2009年09月25日

●「オバマケア/政権最大の政治危機」(EJ第2661号)

 オバマ大統領による医療保険改革――オバマケアの話を続けま
す。話に入る前に少し英語の勉強をしましょう。9月9日夜、オ
バマ大統領は、上下両院合同会議で演説し、国民に改革の意義を
訴えましたが、そのとき大統領は冒頭にこういったのです。
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 Well,the time for bickering is over. The time for games
 has passed .Now is the season for action.
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 大統領はこういったのです。「言い争うときは終わった。駆け
引きの時間は過ぎた。今こそ行動するときだ」と。演説上手な大
統領だけのことはあります。英語表現の勉強になります。
 オバマ大統領は、医療保険改革について選挙期間中から現在ま
で次のようにいってきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 無保険者を減らす一方で、医療費の膨張を抑制し、未来の世代
 に財政赤字のツケを残さず、医療の質を高める。
                     ――オバマ大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 いいことばかりです。これを見事な演説で訴えたら、誰でもオ
バマ・ファンになってしまうでしょう。まさに人気取りのための
美辞麗句といってよい。しかし、これを「政治的な幻想」という
人も多いのです。
 問題は、本当にそれを実現できるかどうかなのです。お金の面
から検証してみましょう。
 オバマ政権が考えていることは、現在のメディケイド――低所
得者医療保険制度の対象枠を広げて、民間保険会社への補助金を
増やすことで、無保険者を2007年の4700万人から、10
年後の2019年には1700万人に減らすという計画です。問
題はその財源をどうするかです。
 コストは10年で1兆ドルに達するのです。財政赤字は、23
90億ドルも増えるといいます。しかも、2009会計年度(2
008年10月〜09年9月)の財政赤字は、史上最悪の約1兆
8450億ドル(約177兆円)と、前年度の4倍になるとの見
通しなのです。赤字の国内総生産(GDP)比は13.1 %と、
前年度の3.2 %から跳ね上がっています。こんな財政の状況で
医療保険改革が果たしてできるのでしょうか。
 それでもオバマ大統領は、「医療保険改革であなたとあなたの
家族の負担は減る」と断言しているのです。だからこそ、議会演
説のときに、共和党議員から「うそつき!」といわれてしまうの
です。オバマ大統領はこうもいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 一番高価な医療ではなく、一番質の高い医療を提供するよう医
 師たちを奨励する。           ――オバマ大統領
―――――――――――――――――――――――――――――
 「一番高価な医療」ではなく「一番質の高い医療」と言葉を換
えていますが、表現が極めて抽象的です。一番質の高い医療を目
指すと、一番高価な医療になってしまうのが現実なのではないで
しょうか。
 オバマ大統領は「皆保険」の第一歩として、加入者を拡大させ
ようとしています。しかし、保険加入者が増えると、医療費が増
大するのです。
 医療費が増大すると、給与から引かれる保険料が上昇し、連邦
政府や州・地方自治体の提供するその他の公共サービスの予算が
圧迫されることになります。そのため、税金が上がり、財政赤字
が拡大することになります。
 オバマ大統領は、コストの問題にも言及はするものの、それに
懸命に取り組む気配はないようです。単に口先だけで、「コスト
抑制を口にしつつ、福祉を増大する」と相矛盾する実現困難なこ
とを強調するだけです。
 オバマ大統領は、医者や病院、製薬会社、医療機器メーカーな
ど主要な医療関係団体のトップをホワイトハウスに招き、コスト
の上昇曲線を抑えることで全員の意見の一致をみたといいます。
しかし、これは完全にパフォーマンスであるといえます。米国医
師会(AMA)や米病院協会が、全米80万人の医者や5700
の病院を制御できるはずがないからです。
 この医療保険改革については、デマも相当飛んでいるのです。
その代表的なものに「デス・パネル(死の審査会)」というもの
があります。この言葉を作ったのは、米大統領選で共和党マケイ
ン候補の副大統領候補になったサラ・ペイリン氏なのです。
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 オバマケア(オバマの公的保険制度)で、私の年老いた両親や
 ダウン症である私の子どもはデス・パネルにかけられるでしょ
 う。デス・パネルとは、その患者を生かすか殺すかを審議する
 委員会のこと。役人どもが、患者の社会における生産性によっ
 て医療費を出すべきかどうかを決めるです。こんなシステムは
 まったく邪悪です。     ――サラ・ペイリン氏のブログ
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、デス・パネルとは、「その患者を生かすか殺すかを審
議する委員会」のことなのです。
 しかし、これは完全にデマです。オバマ大統領の医療保険改革
案にはデス・パネルなど一切存在しないからです。むしろ、現行
の保険制度にそういう委員会的なものが存在するのであって、オ
バマ政権ではそれを改善しようとしているのです。
 こういうものを含めて米国の医療保険改革には前途に暗雲が立
ち込めています。反対者はますます増加し、オバマ政権の支持率
が大きく下がってきているのです。オバマ大統領はこういってい
ます。「歴史は明らかだ。改革が可決に近づくと、特別利益団体
があらゆる手段を使って抵抗してくる」と。いずれにせよ、オバ
マ政権は目下最大の政治危機を迎えています。
                ――[オバマの正体/51]


≪画像および関連情報≫
 ●米医療保険改革で打撃を受ける者は誰か
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  米下院が医療保険改革の財源を確保するために提案している
  増税によって、誰がどのような影響を受けるだろうか。ワシ
  ントンD.C.発―支持率が低下するなか、オバマ米大統領は
  自身が掲げる医療保険改革について説明するため、7月22
  日夜、ゴールデンタイムに記者会見を開く。米国の医療保険
  制度を今すぐ見直す必要があると国民に納得させるだけでも
  オバマ大統領は十分に苦心している。さらに、国民に加え、
  議会をも説得しなければならない。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090731/171399/
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オバマ大統領の医療保険改革の議会演説.jpg
オバマ大統領の医療保険改革の議会演説
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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