いったことがあります。となると、小泉政権の経済の考え方は、
長く経済と財政を担当してきた竹中大臣の経済理論をベースにし
ていると考えてよいと思います。
小泉首相が構造改革をはじめるに当たって、つねに口にしてい
た次の2つの言葉があります。
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構造改革なくして経済成長なし
構造改革なくして景気回復なし
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ここで具体的には、「経済成長」とはGDP(国内総生産)の
トレンドを良くすることであり、「景気回復」とはGDPのサイ
クルを上昇させる――お金の回りを良くすることを意味します。
小泉構造改革が経済にどのような影響を与えるのかを見るため
には、少し経済学を勉強してみる必要があります。
GDPには、生産、分配、支出という3つの側面があります。
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「生産」 ・・・ 生産要素を買い、モノ・サービスを作る
「分配」 ・・・ 作った成果を生産要素に報酬として支払
「支出」 ・・・ 受け取った報酬でモノ・サービスを買う
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実はこれら3つの側面は事後的にはすべて等しくなるのです。
これを「GDP三面等価の原則」といいます。例えば、日本経済
を分析する場合、これら3つのどの側面から入っても経済を一巡
することができるのです。
大別すると経済学には次の2つの考え方があるのです。
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1.供給がそれ自身の需要を生み出す ・・ セイの販路法則
2.需要がそれ自身の供給を生み出す ・・ 有効需要の原理
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1は、ジャン・バティスト・セイの『政治経済学概論』という
著書に書かれている経済学の原理で、古典派経済学の基本原理に
なっています。
セイは、あらゆる経済活動は物々交換にすぎないと考え、需要
と供給が一致しないときは価格調整が行われるということを前提
に、供給が増えて供給超過になっても、それに応じて必ず価格が
下がるので、結果として、需要が増えて需要と供給は一致すると
考えたのです。したがって、需要を増やすには、供給を増やせば
よいということになります。つまり、古典派経済学では、供給サ
イド重視の考え方に立つのです。
これに対して2は、ケインズが主張したもので、ケインズ経済
学の基本原理なのです。「有効需要」とは「総需要」のことであ
り、「有効」とは購買力に基づいていることを示しています。
価格や賃金が調整されないほどの短期においては、需要と供給
の不一致が生じます。これを解消するためには、財の数量を調整
することしかできないという考えに基づいているのです。つまり
有効需要が発生した後で、供給が調整されて需給が一致するとい
うこと考え方なのです。
竹中大臣は、自らの経済の考え方をまとめた著書『あしたの経
済学/改革は必ず日本を再生させる』
のように述べています。
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経済とは、労働者一人ひとりが『生産』をすることによって価
値を生み出し、その価値が、所得という形で個人や企業に『分
配』され、さらに人々が所得からお金を『支出』する、といっ
た形で成り立っています。つまり、『価値を生み出す』生産が
重要であって、価値を生み出す力がなければ経済は長期的に発
展しないのです。
――竹中平蔵著、『あしたの経済学/改革は必ず日本を
再生させる』
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この主張を読むと、竹中大臣は「供給(生産)サイド重視」に
立っていることは明らかであり、古典派経済学に立脚していると
いってよいと思います。これに対してケインズ経済学(ケインジ
アン)では、「需要(支出)サイド重視」なのです。
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古典派経済学 ・・・ 「供給(生産)サイド重視」
ケインジアン ・・・ 「需要(支出)サイド重視」
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ここで重要なことは、古典派経済学では中・長期の成長を問題
にするのに対して、ケインジアンは短期、すなわち景気に重点を
置くということです。はっきりしていることは、小泉構造改革は
供給(生産)サイド重視の考え方に立っているということです。
「構造改革なくして経済成長なし」――これは構造改革をしな
い限り、中・長期的課題である経済成長はありえないという意味
なのです。この場合の成長率とは「潜在成長率」のことであり、
モノを作る力の伸びを意味します。最近竹中大臣は、経済財政諮
問会議で次のようにいっています。
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構造改革の成果による潜在的成長力の向上などで、2010年
初頭にかけて名目成長率は4%程度まで回復するが、長期金利
はしばらく名目成長率を下回って推移する。 ――竹中総務相
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しかし、構造改革は中・長期、すなわち明日の日本経済には寄
与することができても、今日の日本経済には寄与しないのです。
現実に現在の日本経済は需要不足という病気にかかっており、早
期治療が必要なのです。「構造改革なくして景気回復なし」とい
くらいっても景気は回復しないのです。現在日本の景気は上向き
になりつつありますが、これは小泉構造改革の成果などではない
のです。 ・・・[日本経済16]
≪画像および関連情報≫
・ケインズ関連のサイトから
ケインズの天才は、それまでの経済学者がミクロばかりに注
目していたところに、マクロな経済現象というものが存在す
ることを見出したところにある。たとえば大学受験を例に考
えると、志望者数が70万人いて、大学の定員が60万人し
かないなら、全員が鬼のように努力しても10万人は大学に
入れない。自明の理である。ケインズは、経済活動における
この大学の定員のようなものを有効需要と定義し、国が有効
需要を制御しなければ失業率は下がらないとしたわけだ。
――PICSY BLOGより
http://blog.picsy.org/archives/000232.html
