2009年09月24日

●「米国民が医療保険改革に反対する理由」(EJ第2660号)

 9月17日のロイター通信によると、オバマ米大統領は東欧の
MDの中止を正式に発表しています。
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 [ワシントン/17日ロイター]オバマ米大統領は17日、東
 欧でのミサイル防衛(MD)配備計画を取りやめ、イランの脅
 威に対抗するために、より強力で迅速な防衛システムを構築す
 る方針を発表した。大統領はポーランドに迎撃ミサイルを配備
 し、チェコにレーダー設備を建設する計画を破棄する考えを表
 明した。これによりロシアとの緊張が緩和する可能性があるが
 ロシアを脅威とする近隣諸国の懸念が高まる可能性もある。
             ――ヤフー!ニュース「海外」より
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 この問題は、9月7日のEJ第2650号で取り上げており、
オバマ大統領はきっと東欧のMD廃止に踏み切るであろうと予測
したのですが、その通りになったといえます。
 これに対して、米共和党のマケイン上院議員は、次のように懸
念を表明しています。
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 (防衛手段の)一方的破棄は深刻な誤りだったと確信する。イ
 ランの脅威が増大するなか、今は米国と同盟国の防衛を強化す
 る時だ。 ――2009.9.18付、日本経済新聞夕刊より
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 このオバマ大統領の決定は、日本の新聞では大きく取り上げら
れていませんが、日本にとっても深刻なことなのです。なぜなら
オバマ大統領は、中国が懸念するから、アジア太平洋地域でのミ
サイル防衛計画を変更するといい出しかねないからです。
 このように、オバマ大統領の外交政策や国内政策には種々の不
安が付きまとっており、現在、大統領が積極的に推進しようとし
ている医療保険制度改革についても大きな反対運動が巻き起こっ
ています。
 一般的な日本人の感覚からすれば、医療保険制度改革について
なぜ、米国民があれほどまでに反対するのか理解に苦しむ人も少
なくないと思います。そこで、この問題について考えてみます。
 2009年9月9日のことです。オバマ大統領は上下両院合同
会議で演説を行い、次のように訴えています。この時期に大統領
が議会で演説するのは異例のことです。
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 口げんかや、賛成派と反対派で応酬する時間は終わった。今こ
 そ行動する時だ。民主党と共和党が団結して最良のアイデアを
 示し、国民に我々の役割を示す時だ。医療保険制度改革を実現
 する時だ。        ――オバマ米大統領議会演説より
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 米国の医療保険制度は、日本のように国民皆保険ではなく、民
間の医療保険の比重が大きいのです。米国は国民医療保険制度の
ない唯一の先進国なのです。そのため、保険料が高額で払えない
ために約4600万人が医療保険に入っていない無保険の状態な
のです。そこで米民主党は、医療保険制度改革を行い、無保険の
人をなくすことなどを大きな政策の柱としてきたのです。
 しかし、共和党などの保守層を中心に政府が医療保険に関与す
ることに反対が根強く、改革をめぐっては国を二分する大論争に
発展しているのです。
 といっても、公的保険がまったくないわけではないのです。貧
困者と高齢者に対しては次の公的保険があります。
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  1.メデイケイド ・・・・・ 貧困層向けの公的保険
  2.メデイケ ア ・・・・・ 高齢層向けの公的保険
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 社会派ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア監督は、
2007年8月に映画『シッコ』を発表し、米国の医療保険制度
を痛烈に批判しています。
 といってもこの映画で中心に取り上げられているのは、無保険
者の話ではなく、ちゃんと普通に収入を得て医療保険に入ってい
る人たちの悲劇なのです。そこでは、いかに米国の保険会社がと
にかく考えつく限りの理由をつけて医療費を支払わないかをとこ
とん訴えているのです。
 映画では、冒頭、交通事故を起こして意識不明のまま救急車で
運ばれたことのある女性が登場します。そして彼女は次のように
話すのです。
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 事前に救急車を使うことを申告してなかったから、救急車の搬
 送費は保険でおりなかったの    ――映画『シッコ』より
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 米国では意識がなかろうが死にかけていようが、救急車を呼ぶ
前にまず保険会社に電話しなくてはいけない――そういう話がこ
れでもかこれでもかと出てくるのです。
 医療保険制度改革には、まず、製薬会社、病院、医療保険業界
と癒着している政治家、保険会社が絶対反対の立場を取ります。
それから、共和党を中心とする政治家が反対します。彼らは、オ
バマ大統領の主張する医療保険制度改革は「社会主義」と決めつ
け、小さくて効率的な政府を目指す共和党のポリシーと矛盾する
として反対するのです。
 一見すると、オバマ大統領の目指す医療保険制度改革は良い政
策のように感じます。しかし、オバマ大統領への反発ははげしく
なるばかりなのです。9月12日には、医療改革に対する大規模
抗議デモがワシントンで行われたのです。ホワイトハウスから連
邦議会へと数万人のデモ行進が行われたといわれます。
 しかし、デモに参加した人数はこんなものではないのです。あ
まりにも人数が多いので、新聞社は大幅に数を抑えて報道したと
いわれています。どうして、米国民はこのように医療保険改革に
反対するのでしょうか。     ――[オバマの正体/50]


≪画像および関連情報≫
 ●映画『シッコ』の感想/琥珀色の戯言より
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  国民健康保険のような国民皆保険制度がないアメリカでは、
  06年の統計で、就業していない成人の58%近くが、就業
  している成人でも23%近くが、健康保険を持っていないと
  いう結果が出ている。一方、親子3人で月額800ドルの健
  康保険料を支払っている我が家族(カリフォルニア在住)に
  しても、救急車に10分間乗っただけで1000ドルとられ
  たことがある。こんなケースはザラにあるから、「シッコ」
  の中でムーアが紹介するアメリカの医療現場での悲劇やホラ
  ー・ストーリーは、アメリカ人観客の多くにとって他人事で
  はないに違いない。
          http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20070826
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映画『シッコ』.jpg
映画『シッコ』
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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