2009年08月28日

●「日本はミニマム・ディテランスを構築せよ」(EJ第2644号)

 伊藤貫氏の論文の紹介は今回で終了です。第7の理由は「『米
の核持ち込み』では真の核抑止力とはならない」ということにつ
いて考えてみます。
 「核の傘」というものを確実なものにするために、米国の同盟
国が自国に米国の核を持ち込めばよいと主張する人がいます。か
つて西ドイツは、1980年代に米軍のパーシングU核ミサイル
を国内に持ち込むことを許しています。
 しかし、日本には「非核3原則」があるので、建前では米軍の
核は持ち込めないことになっています。しかし、仮に日本が西ド
イツと同じようにそうしたとしても、有事になると、本当に「核
の傘」は機能しないと思います。
 それは、EJ第2642号で述べた理由によって「核の傘」は
機能しないのです。優秀な国際政治学者であるハンティントン教
授らも次のようにいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国本土が直接、攻撃されない限り、アメリカの大統領はけっ
 して核戦争を実行したりしない。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 また、米軍と日本の自衛隊が共同で核を運用する「ニュークリ
ア・シェアリング」という構想もありますが、これも現実的な案
ではないのです。たとえどこかの国から日本が核攻撃を受けたと
しても、米大統領は自衛隊に自国の核ミサイルの使用を許可する
はずがないからです。
 日本が実際に核攻撃されるという事態になってみないと米国が
本当に守ってくれるかどうかわからないのですが、何となく今ま
で「核の傘」で安心を得てきたのです。しかし、それは大いなる
虚構に過ぎないのです。これについて伊藤貫氏は次のようにいっ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカ人は非常に打算的な国民である。彼らは、自分たちを
 犠牲にしてまで「核の傘」の保障行為を実行するようなお人好
 しではない。『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 最後の第8の理由「日本のミニマム・ディテランス構築で、問
題は解決」について考えます。これが伊藤氏の結論です。
 結局、「核の傘」というのは虚構であり、日本の真の安全保障
にはならないというのが、今までの7つの理由で明らかになって
きています。
 残る道はひとつしかないのです。日本は専守防衛のために最小
必要限の核を持って、ミニマム・ディテランスを構築すべきであ
る――これが伊藤貫氏の結論なのです。
 日本が核を持つということはタブーになっています。持つべき
か持たざるべきかという検討すらしてはならない――日本国内で
はそういわれています。しかし、核保有国がどんどん増えるなか
在日米軍が日本から撤退しようとしているのです。それは中国の
核ミサイルの脅威が現実のものになっているからです。
 しかし、日本列島は移動できないのです。日本人は自分の力で
自分の国を守らなければならないのです。そのために日本は何を
するべきでしょうか。伊藤氏は、次のようなミニマム・ディテラ
ンスを構築すべきであるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本に必要なミニマム・ディテランス(必要最小限の自主的核
 抑止力)とは、潜水艦に搭載しておく約200基の巡航核ミサ
 イルだけである。現在16隻ある海上自衛隊の潜水艦の数を倍
 にし、それらの潜水艦にそれぞれ5〜10基程度の巡航核ミサ
 イルを搭載しておくだけで、十分な日本の核抑止力となる。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ひとくちに「核兵器」といっても、次の3種類があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.地 上から発射する核ミサイル
      2.戦略爆撃機から発射する核弾頭
      3.潜水艦から発射する核ミサイル
―――――――――――――――――――――――――――――
 1と2は、専守防衛の日本には不要です。とくに1があると、
かえって攻撃を受けやすいことになって危険です。そこで残るの
は、3ということになります。
 潜水艦を30隻以上にし、それらの潜水艦に5〜10基程度の
巡航核ミサイルを搭載するだけです。この程度であれば、日本は
GDPの0.2 %程度の予算で十分です。戦争をするための軍備
ではないので、米露中のように核ミサイルの増産競争をする必要
はないのです。伊藤貫氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮に中国が日本に1万発の核弾頭を撃ち込んだ場合にも、日本
 はそれに対する報復核攻撃として、100以上の中国の最重要
 都市を核消滅させる能力を維持するからである。中国の指導者
 にとって、そのような戦争はワリに合う戦争だろうか。100
 以上の最重要都市を核消滅された中国政府は「われわれは核戦
 争に勝った!」と叫ぶだろうか。日本に対して核戦争を実行す
 れば、実行国も敗者となる。日本が約200基の巡航核ミサイ
 ルをもてば、抑止力として十分機能するのである。「核兵器は
 戦争を抑止するためにもつ兵器であり、実際の戦争で使うため
 の兵器ではないからである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
―――――――――――――――――――――――――――――
               ―――[オバマの正体/34]


≪画像および関連情報≫
 ●伊藤貫氏の「日本核武装論」の補足
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本は戦争を放棄している国であるのに通常兵器は数多く保
  有している。しかし、それは戦争をするための兵器ではなく
  専守防衛のために必要な兵器であるという。そういう理屈が
  通るならば、専守防衛のために核を持っても良いということ
  にならないだろうか。まして、通常兵器は使われる可能性は
  低くないが、核が使われることはあり得ない。核を使えば自
  らも滅ぶからである。日本は唯一の核の被爆国であるから核
  を持つべきではないという理屈は、核を持っているとそれを
  使って戦争をする可能性があるからであろう。しかし、核は
  結局は使えないのであるる。持っているだけで他の国は戦争
  をすることを躊躇うからである。それに専守防衛のためであ
  れば、核は最もコストの安い防衛兵器なのである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

潜水艦から発射される核ミサイル.jpg
潜水艦から発射される核ミサイル
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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