立って考えると、かなり内向きの大統領であることはここまで指
摘してきています。ところが、その肝心な米国民のオバマ大統領
の支持が、大統領就任から7カ月しか経っていないのに、大幅に
下落してきているのです。以下、古森義久氏の「時評コラム」を
ベースにして支持率の現況をご紹介することにします。
ラスムセン社の8月23日発表の全米世論調査によると、オバ
マ大統領の支持、不支持は次のようになっています。
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支 持 ・・・・・・・ 48%
不支持 ・・・・・・・ 51%
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また、オバマ大統領の職務執行ぶりに対する評価について聞い
た結果は次のようになっています。
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強い支 持 ・・・・・ 27%
強い不支持 ・・・・・ 41%
―――――――――――――――――――――――――――――
大統領就任時から春ごろまでは70%の支持率を誇っていたに
もかかわらず、支持率が22%もダウンし、不支持が支持を上回
るという厳しい結果になっています。また、オバマ大統領の仕事
ぶりについても、「強い不支持」が「強い支持」を14%も上回
るという結果になっているのです。
どうして、こんなにオバマ政権の支持率が下がったのでしょう
か。その原因を探ってみます。
第1にオバマ政権の「経済政策」があります。
ギャロップ社の世論調査によると、57%の米国民がオバマ政
権の7870億ドルに及ぶ経済刺激策が、実際の経済には影響が
あるどころか経済を悪化させていると答えています。60%がオ
バマ大統領の経済刺激策は数年後をみても米国経済を改善すると
は思わない」と回答しているのです。これは、国民の半分以上の
人が、オバマ政権の経済政策に対して不信任表明をしたことを意
味しています。
第2に「アフガニスタンでの対テロ戦争」があります。
ワシントンポスト紙の世論調査によると、アフガニスタンでの
対テロ戦争に対して次の評価をしているのです。
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価値がある ・・・・・ 47%
価値がない ・・・・・ 51%
―――――――――――――――――――――――――――――
しかし、巨大な経済対策は未曽有の金融恐慌に対するものであ
り、ブッシュ前大統領から引き継いだものともいえるのです。ア
フガニスタンの戦争にしても前政権の残した負の遺産ともいえる
のです。必ずしもオバマ大統領だけが責められるべきものではな
いはずです。
それでは、どうしてこれほど支持率が下がったのかというと、
もうひとつ大きなものがあるのです。それが次のポイントです。
第3に「医療保険改革」があるのです。
オバマ大統領に対して、激しい非難や反対の声が目立つように
なったのは、オバマ政権が今年5月ごろから議会を主舞台に本格
的にスタートさせた包括的な医療保険改革の立法措置にその原因
があります。
米民主党にとって医療保険改革はもっとも成立させたい政策な
のです。同じ民主党のビル・クリントン政権が、発足当時の19
93年、大統領夫人であったヒラリー・クリントン女史が必死に
なって、推進しようとした政治目標が医療保険改革なのです。し
かし、それは失敗に終わっているのです。
国民皆保険制度のある日本人からすると、米国民は医療保険改
革になぜ反対なのかは理解しにくい面があると思います。しかし
医療保険制度は巨額の政府資金を投入することが前提となる改革
です。つまり、大きな政府の究極ともいえる制度作りが必要にな
るのです。そこに多くの米国民は反対なのです。
オバマ政権は、医療保険改革への一般の支持を広げるために全
米各地で「町の討論会」――日本でいう草の根集会、車座集会を
全米各地で開催したのですが、その集会でも激しい反対の声が出
るようになったのです。
8月18日に発表されたNBCテレビの世論調査では、医療改
革について国民の支持が次のようになったのです。
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医療保険改革に賛成する ・・・ 41%
医療保険改革に反対する ・・・ 47%
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このように、米国では政府が国民の医療や健康保持に巨額の公
的資金を投入して全面介入することについては、伝統的に根強い
抵抗があるのです。
これは、別に医療問題に限らないのです。今年1月のビュー調
査センターの世論調査では、深刻な経済危機に対する政府支出に
対しても、次の結果が出ているのです。
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政府は国民の経済を傷つける ・・・・・ 50%
政府は国民の経済を救済する ・・・・・ 39%
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これはオバマ政権がGMやAIGという大企業を事実上国営化
してしまったことに対して怒りを覚えているのです。つまり、米
国民は自分たちの政府が民間企業の救済に巨額の公的資金を注ぎ
込むことには反対なのです。しかも、それによって必ずしも経済
はよくなっていない――そう考えているのです。
そういう状況のときに、さらに巨額の公的資金を入れることに
なる国民皆医療保険には「大きな政府」になり過ぎるとして反対
なのです。 ――[オバマの正体/41]
≪画像および関連情報≫
●米医療保険改革法案
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ワシントンD.C.発―支持率が低下するなか、オバマ米大
統領は自身が掲げる医療保険改革について説明するため、7
月22日夜、ゴールデンタイムに記者会見を開く。米国の医
療保険制度を今すぐ見直す必要があると国民に納得させるだ
けでも、オバマ大統領は十分に苦心している。さらに、国民
に加え、議会をも説得しなければならない。米上院は未だに
医療保険改革の財源を確保できずにおり、医療保険改革法案
が8月の議会休会入り前に可決するのは厳しい状況となって
いる。上院で法案が可決されるまで、下院が先週可決した評
判の芳しくない法案がオバマ大統領の医療保険改革法案とな
る。 ――BPネット
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090731/171399/
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支持率が急落したオバマ大統領