2009年09月07日

●「ミサイル防衛計画の見直しもあり得る」(EJ第2650号)

 オバマ大統領が何となく不安視されるのは、彼が米大統領とし
ては珍しく内向きな政治家であるということです。それは国際的
な経験がまったくないことからきています。
 それでは国内政治はどうかというと、イリノイ州議会議員を経
て上院議員になったのですが、実績は何もないのです。米上院外
交委員会に属してNATO小委員会の委員長に就任したのですが
一回も公聴会を開いていないのです。
 そういう国際経験がないところから、オバマ大統領の外交にお
ける発言はきわめて曖昧なところがあり、そのため弱腰の外交姿
勢といわれるのです。その例を東ヨーロッパのミサイル防衛計画
に見ることができます。
 日高義樹氏の本に、東ヨーロッパのミサイル防衛計画について
次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 オバマ大統領の弱腰の外交政策は、東ヨーロッパに展開したミ
 サイル防衛システムを壊してしまったことに象徴されている。
 ブッシュ前大統領はイギリスなどの要請もあり、チェコとポー
 ランドの国境にミサイル防衛ミサイルのためのレーダー基地と
 ミサイルサイトを建設したが、オバマ大統領はロシアから強い
 抗議を受けて、施設をとり壊してしまったのである。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 東ヨーロッパのミサイル防衛計画とは何でしょうか。
 冷戦が終わると、ポーランドやチェコはソビエトから離脱して
NATOに加盟したのです。この動きは東ヨーロッパの国々に波
及して、NATOは拡大に向かっています。
 これに危機感をつのらせたロシアは、場合によっては軍事力を
使ってでもその動きを止めようと考えたのです。それは具体的に
はミサイル網を作り、その脅威で東欧の国々をおさえようとした
のです。ブッシュ前大統領はそういうロシアの軍事力を封じ込め
るために、チェコとポーランドの国境地帯にミサイル網を設置す
るべく工事を開始したのです。これによってロシアは態度を硬化
させ、ブッシュ前大統領とプーチン大統領の仲は、決定的に悪く
なったのです。
 ところがオバマ政権になると、この問題がかなり曖昧になって
きたのです。この問題に関するオバマ大統領の発言がフラフラし
はじめたからです。
 日高義樹氏は「オバマ大統領はロシアから強い抗議を受けて、
施設をとり壊してしまった」と書いていますが、私の調べた限り
では、日高氏の本の出版日の6月30日時点ではそこまでは進ん
でいないはずです。日高氏の所属するハドソン研究所が独自の情
報によってそう判断した可能性があります。
 オバマ大統領は、2009年4月5日のプラハでの演説におい
て、東ヨーロッパのミサイル防衛計画(MD)に言及し、「イラ
ンからの脅威が続く限り」という条件付きでMDを進めると述べ
ています。しかし、「イランの脅威が消えたならば」その必要は
ないともいっているのです。曖昧な表現です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これははっきりさせておきます。イランの核と弾道ミサイルの
 (開発)行為は米国だけでなく、イランの隣国やわれわれの同
 盟国に対して真の脅威をもたらしています。チェコ共和国とポ
 ーランドはこうしたミサイルの防衛(システム)を迎え入れる
 合意をし、勇敢でありました。イランからの脅威が続く限り、
 私たちは費用対効果があり、(能力も)証明されたミサイル防
 衛システムを進めます。(拍手)イランの脅威が消えたならば
 安全保障のより強い基礎ができ、欧州でミサイル防衛を築く理
 由はなくなります。(拍手)
            ――オバマ米大統領のプラハ演説より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところが、2009年8月28日付の「アサヒ・コム」の国際
ニュースは、「米国がMD計画を断念?ポーランド紙が報道」と
いうタイトルで次のように報じているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【モスクワ=副島英樹】ワルシャワ発のイタル・タス通信によ
 ると、ポーランドのトリブナ紙は27日、米国のオバマ政権は
 すでに、ポーランドに迎撃ミサイル、チェコにレーダーを配備
 する東欧ミサイル防衛(MD)計画の可能性を考えていない、
 と報じた。同紙はオバマ大統領はブッシュ前政権が進めたMD
 計画には熱心でないと指摘。システムの有効性への疑問や、金
 融危機対策を迫られる中での膨大な配備費用、ロシアの反発な
 どによって、オバマ大統領がMD計画への疑念を深めていると
 している。ロンドン発のタス通信は同日、MD配備は東欧では
 なく、イスラエルやトルコ、バルカンに拠点を移す可能性のほ
 か、陸上配備から海上配備に変える選択肢もある、と伝えてい
 る。一方、米国務省のクローリー次官補は27日の記者会見で
 ポーランド紙の報道について「不正確だ。ミサイル防衛戦略の
 見直し作業は進行中でまだ完了していない」とコメントした。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この報道にもあるように、オバマ政権が「ミサイル防衛戦略の
見直し作業」をしていることは事実なのです。これと同じ論法で
米国側が「中国が懸念を示すからアジア太平洋地域でミサイル防
衛はやめる」と言い出す可能性も十分あり得るのです。
 このように、米国に安全保障をすべて委ねていることには不安
は大きいのです。オバマ大統領は米国が犠牲になって世界の国々
のために働くのは米国の国益に反すると思っているのです。
 日高氏は「オバマ大統領とその政権の下では米国の行動はきわ
めて不透明である」といっています。まして親中国の政権であり
米国は中国に依存せざるを得なくなっている――そのことを日本
人は十分認識すべきです。    ――[オバマの正体/40]


≪画像および関連情報≫
 ●オバマ大統領誕生の日にロシアは駆け引きを開始
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ロシアのメドベージェフ大統領は、新ミサイル「イスカンデ
  ル」を配備すると表明。アメリカにバラク・オバマ新大統領
  が誕生した歴史的な日にロシア政府が挑発的な動きに出た。
  ロシアのメドベージェフ大統領は、東ヨーロッパにおけるア
  メリカのミサイル防衛計画に対抗するため、新型ミサイルを
  配備すると表明した。アメリカの新たな門出となった日、ロ
  シアでは、メドベージェフ大統領が年次教書演説で「必要と
  あれば、MDシステム無力化のため、カリーニングラードに
  ミサイルシステム『イスカンデル』を配備する」と述べた。
  メドベージェフ大統領は、アメリカとの関係悪化を象徴する
  かのように、新たなミサイルの配備を発表した。
   http://blog.livedoor.jp/jr6jzz/archives/51296804.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

オバマ大統領のプラハ演説.jpg
オバマ大統領のプラハ演説
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(1) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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