2006年02月09日

名目成長率は金利を上回ることが可能か(EJ1771号)

 2012年までに基礎的財政収支(PB)を均衡させる――こ
の目標を達成するには、GDP名目成長率が長期金利を上回って
いることが条件となります。つまり、長期金利を上回る経済成長
が不可欠だということです。
 あまり多くの国債を発行すると、国債の価格が暴落(長期金利
が上昇)して、日本経済が大混乱に陥る危険性があるのです。そ
ういう事態を防ぐためにも、PBはなるべく早く均衡させておく
――これは正論です。
 そうすると、何としても長期金利をこのまま低く押さえ込み、
名目成長率をそれよりも上げる必要があるのですが、その見通し
はたっているのでしょうか。
 この見通しをめぐって、現在、経済財政諮問会議において与謝
野経済財政相と竹中総務相がもめているのです。新聞の報道によ
ると、ほとんどケンカのようなやりとりだというのです。
 竹中総務相は、当面は名目成長率が長期金利を上回るという前
提に立って、徹底した歳出削減を行えば、税収増によるPBの黒
字化は達成できるとしているのに対し、与謝野経済財政相はそん
なのは「楽観論」であるとして、激しく対立しているのです。
 一般論としては、名目成長率が高いほど税収は増えますし、長
期金利が低いほど国の国債の利払いは少なくて済むのです。した
がって、何としても名目成長率が長期金利を上回る状態を維持し
て、それを長期間続けることによって税収の増加を図る――そう
しない限り、たとえPBを均衡化させたとしても、それを黒字化
することはできないことになるのです。PBを黒字化させない限
り、国債残高のGDP比率は下がらず、国の借金は減らないこと
になります。
 しかし、本当にそのようなことが実現するのでしょうか。三菱
総合研究所による日、米、独、仏、英5ヶ国についての調査では
次の事実が明らかになっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.1955年から2005年までの50年平均では、ドイツ
   を除く4ヶ国で名目成長率が長期金利を上回っている。
 2.1985年から2005年までの20年平均では、対象の
   5ヶ国全部で、名目成長率は長期金利を下回っている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このような事実を踏まえて、長期金利が名目成長率を下回って
推移すると考えて大丈夫なのか――これが与謝野経済財務相の考
え方なのです。もちろん与謝野氏の考え方のバックには、消費税
引き上げがあります。
 経済財政諮問会議のメンバーの一人である東京大学大学院教授
の吉川洋氏は長期金利と名目成長率との関係について次のように
述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目成長率が金利よりも高いのは、一時的なボーナスと見るべ
 きである。         ――吉川洋東京大学大学院教授
         ――2006年1月14日付、朝日新聞より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、吉川教授は、長期金利が名目成長率を日常的に下回る
ことはないといっているのです。ここに次の2つの意見が対立す
ることになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ≪竹 中氏の考え方≫
  名目成長率が金利よりも高い状況を作り出すことは、金融政
  策によって可能である。
 ≪与謝野氏の考え方≫
  長期金利は名目成長率よりも高くなるのが自然であって、そ
  の逆は前提にできない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 さて、2005年度当初予算のPBの赤字は、15兆9000
億円になっています。これを2012年までの7年間で解消する
には年間どのくらい削減すべきでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   15兆9000億円 ÷ 7 =2兆3000億円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 年間2兆3000億円ずつ削減していけばよいわけです。しか
し、2004年度当初予算のPBの赤字は、19兆であり、かな
り大幅に削減してきているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 19兆円 − 15兆9000億円 = 3兆1000億円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 さいわい景気が回復基調にあり、本来なら2006年度はデフ
レから抜け出すチャンスであり、そのことを十分に配慮した予算
規模にするべきだったのです。そうすれば、増税なしで、PBの
黒字化は可能なはずなのです。
 しかし、2006年度予算案は、新規国債発行枠を30兆以下
にするという小泉首相のこだわりによって、必要以上の緊縮予算
になっています。
 この2006年度予算案について、経済アナリストの森永卓郎
氏は次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 06年度予算案では、基礎的財政収支を4兆7000億円も削
 減している。つまり、本来の2倍のスピードで財政赤字を削減
 しているのだ。財政再建を急ぎすぎれば、せっかく回復の兆し
 がみえてきた景気を再び失速させてしまう可能性がある。これ
 だけ厳しい予算を組んだのは、財政再建目標をより厳しいもの
 に切り替えようとしている政府の思惑が透けてみえる。
         ――週刊「エコノミスト」1/31日号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このままいくと日本は、橋本政権のときと同じ、いやもっと大
きな過ちを冒すことになるはずです。 ・・・[日本経済13]


≪画像および関連情報≫
 ・森永氏のいう「2倍のスピード」の意味
  2012年にPBの均衡を達成するには、年間2兆3000
  億円ずつ、削減していけばよい。4兆7000億円はその約
  2倍である。
  ―――――――――――――――――――――――――――
    2兆3000億円 × 2 =4兆6000億円
  ―――――――――――――――――――――――――――

1771号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック