音──それも魅力的な余裕のある良い音であったと記憶していま
す。もっとも、そのとき聴いた曲が日本の歌謡曲であったので、
そういう音が響いたのかもしれません。
しかし、その音は、それまでに私の体験したソニーのウォーク
マン(カセット)、МDウォークマン、MP3プレーヤーの音を大
きく上回る音であったことは確かです。ジョブズが注文をつけた
音量が大きくシャープな音という条件は実現されたのです。
後から考えると、初期のiPodはハードディスクであったた
め、そういう音──重低音が響いたものと思われます。現在では
フラッシュメモリが採用されており、ハードディスク・タイプの
iPodは「iPodクラシック」と呼ばれています。私の場合
ハードディスク・タイプの「iPodミニ」のあと、「iPod
ナノ」を購入したので、ハードディスクタイプの音とフラッシュ
メモリタイプの音とは明らかに違うことを確認しています。もち
ろんフラッシュメモリの方が音質は上回っています。
回転部分のあるハードディスクタイプと回転部分のまったくな
いフラッシュメモリとは当然のことながら、音質は大きく違って
きます。もっともiPodに音楽を収録するには、PCのハード
ディスクに収録するので基本的にはハードディスクの音というこ
とになるのは避けられないことです。
いずれにせよ、PCメーカーのアップル社の作った携帯音楽プ
レーヤーが、日本のソニーや松下を尻目に業界標準の地位を勝ち
取ったのです。これは大変なことです。どうしてそんなことがで
きたのでしょうか。
ところでビジネススクールでは、次の英語の表現を教材に使っ
てビジネスの常識を教えているそうです。
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Wag the dog.
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どういう意味かというと、犬が尻尾を振っている様子を尻尾が
犬を振り回すと見誤ることに由来するのです。したがって、この
英語の表現は「本末転倒」という意味になるのです。
ビジネススクールでは「Wag the dog」 を「失敗するビジネス
モデル」のひとつであると教えているのです。
当時アップル社の主力PCの価格とiPodの価格は約10倍
の開きがあったのです。PCの価格を20万円とするとiPod
は2万円ということになります。
この場合、iPodがいくら売れても10倍の単価の製品――
アップル社のPCを主力とする事業を救うことはできないという
教えです。つまり、尻尾のiPodが犬のPC事業を振り回して
もダメということです。
しかし、アップル社は明らかに成功しているのです。iPod
の使い勝手の良さに感激したユーザーがウインドウズPCを捨て
iMacに乗り換えるケースが出てきているからです。
しかし、ビジネススクールでは、それはCEOであるスティー
ブ・ジョブズのスーパープレイであり、ビジネスの世界では稀有
なことであるというのです。したがって、それは参考にはなるが
一般的な成功するビジネスモデルとしては使えないというわけで
す。つまり、大リーグのイチローの打撃術よりも、高校野球の送
りバンドの方が教科書として使えるという理屈です。
iPodがなぜ専門の音楽メーカーから生まれなかったのかと
いうことについて、竹内一正氏は次のように述べています。
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iPodはなぜ日本のソ二ーや松下から生まれなかったのか
という疑問を何度も聞かされた。たしかに、アップルはパソコ
ンメーカーだ。オーディオ製品なら、世界中で1億台以上売れ
辞書にまで載っている「ウォークマン」を生んだソ二−が、先
んじてつくって当然だと思える。松下しかりである。いろいろ
な解釈があるが、私は経営者の力量の違いだと断言したい。す
ごいモノを生み出すには、現場の「ノー」を受け取らない鬼軍
曹的な管理職が必要である。現場の「できないコール」に耳を
傾けてしまうやさしい管理職は不要だ。常識の限界で立ち止ま
っている部下には、背中を蹴り飛ばすことだ。たとえば本田宗
一郎は「『常識』は人間が考えたこと。それを疑って打ち破っ
ていくのが進歩だ」と言い、ときには部下に鉄拳を見舞ってい
た。 ――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
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ジョブズは、開発チームが約束した期日に遅れそうになったり
技術的に壁にぶつかったりして電話をかけてくると、おだやかに
話を聞き、チームの優秀さを称えたあとで、「やればできる」と
いって電話を切ってしまうそうです。部下からは絶対に「ノー」
という返事を受け取らない人なのです。
このようにジョブズは目標は大きく具体的に示すのですが、そ
の達成方法については一切部下にまかせるのです。上司が達成方
法にまで踏み込むことは、部下に余計な先入観を与え、実現の可
能性を限定的なものにしてしまう恐れがあるからです。
ソニービルができる前のことですが、ソニーの盛田昭夫社長は
広報部長に対し、こういう指示を与えています。
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1年たったとき、東京のどこかからタクシーに乗って、ひと言
「ソニービル」と言うだけで運転手が連れて行ってくれるよう
なPRを考えろ。――竹内一正著/リュウブックスアステ新書
『スティーブ・ジョブズ/神の交渉力』より
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目標は誰でもわかる具体的なものです。社長はそれを指示し、
その達成方法は広報部長にまかせたのです。達成方法は無限にあ
るでしょう。あらゆる可能性を追求せよ――それをやるが部下の
仕事なのです。 ――[クラウド・コンピューティング/06]
≪画像および関連情報≫
●フラッシュメモリとは何か
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フラッシュメモリとは、データの消去・書き込みを自由に行
なうことができ、電源を切っても内容が消えない半導体メモ
リの一種。半導体メモリには、データの読み書きを自由に行
なえるが、電源を切ると内容が消えるRAMと、一度書き込
んだ内容は消去できないが、電源を切っても内容が消えない
ROMがあるが、フラッシュメモリは両者の要素を兼ね備え
たメモリ――性質はROMである。
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iPod nano



ハードディスクまたはフラッシュメモリーに記録された音楽データはデジタルデータなので、記憶媒体による音質の差は絶対に出ません。音質が変わるのはデジタルデータをアナログデータに変換するA/Dコンバータやそれ以降のアンプなどのアナログ部およびヘッドフォーン部分の違いによるものです。
いつも貴重な情報を提供して下さり、ありがとうございます。感謝