はこれを逆手にとって、次
のように主張し続けてきています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財政出動、減税、ゼロ金利をしてきたのに、なぜ効かなかった
 のか。それは構造に問題があるからだ。
           ――衆議院予算委員会での小泉首相答弁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 神戸大学経済学部教授滝川好夫氏は、小泉政権の経済に対する
考え方――すなわち、竹中経済学とケインズ政策とを比較して、
小泉政権の経済政策を批判する次の本を出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     滝川好夫著/税務経理協会
     『ケインズなら日本経済をどう再生する』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この滝川教授の本を下敷きにして、ケインズ経済学の基礎を少
し勉強しましょう。
 ケインズは、お金を貸す個人や銀行を「貸手」、そのお金を借
りて投資する企業を「借手」として、次の2つの状態について説
明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    借手/確信の状態 ・・・ モノの世界の確信
    貸手/信用の状態 ・・・ カネの世界の確信
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 借手の企業が実物投資を行ったとき、これは絶対にうまくいく
という確信が持てるときとそうでないときがあります。成功の確
信が持てるときの状態を「確信の状態」といい、これを「モノの
世界の確信」と呼ぶことにします。
 これに対して、貸手の個人や銀行が貸し出しを行ったときに絶
対に回収できるという確信が持てる状態を「信用の状態」といい
これを「カネの世界の確信」と呼びます。
 このことを頭に置いて、ケインズの『雇用、利子および貨幣の
一般理論』の次の部分を読んでみてください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 資本の限界効率に悲惨な影響を及ぼした株式価格の暴落は、投
 機的な確信あるいは信用の状態のいずれかが弱まったことによ
 るものであったといえよう。しかし、暴落を引き起こすには、
 そのいずれかが弱まることで十分であるのに、回復するには両
 者がともに復活することが必要である。
        ――『雇用、利子および貨幣の一般理論』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「資本の限界効率」というのは、新規投資の予想利潤率のこと
です。株価の暴落は、かつての日経平均株価8000円割れと考
えてみるとわかりやすいと思います。また、「投機的な確信」は
モノの世界の確信であり、「信用の状態」はカネの世界の確信の
ことです。
 つまり、株価の暴落を引き起こすには、モノの世界の確信かカ
ネの世界の確信のいずれかが弱まることで起こってしまうが、こ
れを回復させるには、両方の確信を復活させる必要がある――ケ
インズはこういっているのです。
 それでは、2つの確信を回復させるにはどのようにしたらよい
でしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     モノの世界の確信 ・・・ 景気対策強化
     カネの世界の確信 ・・・ 金融の安定化
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 大切なことは、どちらか1つをやるのではなく、両方を同時に
行うことです。具体的にいうと、日本を経済の長期低迷から復活
させるには、景気対策と金融システムの安定化対策の両方を同時
に行う必要があるのです。
 今から考えると、1991年から2001年までの10年は日
本にとって最悪の10年だったと思います。その間に首相は8人
交代しているのです。宮沢、細川、羽田、村山、橋本、小渕、森
小泉の8人です。
 小渕政権を除く7内閣のやってきたことを見ると、景気対策か
金融の安定化のいずれか1つを実施したに過ぎないことがわかり
ます。ケインズ政策は行われていないのです。[日本経済17]


≪画像および関連情報≫
 ・ジョン・メイナード・ケインズ関連のサイトより
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  ケインズの一生は、投資や投機と格闘し続ける一生でもあり
  ましたが、そのことがケインズ理論を実践色の強い理論にす
  ることに役立っているのではないかと思われます。
  ケインズの投資記録は1919年/36歳の時から残されて
  いますが、この時に16000ポンド程度だった投資資金が
  1946年に亡くなった時には、400000ポンド以上に
  なっていました。当時の日本円で5億円に相当し、50年以
  上も前としては、大変な資産です。ちなみに、現在の価値で
  いうと、約60億円になります。
             http://rich-navi.com/keynes.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

1775号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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