2009年08月27日

●「NPT条約を守らない核保有国」(EJ第2643号)

 伊藤貫氏の論文の続きです。第5の理由は「オバマ大統領がい
う『核兵器の廃絶』」は絶対不可能」ということについて考えて
みることにします。
 2009年7月6日、オバマ米大統領とメドベージェフ露大統
領はモスクワで会見し、米国とロシアが実戦配備している核弾頭
の数を2000発から1675発に減らすことで合意に達してい
ます。こういう動きを日本のマスコミは、すぐ安易に歓迎して次
のように報道するのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米露両国が実戦配備している核軍縮へ向かって踏み出した。オ
 バマ大統領が「核兵器廃絶」のため努力している。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この米国とロシアの合意は「核兵器廃絶」の努力と呼
べるようなものではぜんぜんないのです。なぜなら、これによっ
て両国の核兵器の数は一発も減らないからです。
 実戦配備している戦略爆撃機やミサイルには、即座に使えるよ
う核弾頭が搭載されています。今回の合意はその核弾頭を325
発外して格納庫にしまうだけのことなのです。それらの核弾頭は
必要になれば数時間以内に装備して使うことができるのです。
 核兵器は一度作ってしまうと簡単には廃棄できないことは理解
できますが、それなら、せめて新しい核弾頭を作らないという合
意をすべきです。それなら、核兵器は減らないまでも増えないこ
とになるので、核廃絶に向けての第一歩になるという評価が得ら
れるのですが、これは絶対にやらないでしょう。
 なぜなら、米露両国は、新しい核弾頭を生産するための技術研
究所や生産施設を増設しているからです。核兵器の生産をやめる
気などさらさらないのです。この状況を放置して、いくら「核廃
絶」を訴えてもパフォーマンスそのものです。現にオバマ大統領
は自分が生きているうちには実現しないだろうといっているので
す。まだ若い大統領ですから、本当に核を廃絶する気が少しでも
あるなら、せめて自分が生きているうちに核廃絶の実現に努力す
るぐらいの宣言をするべきです。
 もうひとつ、クリントン、ブッシュ両政権の核政策によると、
「アメリカは非核保有国に対して、先制核攻撃をかける権利を保
有する」と宣言しているのですが、オバマ政権もこの核政策を変
えていないことがあります。つまり、オバマ大統領は、いってい
ることとやっていることは、まるで違うのです。
 しかし、この米国の核政策はきわめておかしな話です。核保有
国に対してそのように宣言するならともかく、核を持っていない
国に核の先制攻撃を仕掛けるというのですから、これはまるで核
恫喝そのものです。既に核を保有する国には何もせず、核を持た
ない国には恫喝によって核の拡散を防ごうとしているのです。伊
藤貫氏はこれについて次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「非核国に対して先制核攻撃をかける権利と能力を維持する」
 と明言する国が「核兵器廃絶」へ向けてのグローバル・リーダ
 ーシップを執っても、そんな「反核外交」を本気にするのは、
 ナイーヴな日本人だけである。外務省とオバマ大統領が主張し
 ている「核兵器の廃絶」は、実現性ゼロなのである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 続いて、第6の理由「米国自身がNPT違反の核政策を長く実
行している」について考えることにします。
 NPT(核不拡散条約)が締結されたのは、1968年のこと
です。NPTの実現に尽力したのは、今年の7月6日に亡くなっ
たマクナマラ元米国防長官ですが、現在のNPTは、核保有国、
とくに米露が条約違反を繰り返している現状にあります。
 NPTは、非核保有国の核武装を禁止する代わりに、その第6
条において、核保有国が「核兵器の廃絶」を約束する内容になっ
ているのです。
 しかし、核保有国――とくに米露は、大規模な核兵器増産を続
け、最初からこの第6条を無視してきたのです。これについて、
マクナマラ元米国防長官は次のように慨嘆したといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカのNPTに対する態度は、たんに条約違反であるだけ
 でなく、不道徳なものだ。   ――マクナマラ元米国防長官
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、武器を持っている者が武器を持っていない者に呼びか
けて協定を結び武器を持たせないようにする――しかし、そうし
ておいて武器保有者はどんどん武器を増産して、ますます武力を
強化するという構図であり、不公平もいいところです。
 米国は、中国・ロシア・北朝鮮が日本をターゲットとする核ミ
サイルを増産することを許しておきながら、日本に対しては核を
持たせないよう今まで日本に圧力をかけてきたのです。
 伊藤貫氏の言を借りると、もし、日本が核を持つなら、日米同
盟を解消し、日本をNPT違反国として世界中に宣伝し、国際社
会でを孤立させるといって脅してきたのです。これは「日本を永
遠に劣等な立場に置いておくためのシステム」そのものであると
伊藤貫氏はいうのです。
 冷戦の最中に米国は、非核3原則のある日本に核兵器を持ち込
むためにいろいろな手を講じたことが最近わかってきています。
この米国の意図からも明らかなように、本当に東アジアの安全保
障を確立しようと思うなら、日本自体が核を持つこともひとつの
選択肢として考えるべきところにきている、と伊藤貫氏は主張し
ているのです。        ―――[オバマの正体/33]


≪画像および関連情報≫
 ●伊藤貫氏による主張/偽善と欺瞞のNTP体制
  ―――――――――――――――――――――――――――
  公的には、日本とアメリカは「価値観を共有する、信頼感に
  満ちた頼もしい同盟関係」ということになっている。しかし
  不思議なことにアメリカ政府は、「価値観を共有しない」一
  党独裁国・中朝露3国の核ミサイル増産を容認(黙認)し、
  「価値観を共有」しているはずの日本は、「永遠に劣等な立
  場」に置いておきたいのである。このような偽善と欺瞞に満
  ちたNPT体制によって、金縛りに遭っている日本人は、ピ
  エロである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
  ―――――――――――――――――――――――――――

ケネディ大統領とマクナマラ長官.jpg
ケネディ大統領とマクナマラ長官
posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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