長を再任する方針を正式に発表しています。FRB議長の任免は
市場に大きな影響を与えるので、大統領は慎重に行うものですが
任期切れまでまだ5ヵ月もある時点で再任を発表するのは異常な
ことなのです。バーナンキ議長の2期目の任期は2010年1月
から2014年1月までになります。
なぜ、オバマ大統領は、この時期にバーナンキ議長の再任を発
表したのでしょうか。
それは政権の支持率の問題があるからです。オバマ大統領の支
持率は6月末までは、ほぼ60%を超えていたのですが、雇用の
悪化につれ、じりじりと低下したのです。8月に入って、さらに
政権が最大の目玉としている医療制度改革のゴタゴタで支持率は
さらに下がり、辛うじて50%を保っている状態なのです。
そこで状況を打開するため、6月以降株価が回復してきている
ことに着眼して、政権が巨額の景気対策を打ち出してきた経済面
での成果を強調する方針を打ち出したものと思われます。
そこでオバマ大統領は、バーナンキFRB議長の発言をなぞる
ように、「景気後退の終わりの始まりを目撃しているのかもしれ
ない」とか「景気対策が人々に減税をもたらし、雇用を生み出し
ている」と発言するようになったのです。
オバマ政権がバーナンキ議長を中心として金融危機にいかに正
しく対応してきたかをアピールするなかで、バーナンキ議長の再
任を早々と打ち出して見せたというわけです。
しかし、景気は本当に底打ちしたのでしょうか。6月以降の景
気回復のように見える状況は、巨額の財政出動によるカンフル剤
が一時的に効いたに過ぎないという見方があります。雇用が回復
していないので、実体経済がさらに傷めば、失速して2番底に向
かい、再び金融に問題が跳ね返る恐れもあるのです。
日本のバブルは1991年に崩壊し、1999年になってやっ
と整理回収機構ができ、さらに5年ほどを要して不良債権の処理
を終了しています。したがって、全部で15年かかっていること
から「失われた15年」といわれるのです。
そのとき、「日本の処理は遅い」として米国から批判されたも
のです。その批判者のひとりが他ならぬバーナンキ氏だったので
す。とくに彼は日銀のゼロ金利政策について批判したのです。
しかし、バーナンキFRB議長は、金融危機が起きると、20
08年12月に自らが批判した事実上のゼロ金利政策を躊躇なく
導入しています。そしてマヒした金融市場に直接手を突っ込み、
民間債券など焦げ付きの恐れのある資産を買い入れる異例の「信
用緩和策」を実行したのです。
さらに、長期国債の買い切りで市場に資金供給するなど金融緩
和を徹底しています。各国の中央銀行とも協調し、世界的な市場
の混乱を押さえ込み、景気を下支えする手を打ってきたのです。
このようにバーナンキFRB議長の処理は水際立って早いよう
にみえますが、そうかといって、数年で米国経済が立ち直るとは
とても考えられないことです。
なぜかというと、日本のバブル崩壊と今回のバブル崩壊とはそ
の原因が本質的に異なるからです。浜田和幸氏は、今回のバブル
の原因は「レバレッジ金融」の崩壊であるといっています。
「レバレッチ金融」を理解するために、「レバレッチ」という
ものを正確に理解する必要があります。レバレッチを定義すると
次のようになります。
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レバレッジとは、経済活動において他人資本を使うことによっ
て、自己資本に対する利益率を高めることをいう
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例えば、100円の自己資本だけを持っている場合、総資産は
100円になります。総資産10円が10円の売上げと1円の利
益をもたらすと仮定すると、総資産100円の場合は、100円
の売上げと10円の利益がもたらされます。この場合、100円
の自己資本に対する利益率は10%ということになります。
さて、ここからが大切です。ここで400円の他人資本(借り
入れ)を入れて、自己資本と合わせて総資産を500円にしたと
します。この場合、総資産500円からは500円の売上げと、
50円の利益(営業利益)がもたらされますが、400円の借り
入れに対する利払いを5%と仮定すると、利息は20円、すなわ
ち、利益(経常利益)は30円になります。そうすると、自己資
本に対する利益率は30%になるのです。
このようにして、他人資本を導入することで同額の自己資本で
も、より高い利益率が上げられることを「レバレッジ効果」とい
うのです。
ここで、添付ファイルの図を見ていただきたいと思います。こ
れは「信用危機スタート時の世界の流動性」をあらわしている図
です。ここで流動性とは、貨幣と同じ意味であると考えていただ
きたいと思います。
この図で注目すべきは、デリバティブです。今回のバブル崩壊
によって、デリバティブの残高は、世界のGDPの384%、世
界全体の流動性の41%を占めているのです。
なぜ、こんなことになったのかというと、ヘッジファンドや投
資銀行は、レバレッチを使って自己資本の80倍から100倍の
投資をしていたからです。
これに対して、現金は全体の流動性のわずか2%に過ぎず、世
界のGDPの7%しか占めていなかったのです。現金なしの信用
取引の割合があまりも多かったからです。これではバブルが崩壊
すると、現金はたちまちなくなってしまうことになります。
これに対して日本は今回のバブルの崩壊によってツケはきっち
り支払わさせられていますが、日本は今回の金融危機の原因であ
るレバレッチ金融にほとんどかかわっていないのです。どうして
かというと、それは日本の金融技術が欧米に比して遅れていたか
らに他ならないのです。 ――[オバマの正体/54]
≪画像および関連情報≫
●キーワードとしてのレバレッジ/世に倦む日日より
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テレビ朝日の報道ステーションがこの経済問題の関心に比較
的よく適合した姿勢で米国経済の取材と報道を続けている。
見ていると、間もなく米国で金融のクラッシュが起きる予感
を取材スタッフが持っていることが伝わってくる。この一連
のテレビ情報を追いかけるだけでも、何も見ないよりは問題
の整理と把握に近づくことができるはずだ。
http://critic5.exblog.jp/9079094/
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●図の出典
浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊より
信用危機スタート時の世界の流動性