の目標を達成するには、GDP名目成長率が長期金利を上回って
いることが条件となります。つまり、長期金利を上回る経済成長
が不可欠だということです。
あまり多くの国債を発行すると、国債の価格が暴落(長期金利
が上昇)して、日本経済が大混乱に陥る危険性があるのです。そ
ういう事態を防ぐためにも、PBはなるべく早く均衡させておく
――これは正論です。
そうすると、何としても長期金利をこのまま低く押さえ込み、
名目成長率をそれよりも上げる必要があるのですが、その見通し
はたっているのでしょうか。
この見通しをめぐって、現在、経済財政諮問会議において与謝
野経済財政相と竹中総務相がもめているのです。新聞の報道によ
ると、ほとんどケンカのようなやりとりだというのです。
竹中総務相は、当面は名目成長率が長期金利を上回るという前
提に立って、徹底した歳出削減を行えば、税収増によるPBの黒
字化は達成できるとしているのに対し、与謝野経済財政相はそん
なのは「楽観論」であるとして、激しく対立しているのです。
一般論としては、名目成長率が高いほど税収は増えますし、長
期金利が低いほど国の国債の利払いは少なくて済むのです。した
がって、何としても名目成長率が長期金利を上回る状態を維持し
て、それを長期間続けることによって税収の増加を図る――そう
しない限り、たとえPBを均衡化させたとしても、それを黒字化
することはできないことになるのです。PBを黒字化させない限
り、国債残高のGDP比率は下がらず、国の借金は減らないこと
になります。
しかし、本当にそのようなことが実現するのでしょうか。三菱
総合研究所による日、米、独、仏、英5ヶ国についての調査では
次の事実が明らかになっているのです。
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1.1955年から2005年までの50年平均では、ドイツ
を除く4ヶ国で名目成長率が長期金利を上回っている。
2.1985年から2005年までの20年平均では、対象の
5ヶ国全部で、名目成長率は長期金利を下回っている。
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このような事実を踏まえて、長期金利が名目成長率を下回って
推移すると考えて大丈夫なのか――これが与謝野経済財務相の考
え方なのです。もちろん与謝野氏の考え方のバックには、消費税
引き上げがあります。
経済財政諮問会議のメンバーの一人である東京大学大学院教授
の吉川洋氏は長期金利と名目成長率との関係について次のように
述べています。
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名目成長率が金利よりも高いのは、一時的なボーナスと見るべ
きである。 ――吉川洋東京大学大学院教授
――2006年1月14日付、朝日新聞より
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つまり、吉川教授は、長期金利が名目成長率を日常的に下回る
ことはないといっているのです。ここに次の2つの意見が対立す
ることになります。
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≪竹 中氏の考え方≫
名目成長率が金利よりも高い状況を作り出すことは、金融政
策によって可能である。
≪与謝野氏の考え方≫
長期金利は名目成長率よりも高くなるのが自然であって、そ
の逆は前提にできない。
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さて、2005年度当初予算のPBの赤字は、15兆9000
億円になっています。これを2012年までの7年間で解消する
には年間どのくらい削減すべきでしょうか。
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15兆9000億円 ÷ 7 =2兆3000億円
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年間2兆3000億円ずつ削減していけばよいわけです。しか
し、2004年度当初予算のPBの赤字は、19兆であり、かな
り大幅に削減してきているのです。
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19兆円 − 15兆9000億円 = 3兆1000億円
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さいわい景気が回復基調にあり、本来なら2006年度はデフ
レから抜け出すチャンスであり、そのことを十分に配慮した予算
規模にするべきだったのです。そうすれば、増税なしで、PBの
黒字化は可能なはずなのです。
しかし、2006年度予算案は、新規国債発行枠を30兆以下
にするという小泉首相のこだわりによって、必要以上の緊縮予算
になっています。
この2006年度予算案について、経済アナリストの森永卓郎
氏は次のようにいっています。
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06年度予算案では、基礎的財政収支を4兆7000億円も削
減している。つまり、本来の2倍のスピードで財政赤字を削減
しているのだ。財政再建を急ぎすぎれば、せっかく回復の兆し
がみえてきた景気を再び失速させてしまう可能性がある。これ
だけ厳しい予算を組んだのは、財政再建目標をより厳しいもの
に切り替えようとしている政府の思惑が透けてみえる。
――週刊「エコノミスト」1/31日号より
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このままいくと日本は、橋本政権のときと同じ、いやもっと大
きな過ちを冒すことになるはずです。 ・・・[日本経済13]
≪画像および関連情報≫
・森永氏のいう「2倍のスピード」の意味
2012年にPBの均衡を達成するには、年間2兆3000
億円ずつ、削減していけばよい。4兆7000億円はその約
2倍である。
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2兆3000億円 × 2 =4兆6000億円
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