「ウインドウズ・アジュール」と「ライブメッシュ」について、
もう少し詳しく説明することにします。
何のための技術かというと、一言でいうと「クラウドのための
先端技術」ということになります。「クラウド」というのは、ク
ラウド・コンピューティングのことですが、これは今回のテーマ
そのものであり、これについては改めて詳しく説明します。
ウインドウズ・アジュール――これはいわば「クラウド内に存
在するウインドウズOS」なのです。ネット上で動く「ウェブ・
アプリ版/ウインドウズ14」は、このウインドウズ・アジュー
ル上で動作するのです。
マイクロソフト社は、数年前から温めてきた「ソフトウエア+
サービス」というキーワードを今回強く打ち出したかたちですが
これはグーグル社の動き見ての対応策であると考えられます。
注目すべきは、マイクロソフト社がこの技術を打ち出した場が
「PDC2008」であるという点です。PDC2008とは、
何を目的とするものなのでしょうか。「PDC」というのは次の
ことを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
Professional Developers Conference 2008(PDC 2008)
―― マイクロソフトの開発者向けカンファレンス ――
―――――――――――――――――――――――――――――
ソフトウェアというものは特定のOSの環境下で動作します。
それはOSに合わせてソフトウェアを開発するからです。マイク
ロソフト社としては、ウインドウズベースのソフトウェアを作る
開発業者を増やす必要があります。もちろんローカルのOS市場
を制しているマイクロソフト社には当然多くのソフトウェアの開
発業者が存在します。そういうソフトウェア開発者の会議がPD
Cなのです。
ローカル市場でのマイクロソフト社の優位は、主戦場がウェブ
に移ると事情が一変するのです。ウェブに移るということは、主
戦場がサーバーになるということを意味しています。つまり、サ
ーバーOSの競合がはじまっているということです。
もちろん現在のところサーバーOSの世界でも、マイクロソフ
ト社は優位を保っています。2008年第2四半期におけるサー
バーOSの世界シェアは次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
ウインドウズ ・・・・・ 36.5 %
ユニックス ・・・・・ 32.7 %
リナックス ・・・・・ 13.4 %
zOS ・・・・・ 11.8 %
その他 ・・・・・ 5.6 %
――西田宗千佳著
『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
以上のサーバー用OSの世界シェアで焦点の当たっているのは
第3位の「リナックス」なのです。これは基本的には無償のOS
であり、ウインドウズにとっては最大の強敵なのです。
ローカル・アプリが少しずつウェブ・アプリに移行してくると
ウェブ・アプリを開発する業者が増えてきます。そういう業者に
対して、個人向けウェブ・アプリを多く開発しているグーグル社
は、サーバーを貸し出すサービスをはじめています。しかし、そ
のサーバーにはウインドウズを使わず、「リナックス」を自社で
改良したものを使っているのです。
通販サービス大手のアマゾン・コムもグーグルと同様にウェブ
・アプリを構築する企業に対してサーバーを貸し出す「アマゾン
EC2」というサービスをはじめています。こちらもOSの中心
はウインドウズではなく、リナックス改良版なのです。
マイクロソフト社は、そういう動きに対し、開発者の集まりで
あるPDC2008で、「ウインドウズ・アジュール」を打ち出
し、グーグルなどへの流れを抑えようとしたのです。
既出の西田宗千佳氏は、ウインドウズ・アジュールの正体につ
いて、次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
今後、様々なところでウェブサービス・ウェブアプリが増えて
くることになると、自社でサーバーを持たず、グーグルやアマ
ゾンのような企業から借りる、という形も増えてくるはずだ。
その時、ウィンドウズ・サーバーが使われる保証はない。この
ままでは、最終的に「ウェブアプリの時代」に得られる利益を
失うのでは・・・。マイクロソフトはそう考えたわけだ。ウェ
ブアプリの構築に必要な技術をまとめ、既存のウィンドウズ・
アプリケーションも動作し、EC2(アマゾン)などのような
「レンタル」形態にも対応できるソフトウエア。それこそが、
ウィンドウズ・アジュールの正体である。ローカルのアプリケ
ーションからウェブアプリヘ。その潮流は、マイクロソフトの
ビジネスモデルそのものに、大きな変革をもたらそうとしてい
るのである。 ――西田宗千佳著
『クラウド・コンピューティング』より
―――――――――――――――――――――――――――――
今やマイクロソフト社には、グーグル社とアップル社という2
つの強敵がいます。ITの世界が一斉にクラウド――ウェブの世
界に向かう中で既に激しい攻防戦が始まっているのです。その主
戦場はサーバー市場なのです。
この攻防は、サーバーの世界の話であって、一般的にはよく見
えない世界での熾烈な戦いなのです。その中で大きく先行してい
るのはグーグル社ですが、アップル社もマイクロソフト社もそれ
ぞれ独自の戦略でしのぎを削っています。
そのためのマイクロソフト社のひとつの技術が「ウインドウズ
・アジュール」なのです。「ライブ・メッシュ」については来週
述べます。 ──[クラウド・コンピューティング/17]
≪画像および関連情報≫
●「PDC2008」でのマイクロソフト社発表
―――――――――――――――――――――――――――
米マイクロソフトのPDC2008。初日は同社チーフ・ソ
フトウエアアーキテクトのレイ・オジー氏によるキーノート
で幕を開けた。参加者は約6500人で、うち5000人が
開発者。彼らから大きな尊敬を集めるオジー氏だけあって、
彼の言葉に皆が熱心に聞き入った。「このPDCは、マイク
ロソフトの製品やサービス、戦略にとって大きな転換点にな
る」と開口一番に語ったオジー氏が発表したのは、「ウイン
ドウズ・アジュール」。ウインドウズ・アジュールは、いわ
ば「クラウド内に存在するウインドウズOS」。マイクロソ
フトがデータセンターを運用し、その上でストーレージ、仮
想化、システム管理を含むホスティング・サービス、「Live
サービス」(文書や画像の共有)、「SQLサービス」(デ
ータベース、検索)、「. NETサービス」(ビジネスにお
けるワークフローやアクセス・コントロール)を提供するも
のだ。 ――2008.10
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081028/317929/
―――――――――――――――――――――――――――
ウインドウズ・アジュール