2009年11月12日

●「肉屋が魚市場で魚のセリに参加する」(EJ第2693号)

 既出のITジャーリストである小池良次氏の言によれば、過去
何年にもわたって、シリコンバレーではマイクロソフト社が嫌わ
れ者の筆頭であったというのです。なぜ、マイクロソフト社は嫌
われているのか――それには次の3つの理由があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.PCのOSで独占的立場にある
      2.新市場を巨大資金力で入手する
      3.シアトルに本社が存在すること
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 シリコンバレーでは、権力の集中を嫌うのです。したがって、
PCのOSのシェアで独占的立場にあるマイクロソフト社は嫌わ
れているのです。
 また、あるベンチャーが新市場を作り出すと、それを巨大な資
金と組織力を持ってわがものにしようとする、競争に勝つために
は手段を選ばない好戦的なマイクロソフト社の社風が嫌われてい
ます。それにシアトルに本社があるということは、シリコンバレ
ーにとってはヨソ者――そういう意味で嫌われているのです。
 しかし、最近では、マイクロソフト社に代わって嫌われ者は、
グーグル社に移りつつあるといいます。最近の話では、グーグル
社がマイクロソフト社による買収騒ぎに乗じて、宿敵のヤフー社
を自分の陣営に取り込んでしまった手法が批判されています。
 どうしてかというと、もし、グーグルとヤフーの両社が手を組
むと、ウェブ広告の90%以上を独占することになるからです。
こういう権力の集中をシリコンバレーは嫌うのです。
 こんな話があるのです。2007年10月23日のことです。
サンフランシスコで開催されたCTIA・ITの会議での出来事
です。CTIA・ITの正式名称は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  CTIA・IT/CTIA Windows I.T.& Entertainment
―――――――――――――――――――――――――――――
 CTIA・ITの会議では、携帯コンテンツやモバイルサービ
スに内容を絞っており、参加者はもちろん携帯電話業界の人々な
のですが、そのときの基調講演は、マイクロソフト社のスティー
ブ・バルマーCEOだったのです。
 そのときのマイクロソフト社のバルマーCEOの講演は今ひと
つであったそうです。しかし、基調講演の後で行われた主催者と
バルマーCEOのやり取りでは面白いことがあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 講演後、主催者との対談で、マイクロソフトがグーグルをから
 かう場面に出くわしたからだ。これは主催者から「アナログテ
 レビ跡地の無線免許競売にマイクロソフトも参加するのか」と
 聞かれ、バルマーCEOが「いや、G社とは違うからね」とグ
 ーグルを皮肉った時だつた。このとき、会場は拍手と大爆笑の
 渦になった。それだけでなく、拍手に混じって「そうだ!そう
 だ!」といったグーグルへのヤジもあった。この雰囲気こそグ
 ーグルに対する通信業界の恐怖を如実に表している。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これには少し説明が必要です。グーグル社は、当時2008年
1月に行われることになっていた携帯無線の事業免許オークショ
ンへの参加を表明していたのです。
 この競売は、2009年2月のアナログテレビ放送停止を受け
て、空白(アナログ跡地)となる周波数帯域を次世代無線サービ
ス用に再割り当てするために行われたのです。結果は、携帯大手
のAT&Tとベライゾン・ワイヤレスの2社が総額の80%を押
さえて圧勝しグーグル社は敗退しているのですが、こういうオー
クションにグーグル社が、どういう意図で参加するのかが見えな
かったので、話題を呼んだのです。これについて、小池良次氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大げさにいえば、魚市場に突然肉屋がやってきて、魚の競りに
 参加するようなものだ。しかも、その肉屋は、精肉業界最大手
 で資金も技術も営業力もある。当然、魚市場は混乱する。いっ
 たい、この肉屋は仕入れた魚をどう売りさばくのだろうか、肉
 屋は魚屋になるのだろうか――と憶測が飛び交う。メディアは
 「いよいよ肉と魚を使った融合料理の時代だ」と騒ぐ。ちょう
 ど、バルマーCEOが基調講演を行った時はこの混乱のさなか
 で、CTIA・IT会議にやってきた携帯業界人は皆グーグル
 の一挙一動に目が離せなかった。そこで司会者が茶目っ気たっ
 ぷりに、マイクロソフトも魚の競りに参加するのですかーと尋
 ね、「G社とは違うからね」(――わが社は市場荒らしはしな
 い)と答えたわけだ。だから会場はヤジと大爆笑に包まれた。
   ――小池良次著、『クラウド』より/インプレスR&D刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもマイクロソフト社のバルマーCEOが、CTIA・I
T会議会議に出てきた理由は、同社のウインドウズ・モバイルの
ためなのですが、このOSもアップル社やグーグル社との競合に
さらされてきたのです。
 ウインドウズ・モバイルのスマートフォン向けの出荷台数はこ
のところ着実に伸びており、同社の収益に大きく貢献しているの
です。しかし、この世界には、シンピアン、ブラックベリー、ブ
リューなどの主流派携帯OSが強く、ウインドウズ・モバイルは
それらとやっと肩を並べたところだったのです。
 しかし、そのマイクロソフト社の足元を脅かしつつあるのが、
アップル社のアイフォーン、これから詳しく述べるグーグル社の
アンドロイドなのです。マイクロソフトとしてはこの競争に勝た
ないと次の展望が描けないために、バルマーCEOとしては、必
死にならざるを得ないのです。しかし、アイフォーンの世界的成
功にマイクロソフト社としてはその対策に苦慮しているところな
のです。   ―――[クラウド・コンピューティング/21]


≪画像および関連情報≫
 ●CTIA・IT/2007のバルマーCEO基調講演
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  サンフランシスコ発--過去20年間PC市場を牛耳ってきた
  のと同じように、マイクロソフトががモバイルソフトウェア
  市場を支配する日は来るだろうか。マイクロソフト社の最高
  経営責任者(CEO)スティブ・バルマー氏は、モバイル市
  場に大きなチャンスを見いだしている。何百万人もの消費者
  が携帯電話を購入しており、携帯電話の能力が上がるにつれ
  その延長線上にマイクロソフトの中核事業であるPC用オペ
  レーティングシステムとアプリケーションの販売が位置づけ
  られるのは自然なことだからだ。
  http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20359920,00.htm
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CTIA・IT/2007でのバルマーCEO.jpg
CTIA・IT/2007でのバルマーCEO
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | クラウド・コンピューティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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