発ともいわれています。ところで、どうしてパキスタンは核兵器
を持つようになったのでしょうか。
それは、1971年にインドとの戦争に敗れたからです。パキ
スタンは東隣りの大国インドと、北東部のカシミール地方の所属
を巡って激しく争っていたのです。
パキスタンはインドと1948年以来3度にわたる全面戦争を
行い、特に1971年の第3次印パ戦争では大敗したのです。そ
の結果、独立運動に呼応したインド軍の侵攻を受けた東パキスタ
ンをバングラデシュとして失うことになったのです。
インドは国も大きく、英国の統治時代から教育が行き届いてお
り、戦争は実に強いのです。第3次印パ戦争では、インド軍の落
下傘部隊が東パキスタンに奇襲攻撃をかけ、あっという間にパキ
スタン軍を圧倒し、占領してしまったのです。
パキスタンが核を持つことを考えたのは、この戦争に負けてか
らです。核兵器開発の中心になったのは、アブドゥル・カディー
ル・カーン博士です。カーン氏は1936年にインドで生まれ、
17歳のときにパキスタンに移住したのです。
なぜ、カーン氏は核兵器を開発できたのでしょうか。
カーン博士はオランダで原子物理学の博士号をとったあと、英
国とソビエトの諜報機関で働き、世界各国の核兵器の秘密を知る
ことができたのです。つまり、カーン博士はその秘密を盗んだこ
とになります。
カーン氏は、世界各国の核兵器に自らの技術を加えて核兵器を
作り、1998年には核実験を成功させています。そのため「パ
キスタンの核開発の父」と呼ばれます。しかし、カーン氏は自国
の核兵器の開発行うだけでなく、イラン、リビア、北朝鮮などに
核兵器製造の技術を密売し、核拡散を行った張本人です。核開発
技術を指導する見返りとして、現金やミサイルを手に入れ、パキ
スタンの軍事力向上に貢献したとされていますが、パキスタン政
府は関与を否定しています。カーン氏は身柄を一時拘束されまし
たが、現在は恩赦され、解放されています。
問題は、パキスタンの核兵器の管理は万全なのかどうかです。
結論からいうと、それはきわめて危険な状態にあるのです。情報
によると、核兵器はアフガニスタンに近いパキスタンの山岳地帯
にあるといわれています。ここにパキスタンの諜報機関の秘密基
地があるのです。しかし、そこの警備はそれほど厳重なものでは
なく、精鋭部隊を送り込めば核兵器を奪うことはそれほど困難で
はないと専門家はいっています。
現在、パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領は米国寄り
ですが、パキスタン軍の首脳はタリバーンやアルカーイダに近く
核兵器を保有している情報局戦略本部の幹部たちもタリバーンや
アルカーイダと親密だといわれています。
既に述べたように、アフガニスタンとパキスタンは2つの国な
のですが、両国に住む人たちは部族単位で行動しており、彼らに
とってはあくまで一つの国なのです。地域のことは、各部族の長
老が決定し、地域ごとに長老が司法、立法、行政の三種の長を兼
ねているのです。
したがって、彼らにとって国境線は関係なく往来が行われてい
るのです。アフガニスタンでタリバーンを攻撃すると、彼らはパ
キスタンの部族地域に逃げ込んでしまうのです。そうすると米軍
は手を出せなくなります。
ブッシュ前大統領は、スペシャルフォースを送り込んで、パキ
スタンの核兵器を米国が管理しようとしたことがあります。この
考え方はいささか乱暴ですが、核兵器がテロの手に渡ったときの
危険性を考えると理解できなくもありません。
しかし、オバマ大統領は、その核兵器のすぐ近くで戦争をはじ
めているのです。オバマ政権になってから、タリバーン掃討が進
んでいないのに業を煮やした米軍は、パキスタン政府に対して次
のように圧力をかけたのです。
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部族地域を制圧してタリバーンを掃討せよ!
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これに対してザルダリ大統領はやる気はないのですが、米国に
は逆らえないので、軍を部族地域に派遣し、形ばかりの「掃討作
戦」を展開したのです。2009年4月のことです。
これに対して部族地域の武装勢力――パキスタン・タリバーン
と呼ばれる――が反撃し、パキスタン国内で激しい戦闘が巻き起
こったのです。その結果、部族地域から多数の難民がパキスタン
各地に流れ出したのです。
パキスタンの人口は1億6000万人といわれますが、国内で
200万人の難民が発生するのは異常事態です。そういうわけで
現在パキスタン国内は混乱に陥っているのです。
現在、パキスタン国内にパキスタン・タリバーンが増加してい
るのです。もともとアフガニスタンのタリバーンは、アフガニス
タンからの難民に対し、パキスタンのイスラム原理主義者たちが
過激な思想で洗脳し、ISI(パキスタン軍情報部)が武器を与
えてアフガニスタン国内に送り返したことによってできたものな
のです。
どうしてこんなことをしたのかというと、アフガニスタンに自
国寄りの政権を樹立させようとしたのです。この工作は成功し、
タリバーンは2001年に米軍が攻撃をするまで、アフガニスタ
ンの大部分を統治していたのです。
しかし、アフガニスタンに米軍が介入し、攻勢を強めると、タ
リバーンはパキスタンに逆流し、パキスタン・タリバーンとして
勢力を強めるようになったのです。
パキスタン軍とパキスタン・タリバーンとの戦闘は現在も続い
ており、パキスタンの核兵器は非常に危険な状況になっているの
ですが、米軍はパキスタン政府に圧力をかけるしか、手がない状
況なのです。 ――[オバマの正体/44]
≪画像および関連情報≫
●「ミスター10%」が統治するパキスタン
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現在国際社会は、パキスタン政府支援に乗り出している。世
界31ヶ国が支援策を検討し、合計で50億ドル(4750
億円)もの巨額援助を決めている。しかし、この巨額資金が
果たして本当にタリバーン対策に使われるか、その保証はな
い状況である。現在のザルダリ大統領は、かつて閣僚時代、
あらゆる国の契約に口を出し、1割の金額を要求して「ミス
ター10%」と呼ばれた人物。日本を含めた国際社会は、タ
リバーンや核の行方と共に、援助資金の行方にも気を配らな
ければならないのである。――「週刊ポスト」9月11日号
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