2006年02月10日

なぜ、財務省は財政再建を急ぐのか(EJ1772号)

 明らかに財務省は基礎的財政収支(PB)の黒字化計画を20
12年よりも前倒ししようと考えています。まるで少しでも急い
でやらないと大変なことになるかのような性急さです。
 昨年12月26日に開催された経済財政諮問会議において、政
府はPB黒字化を1年前倒しする暫定試算を提出しています。政
府というのはもちろん財務省のことです。
 財務省はさらに、2006年1月26日に2006年度予算案
を踏まえた財政の中期試算を衆議院予算委員会に提出しているの
です。この試算によると、このままではPBは2007年度から
再び赤字幅が拡大して、2007年度予算では、2006年度に
30兆円を下回った国債の新規発行額は再び30兆円以上に膨ら
むという内容になっています。
 ちなみに、この計算では経済成長率と想定金利を次のように設
定しいるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       名目成長率 ・・・・・ 2%
       長期 金利 ・・・・・ 2%
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 そのうえで、金利が1%上がると国債費はいくら、5%上がる
といくらというように、財政赤字がかくも大変であるということ
を煽った内容なのです。
 財務省はなぜかくも財政再建を急ぐのでしょうか。
 本当のところ、これは小泉首相がやっているわけでも、竹中大
臣が主導しているわけでもないのです。財務省の官僚が主導して
いるのです。谷垣財務相ですら彼らに乗せられているように見え
ます。誰も流れには逆らえないのです。2005年度までの状況
を見ると、増税なき財政再建は十分可能なのに、彼らは経済の失
速させてでも財政再建を急ごうとしています。
 経済アナリストの森永卓郎氏は次のようにいっています。
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 実際、経済財政諮問会議が今年6月にまとめる歳出・歳入一体
 改革の工程表に、債務残高のGDP比率を低下させる目標を盛
 り込む方向で政府は調整に入ったという。そうした一層厳しい
 財政再建目標が定められれば、消費税増税等の大衆増税は避け
 られなくなる。増税なき財政再建が可能なのに、財務省の「借
 金減らしたい病」に付き合って、国民生活が破壊されてしまう
 のでは国民はたまらない。          ――森永卓郎
         ――週刊「エコノミスト」1/31日号より
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 財務省がなぜこの問題にしゃかりきになるのかというと、それ
は日本の財務省が持っている予算査定のさいにそれを覆す権限を
持っていることに深く関連するのです。
 エコノミストのリチャード・クー氏は、日本の財務省の持つ特
別な地位について、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の財務省は世界中のどんな政府機関も持てないような権力
 と威光を享受しており、実際に、民間は言うにおよばず、総理
 大臣を含めた政治家も、その他の省庁のすべての官僚も、みな
 財務省をひどく丁重に扱うのである。しかも彼らはいくら政策
 や経済見通しを間違えても、政治家のように責任を問われ選挙
 で落選して職を失うといった心配もない。つまり、ここは世に
 も恐ろしいアカウンタビリティーゼロの世界があるのである。
 その点で、日本の財務官僚は全人類のなかでも最も神に近い扱
 いを受けているとさえ言える。
      ――リチャード・クー著、楡井浩一訳、『デフレと
       バランスシート不況の経済学』より。徳間書店刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 米国の財務省には政治家の立案した予算案に対して「ノー」と
いう権限などないのです。だからこそ、高度な専門性を必要とす
る金融政策の運用を政治家たちの気まぐれから隔離するために、
中央銀行は政府から独立した機関になっているのです。日本もか
たちの上ではそうなっていますが、実際問題として日本の場合は
財務省(とくに旧大蔵省)の権限は強大なのです。
 日本のこういう独特のしきたりは、選挙で選ばれる政治家より
も教育と規律の行き届いた官僚の方が、予算の優先順位をうまく
さばけるであろうという趣旨の下に、何十年も前に決められ、現
在まで続いてきたのです。「官僚は優秀で悪いことはしない」と
いう官僚性善説の大前提がそこにあったのです。
 しかし、現在日本の官僚は、国益よりも省益を優先する傾向が
強く、今日の日本において諸悪の根源となりつつあります。とく
に財務省の強大過ぎる権限は、日本の民主主義の発展に大きなダ
メージを与えてきたといえます。力のない政治家は財務省に色目
を使い、「財務省に予算をせびる」という構図が出来上がってし
まったからです。
 その財務省が一番やって欲しくないことは、いわゆる「財政出
動」なのです。そのために「財政赤字」を必要以上に煽ることに
よってそれを押さえ込む――こういうことを何回もやってきてい
るのです。
 とくに1990年代の相次ぐ不祥事とお粗末きわまる経済運営
によって旧大蔵省の信頼は地に落ちていることに加え、1997
年の橋本内閣による財政改革の失敗で、5期連続のマイナス成長
によって、1998年に大蔵省は現在の財務省と金融庁に分かる
羽目になったのです。
 現在、財務省は小泉政権の構造改革に便乗して、かつての権威
と地位を取り戻したいと画策しているのです。それが、6年連続
の緊縮財政であり、財政再建の加速なのです。そして、日本経済
を失速させかねない大増税を企んでいるのです。
 何しろ官僚は国民に選ばれているわけでなく、たとえ失敗して
も責任を取らないのです。こういう官僚たちに日本は占拠されて
しまっています。          ・・・[日本経済14]


≪画像および関連情報≫
 ・財政赤字解消への米国のやり方
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  1980年代の米国で財政赤字が問題になったとき、前FR
  B議長グリーンスパンは、財政赤字の削減は絶対に増税では
  なく、歳出カットでやるべきと言い続けてきたといわれる。
  レーガンやサッチャーに代表される欧米の構造改革は、すべ
  て、減税や歳出カット、規制緩和などを柱にした、小さな政
  府に向けての改革だったのである。
      ――リチャード・クー著、楡井浩一訳、『デフレと
       バランスシート不況の経済学』より。徳間書店刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1772号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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