未曽有の政治的危機に瀕しているといえます。オバマ政権の政権
運営に大きな影響力を担うズビグネフ・ブレジンスキー氏は、オ
バマ以前の3人の大統領――ジョージ・H・W・ブッシュ、ビル
・クリントン、ジョージ・W・ブッシュのリーダーシップに大き
な問題あったことを指摘しています。
ブレジンスキー氏の近著に『セカンド・チャンス』という本が
あります。この本は『ブッシュが壊したアメリカ』――徳間書店
刊の書名で日本語訳が出ていますが、多極化するこれからの世界
について、きちんとした方向性が示されていて、非常に興味深い
本です。この本でブレジンスキー氏は、これら3人の米大統領を
「グローバル・リーダー」と呼んでいますが、本の書き出しの部
分を引用します。
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アメリカ合衆国大統領が初代グローバル・リーダー″という
冠を、自らの手で自らの頭に戴いた瞬間は、何年何月何日と特
定こそされていないものの、地球人類にとっては歴史的なでき
ごとであった。この自己戴冠≠ェ行なわれたとき、すでにソ
ビエト連邦は崩壊し、冷戦には終止符が打たれていた。だから
アメリカ大統領は正式な国際的承認をいっさい受けていないに
もかかわらず、グローバル・リーダー、すなわち世界の指導者
としてふるまい始めることができたわけだ。アメリカのマスコ
ミは戴冠の事実をこぞって喧伝した。世界各国はアメリカ大統
領の意向を尊重し、外国の首脳にとってホワイトハウス訪問は
(キャンプデービッド訪問はいうにおよばず)、政治活動にお
ける一世一代の見せ場となった。
――ズビグネフ・ブレジンスキー著/峯村利哉訳
『ブッシュが壊したアメリカ』/徳間書店刊
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ブレジンスキー氏は、これらの3人のグローバル・リーダーで
ある3人の大統領を次のように定義しています。
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ジョージ・H・W・ブッシュ ・・・ 警察官
ビル・クリントン ・・・・・・・・ 社会福祉活動家
ジョージ・W・ブッシュ ・・・・・ 自警団員
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先代ブッシュは、昔ながらの安定を維持するべく、権力と正当
性を頼みとした「警察官」であり、ビル・クリントンは、進歩を
創出すべく、グローバリゼーションに期待を寄せた「社会福祉活
動家」、そして、ジョージ・W・ブッシュは、自ら宣言した悪と
の戦いを完遂すべく、恐怖におびえる国民の力を結集させた「自
警団員」であるというのです。
ブレジンスキー氏は、8つの項目ごとに採点をして、3人のグ
ローバル・リーダーの通信簿を次のように発表しています。
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ブッシュ父 クリントン ブッシュ子
大西洋同盟 A A D
旧ソ連圏 B B− B−
極東 C+ B C+
中東 B− D F
核拡散 B D D
平和維持 評価せず B+ D
環境 C B− F
世界貿易/貧困 B− A− C−
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総合評価 堅実なB むらなC 落第のF
――ズビグネフ・ブレジンスキー著/峯村利哉訳
『ブッシュが壊したアメリカ』/徳間書店刊
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ジョージ・H・W・ブッシュ、すなわち先代ブッシュ大統領は
ソ連の崩壊に直面して、適切な配慮と巧みな手腕で危険なプロセ
スをうまく乗り切っています。しかしながら、世界システム全体
が米国の指導力を素直に受け入れているにもかかわらず、その絶
好のチャンスをつかまえられなかったことは、先代ブッシュの原
罪である――このようにブレジンスキー氏はいっています。
2人目のクリントンは、グローバリゼーションを都合よく解釈
し、歴史的必然性を主張することによって、戦略策定と遂行の義
務から自らを解放したのです。クリントンが相続した米国には、
全地球規模で競合するライバルはいなかったのです。
しかし、彼はこのまたとないチャンスをみすみす取り逃がし、
中東和平の道を開くことができなかったのです。また、核拡散問
題についても生半可な態度でのぞみ、これについてきちんとした
手を打てなかったのです。北朝鮮の核の枠組み合意などの失敗は
その典型であるといえます。
3人目のグローバル・リーダーであるジョージ・W・ブッシュ
について、ブレジンスキー氏は次のようにいっています。
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前ブッシュ政権が誕生してからの6ヵ月間、アメリカの外交は
ほぼ休眠状態にあった。9・11の同時多発テロで目がさめる
までは・・・。世界の国々はアメリカのまわりに結集し、アメ
リカ政府は世界共闘を形成する絶好の機会を得た。しかし、悲
しいかな、ブッシュが打ち出してきた政策は「あなたが我々の
味方でないなら、あなたは我々の敵である」という一国主義以
外の何物でもなかった。アメリカ政府は恐怖で国民をあおり、
あおられた国民の恐怖につけ込み、アメリカは戦時国家だ″
のスローガンを政治に利用した。 ――ブレジンスキー著
『ブッシュが壊したアメリカ』/徳間書店刊
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このテーマもそろそろ終了します。次回からしめくくりに入り
ます。 ――[オバマの正体/52]
≪画像および関連情報≫
●『ブッシュが壊したアメリカ』の書評について
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それはさておき、本書は「アメリカの単独の覇権が確立して
てから現在にいたるまでの15年間」にグローバル・リーダ
ーとなったアメリカの3人の大統領、ジョージ・H・W・ブ
ッシュ、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュについ
てのリーダーシップについての批判的考察であり、今後(次
期大統領以降に)訪れる第2のチャンスを生かさない限り第
3のチャンスは永久にめぐってこないとして、これからのア
メリカがグローバル・リーダとしてとるべき行動指針を提示
したものである。
http://tonegawa.net/asin/Book/4198624100/
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ブレジンスキーの近著「ブッシュが壊したアメリカ」