2001年07月03日

ITのとらえ方で判断を誤ったエコノミスト(EJ650号)

 昨日の続きです。小泉内閣の目玉閣僚の一人である竹中平蔵経
済財政担当相の評点がなぜ第16位になってしまったかについて
その理由を述べる必要があると思います。
 最近になって竹中大臣に対する批判が多く出るようになってい
ます。東谷暁氏によるエコノミスト格付けもその一環かも知れま
せん。竹中氏は現在40歳、数あるエコノミストの中からの抜擢
であり、やっかみ半分のいろいろな雑音が聞こえてくるのは多少
はやむをえないと思いますが、東谷氏によって主張が首尾一貫し
ないと指摘されているのは問題があります。
 竹中氏の採点の詳細を見ると、「景気動向・対策」が−1点、
「IT革命論評価」が−2点なのです。景気動向に関してはベス
ト10に入っているエコノミストたちの評価は、全員+1であっ
てさすがと思わせますが、これはさておき、竹中大臣のIT革命
に関する発言はかなり大きなゆれがあるのです。
 1997年当時、竹中氏は、新時代到来と騒ぐ米国のニューエ
コノミー論に対して次のように批判していたのです。
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 『「新時代論」という楽観論が注目されるのは、80年代のア
メリカ経済に対する悲観論の反動・・・アメリカ経済に対する
 ポジティブ・フィードバックが永遠に続くと考えるのは誤りで
 ある』。(「エコノミスト」1997.9.16号)
 『従来とまったく異なった新しい次元、「ニューエコノミー」
 の時代を迎えたと考えるのは早計である』。(「ボイス」19
 98.10月号)
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 この主張はなかなか冷静に現実を見ており、竹中氏がこの主張
のままであったとしたら、間違いなくベスト10入りしていたは
ずなのです。しかし、2000年に入ってから竹中氏は、まるで
人が変わったようにIT論者に変貌してしまいます。
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 『IT革命の成果が現れだし、神風のように日本経済活性化の
 チャンスが訪れた。IT革命はいわば国民運動として展開され
 る必要がある』。(2000年9月2日付産経新聞)
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 確かに竹中氏は、森前総理と一緒に「IT国民運動」を主張し
ていたことは確かなのです。しかし、ITの現実はどうかという
と、米国の第一四半期生産性伸び率はマイナス0.1%(5月8
日米国発表)に急落して、ITによる生産性の継続上昇という説
も葬られているのです。そして、日本のITバブルが崩壊し、米
国でも90%のネット企業が破綻してしまっています。
 何のことはない。竹中氏が当初いっていたことが正しかったの
です。竹中氏は経済財政諮問会議のメンバーになって政治に足を
踏み入れることによって、従来の考え方を変節させてしまったの
ではないかと思われます。その点、ベスト第6位のドイツ証券武
者陵司株式調査部長は、冷静な分析により、ブーム最盛期の頃か
らITブーム崩壊の時期を的中させているのです。
 竹中氏だけではなく、ITの問題では従来の主張なり諸説を大
きく変節させた学者が少なくないのです。東谷氏が指摘している
のは、多摩大学教授の中谷巌氏です。
 中谷氏は米国の「ニューエコノミー」を「eエコノミー」と命
名し、「情報革命の本質は、取引コストが激減することである」
(「潮」2000年1月号)と分析、「問屋、小売店、代理店な
どの販売中間業者の多くは不要になってくる」(「週刊読売」2
000年1月23日号)と断言しているのです。
 東谷氏は、中谷氏が商社向けの本『IT革命と商社の未来像』
の編著者になっていることの矛盾を衝いています。なぜなら、商
社こそ中間業者そのものであるからです。しかも、同書の中で中
谷氏は「中抜きは簡単には起こらない」と今まで主張してきたこ
とを否定する趣旨のことを平気で書いています。これでは節操が
ないといわれても仕方がないと思います。
 エコノミストではありませんが、中谷氏と並んでITの推進論
者の1人、野口悠紀雄東京大学教授も変節論者の1人であると私
は思います。
 1995年にウインドウズ95が発売され、PCが一挙に普及
してブームになったとき、ウインドウズを批判し、素人ユーザに
対してワードよりもエディタの利用を勧め、インターネットなど
役に立たないとこき下したのです。
 しかし、その後インターネットが大幅に普及すると、手のひら
を返したように主張を改め、PCやインターネットの伝導師気取
りで多くの著作を出しています。「本を売るためだったら何でも
する人なんだな」という印象です。『超整理法』では感心したの
ですが、その後の言動を見ていると、ITを都合よく自分に取り
入れたなという感じで尊敬できません。
 東谷氏は、元大蔵省財務官、現慶応義塾大学教授の榊原英資氏
にもホコ先を向けているのです。榊原氏について私は、EJ19
9〜204号にわたって大批判を繰り広げたことがあるのです。
彼の大蔵省財務官としての力量に疑問を抱いたからです。
 東谷氏は、榊原氏がそのときときの状況に合わせて主張を変え
ていることを細かく厳しく指摘しています。榊原氏は「情報革命
が進んで米国は生産性が上がった」と論じ、「これにより従来の
経済学や経済分析はほとんど役に立たないことが現実の世界で起
こっている」とIT革命の経済上におけるインパクトを印象づけ
ようとしています。
 ところがITバブルが崩壊すると主張を一気にトーンダウンさ
せ、2001年3月号の「中央公論」では、「米国ではITで経
済界に楽観論が繁茂している」としたうえ、「単なるテクノロジ
信仰を革命と取り違えている」と米国の軽挙妄動を批判している
のです。彼はそういう人なのです。
 このようにエコノミストにはいろいろな人がいるのです。私は
毎日こういうエコノミストの話を非常によく聞いていますので、
東谷氏の評価は間違っていないと思います。

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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