2001年06月12日

不良債権に関する糸瀬教授の主張(EJ635号)

 糸瀬茂さんというエコノミストをご存知ですか。現在宮城大学
事業構想学部教授です。彼は、土曜日の午前8時、第4チャンネ
ルの「ウェークアップ」のレギュラー・コメンテータをはじめ、
多くのテレビ番組に出演し、分かりやすくユニークな金融理論を
展開する47歳の気鋭のエコノミストとして有名です。
 この糸瀬氏は食道がんを患っており、進行期は第4期の末期状
態にあるのです。しかし、彼は最後まで提言を続けたいとし、病
気を公表して、ついこの間まで宮城大学でのゼミを続け、テレビ
番組に出ていたのです。限界量を超えるモルヒネを打ってです。
 6月9日の「ウェークアップ」は糸瀬さんを特集して、かなり
長時間にわたるインタビューを放映していました。病室でもPC
を持ち込み、雑誌の原稿を書く糸瀬さんの姿がありました。おそ
らくそのとき書いていたと思われるのが、『文藝春秋』7月号に
掲載されています。『宰相小泉純一郎の誤算/「塩川・竹中・柳
沢」経済閣僚に覚悟を問う』というタイトルです。
 私は、親友3人を糸瀬氏と同じ病気で失っており、とても他人
事とは思えません。糸瀬氏自身のことばですが、自分のがんはも
はや打つ手はないとのことで、あえて延命治療はせず、気力の続
く限り提言を続けたいそうです。本当に腹の据わった立派な生き
方であり、敬服する次第です。今日から何回かにわたって、糸瀬
氏の主張を取り上げてみたいと思います。
 糸瀬氏は、小泉内閣が不良債権問題を処理し、構造改革を成し
遂げられるかどうかは、経済閣僚たちの力量にかかっているとし
たうえで、「柳沢金融相の危機意識に大きな危惧を抱いている」
と述べています。
 柳沢氏は内外から「ミスター・ハードランディング」といわれ
ています。それは、金融再生委員会の初代委員長として、当時、
実質的債務超過状態にあった長銀と日債銀を、同委員会の設立根
拠法「金融再生法」に基づいて、国有化させ、民間への売却を果
たすという荒療治を成し遂げたからです。
 そういう柳沢氏であるから、不良債権処理もきちんとやってく
れるであろうという期待がかかっているのです。しかし、糸瀬氏
は、問題銀行の整理・再編と不良債権処理とは分けて考えるべき
であり、柳沢氏は不良債権処理には全く手をつけていないといっ
ているのです。
 どういうことか説明しましょう。金融再生法というのは、例え
ば問題銀行を国有化という緊急避難措置を取り、その国有化の期
間中に、国有化銀行が保有するに適さない資産(不良債権)を切
り離し、健全な銀行にして民間に売却するのがそのねらいなので
す。しかし、柳沢氏は、長銀についてはこの大事な作業に手をつ
けていないのです。
 具体的にいうと、長銀が抱えていた「国有化銀行が保有するに
適さない資産」に、あの「そごう」、「熊谷組」向け債権があっ
たのです。しかし、柳沢氏はこれらの問題債権を「国有銀行が保
有するに適した債権」に区分してしまったのです。
 柳沢氏のやるべきことは、こういう問題債権を切り離すことに
力を発揮すべきだったのですが、彼は何もしないで金融再生委員
長の椅子に鎮座していただけなのです。これでは、ミスター・ハ
ードランディングどころか、ミスター・ネバーランディングでは
ないかと糸瀬氏は怒りをぶつけます。
 こんな問題債権を抱える銀行を誰が買うでしょうか。これが、
あの評判の悪い「瑕疵担保責任条項」を生み、国民から集中砲火
を浴びることになるのです。このような金融相に小泉内閣の公約
である不良債権処理ができるのでしょうか。
 これまで公表されていた不良債権は81兆円です。ところが、
不良債権は150兆円であるという説もあるのです。この150
兆円という数字は、民主党の求めに対して金融庁から返ってきた
数字なのです。81兆円が150兆円に増えているのです。
 不良債権の分類について少し研究してみる必要があります。
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 T分類 非分類債権
 U分類 その回収について通常の度合いを超える危険を含む
     と認められる債権
 V分類 最終の回収または価値について重大な懸念が存在す
     る債権
 W分類 回収不能または無価値と判定される債権
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 U、V、Wについては誰の目で見ても不良債権そのものである
ことはわかりますが、81兆円というのはこれらの合計額なので
す。これらを「分類債権」といいます。
 それでは、Tはどういう意味でしょうか。
 Tは、U、V、Wに分類されない債権という意味で「非分類債
権」と呼んでいます。それなら、正常債権なのかというとけっし
てそうではないのです。非分類債権というのは、優良な担保・保
証はあるが、元本返済もしくは利息支払いが延滞しているなど、
何らかの問題のある債権を意味しているのです。
 金融庁は今まで非分類債権は不良債権ではないとして、不良債
権の中に入れておらず、その金額も公表しなかったのです。とこ
ろがここにきて「不良債権は150兆円」という数字を出してき
たのです。これは、明らかに分類債権と非分類債権の合計額とい
うことになります。
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  分類債権81兆円+非分類債権69兆円=150兆円
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 つまり、非分類債権は約70兆円ということになります。しか
し、どう考えても非分類債権は不良債権です。銀行と約束した支
払いが滞っているからです。糸瀬氏は、非分類債権は銀行に正常
な期間収益をもたらさない不稼動債権であり、明らかに不良債権
として処理すべきであると強調しているのです。これこそ常識的
な考え方であると思います。明日もこのテーマを続けます。

635号.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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