2006年02月13日

大増税にすべてをかける財務省(EJ1773号)

 2012年までに基礎的財政収支(PB)を黒字化する――こ
れは2005年1月20日に経済財政諮問会議が発表した財政健
全化計画なのです。
 経済財政諮問会議が発表したというと、当時会議を事実上仕切
っていた竹中大臣主導で決められたように考えますが、こと財政
の問題については、実際は財務省がイニシアチブをとって決めて
いるのです。
 というのも2004年11月に政府税調調査会(石弘光会長)
が2005年度の税制改正の答申で、所得税や法人税の見直しな
どの構造改革路線から、国民に直接税負担を求める増税路線への
転換を提案しているからです。これは財務省の意向以外のなにも
のでもないのです。
 石会長は、記者会見で次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 税負担増が税制改革の軸になる。減税や公共投資で景気を回復
 させ、税収の増加を通じて財政を再建するという従来の考え方
 から決別する必要がある。         ――石弘光会長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 今まで増税をするときは、別の減税を組み込んで税負担を軽減
する措置をとったものですが、今回はそういう配慮は一切しない
純増税を提唱しています。それだけではなく、消費税の2桁引き
上げや住宅ローン減税を廃止することまで石会長は実施すべきだ
といっているのです。
 石会長の考え方は、財政の持つ経済効果を完全に否定し、小泉
構造改革によって大幅に落ち込んだ税収の回復には大増税によっ
て帳尻あわせをしようとする財務省の財政的均衡主義そのもので
あるといえます。
 財政制度審議会(貝塚啓明会長)という審議会があります。財
政の制度改革を手がける審議会です。この審議会は2004年2
月に財政支出の大幅削減を打ち出しています。義務教育・生活保
護の補助金の削減や廃止をはじめ、国債費を除く一般会計歳出を
3割程度縮減することを提案しています。これも財務省の強い依
頼を受けての提言なのです。
 PBの黒字化を達成するために、国の将来を考えない義務教育
費の削減や母子家庭の援助まで打ち切る情け容赦のない提案は、
目的のためには手段を選ばない暴挙そのものです。そんなにまで
して、PBの黒字化を急ぐ必要などまるでないのです。
 デフレ経済の下で大増税を行えば、歴史の示す通り大恐慌が起
こりかねないのです。現在の日本経済は、小泉構造改革という供
給重視・需要軽視政策によって需給ギャップが拡大し、需要不足
になっています。そんなときに大増税を実施すれば、一層深刻な
需要不足が起こります。
 そもそもPBを黒字化するという発想は、経済を縮小・停滞化
させ、財政不況を発生させる恐れがあるのです。日本の場合はこ
のような縮小均衡策ではなく、もっと新規国債を発行して拡大均
衡策をとるべきなのです。
 しかし、現在の日本では「もっと新規国債を発行して・・」な
どというと、一斉に非難のまなざしを浴びるという雰囲気になっ
ているのです。それほど、財務省の巧妙きわまるレトリックに国
民は乗せられているのです。われわれは財務省のレトリックに乗
せられないために、財政――とくに国債についてもっと詳しく知
る必要があります。
 国債の発行は、財政法の第4条第1項によって次のように規定
され、原則禁止されているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    国の歳出は、原則として歳入の範囲内で賄うこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、第4条には但し書きがあり、次のように定められてい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 公共事業費、出資金、および貸付金の財源については、国会の
 議決を経た範囲内で、公債を発行できる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このようにして、発行される公債が「建設国債」です。しかし
税収が少なくてその穴埋めに発行する人件費などの経常経費を賄
う公債は財政法では禁止されているのです。
 なぜ、建設国債は許されているのでしょうか。
 それは、建設国債によって道路などの社会的インフラを建設し
た場合は、国債に見合う資産があり、将来の世代に便益をもたら
すので、有用と考えられているからです。
 それなら、税収の穴埋めに発行される国債――赤字国債という
――はどのようにして発行されることになるのでしょうか。
 それはそのつど特別立法を必要とするのです。なぜ、そのよう
な面倒なことをするのかというと、なるべく発行を抑えたいとい
う配慮がそこにあるからです。
 1990年から2004年までの15年間の新規の国債発行額
は360兆円ですが、その内訳は次のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  建設国債 ・・・・・ 161兆円  発行総額45%
  赤字国債 ・・・・・ 199兆円  発行総額55%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1991年から1993年までの新規国債発行はすべて建設国
債であり、1994年から赤字国債の発行が増えてきたのです。
そのため、1997年に橋本首相は財政改革を実施したのですが
失敗したというわけです。
 しかし、2001年から2004年まで、小泉政権になってか
らの4年間で赤字国債は171兆円――うち、128兆円(75
%)は赤字国債なのです。年間32兆円――国債発行枠30兆円
は達成されていないのです。何のことはない。その失政のツケを
大増税で払わされようとしているのです。・・[日本経済15]


≪画像および関連情報≫
 ・財政法/第4条
  第4条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、そ
      の財源としなければならない。但し、公共事業費、
      出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を
      経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をな
      すことができる。
    2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をな
      す場合においては、その償還の計画を国会に提出し
      なければならない。
    3 第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎
      会計年度、国会の議決を経なければならない。

1773号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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