2009年08月26日

●「『核の傘』は役に立つのか」(EJ第2642号)

 伊藤貫氏の論文の続きです。第3の理由は「米政府が提供する
『核の傘』では、日本を守れない」です。
 「核の傘」とは一体何でしょうか。
 日本は米国の「核の傘」に守られている――日本人の多くはそ
う考えています。「核の傘」とは、ある核保有国が日本に対して
核恫喝をしたり、実際に核攻撃をしてきたとします。そういうと
きに日米安保条約にしたがって米軍は、その相手国に対し、日本
に代わって報復の核攻撃をする――だから核保有国は日本を核攻
撃をしてこないという理屈です。
 この理屈は「ある条件のもとではあり得る」でしょうが、それ
以外ではフィクションに過ぎないのです。具体的にいうと、中国
かロシアが実際に日本に核攻撃をしてきたとします。そういうと
き米国は中国やロシアと核戦争をするでしょうか。これについて
伊藤貫氏は次のようにいうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米軍高官には、「アメリカが中露と核ミサイルの撃ち合いをや
 れば、アメリカの核戦力は中露の核戦力を圧倒できる。だから
 『核の傘』は機能している」と主張する者がいる。このような
 考え方を「カウンターフォース戦略」とか「エスカレーション
 ・ドミナンス戦略」とかいう。しかし、米軍幹部が何といおう
 とアメリカ大統領は「数百〜数千基の核ミサイルを撃ち合って
 どちらが優勢になるかを決める」などという核戦争は、絶対に
 実行しないだろう。そんなことをやれば、一億人以上の米国民
 が死んでしまう。「カウンターフォース戦略」とは、絵に描い
 た餅なのである。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 どう考えても、日本が核攻撃されたからといって、中国やロシ
アと米国が報復の核戦争をやるはずはないのです。これが核でな
いミサイル攻撃なら別ですが、核戦争をやれば米国自体、いや地
球全体が滅んでしまいかねないからです。それに米国にとっては
自国が攻撃されたわけではなく、日米安保条約があるとはいえ、
しょせんは他の国の話なのです。そのため、自国を崩壊させるリ
スクを冒すとは思えないのです。
 もし、核攻撃をする国が、絶対に核報復を受けないところまで
読んで、核攻撃をしてきたらどうなるかです。この場合、自らは
核兵器を持たず、どこかの国の「核の傘」に入っていると思って
いる国――そういう国が最も危ないという理屈になります。
 ここで、冒頭で述べた「ある条件のもとではあり得る」を思い
出していただきたいのです。ここでいう「ある条件」とは、その
国が核兵器を持っているということなのです。
 もし、核保有国が攻撃されたとすると、核による報復攻撃は十
分あり得るのです。どこかの国の「核の傘」に入っている国とは
違うのです。自ら報復攻撃ができる能力がある国が、他の国から
核攻撃をされたらそれはやり返すでしょう。だから、核保有国に
は核攻撃、いや通常兵器による攻撃も控えるでしょう。すなわち
「戦争しない」ということです。これが核抑止です。
 8月15日に放映されたNHKの『日本の、これから「核」』
には、核保有国のインドとパキスタンの民間人も出席していたの
です。彼らがいうのは、あれほど血みどろの戦いをしていた両国
が、お互いに核を持った瞬間にあらゆる戦闘行為をやめてしまっ
たのです。つまり、皮肉なことに、「核」が「平和」をもたらし
たことになるのです。
 続いて第4の理由「MDシステムでは、中朝露からの核攻撃を
防げない」について考えます。
 現在の米軍のMD――ミサイル防衛システムでは、中国やロシ
アや北朝鮮からのミサイル攻撃を防ぐことは困難であると伊藤貫
氏はいいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 多数の弾道核ミサイルを同時に発射する、米軍の軍事衛星をミ
 サイルやレーザー兵器で破壊もしくは麻痔させる、一基のミサ
 イルに数十のデコイ(おとり)弾頭を載せて迎撃ミサイルを混
 乱させる、等々の方法によってMDシステムを無効化できる。
 北朝鮮は自衛隊のMDシステムの上空で核ミサイルを爆発させ
 ることにより強烈な電磁波を発生させ、MDシステムのレーダ
 ー、センサー、通信機器、コンピューター網を麻痺させること
 ができる。また北朝鮮は米軍衛星の近くで核爆発を起こさせる
 ことにより、多数の衛星を同時に破壊もしくは無能化すること
 ができる。
     ――『Voice/2009年9月号/第381号』
                     伊藤貫氏論文より
―――――――――――――――――――――――――――――
 米第七艦隊はすべてを衛星に頼っているのです。通信衛星が機
能しなくなれば、旗艦「ブルー・リッジ」と空母機動部隊、駆逐
艦隊との通信ができなくなるのです。そこを中朝露は衝いてくる
ことは確実であり、これらの3国は既にそういう技術を持ってい
るのです。
 MDシステムは構築に巨額の費用がかかります。しかし、それ
を防御するシステムを作るのには、あまりコストがかからないの
です。例えば、巡航核ミサイルがあります。これは小型の漁船、
貨物船、商業飛行機からも発射できる核ミサイルなのです。低空
を自由に航路を変更しながら、飛行するため、MDシステムで捕
捉することがほとんど不可能です。これではMDシステムは割に
合わないシステムであるということができます。
 「核の傘」も「MDシステム」もダメということになると、日
本はどのようにして自分の国を守ったら良いのでしょうか。結局
自分の国は自分の国の力で守る――それしかないことははじめか
ら明らかなことなのです。これはどこの国でも常識であるはずで
すが、日本は違うようです。  ―――[オバマの正体/32]


≪画像および関連情報≫
 ●NHK『日本の、これから「核」』に関するブログ
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  ・「核は恐い」は個人の感情だ。しかし、責任ある政治はそ
   の恐怖と向き合い、現実の外交を戦っていかなければなら
   ない。「戦争反対」の声に押されたチェンバレン英首相が
   ヒトラーの台頭を抑えきれなかったことを想起しつつ、現
   在の日本は北朝鮮や中国との外交を真剣に考えていく必要
   があると感じた。
  ・冷戦期の反核運動は、コミンテルン――スターリンの指示
   によって始まった。言われてみれば、確かにスターリン当
   時の東西の軍事バランスは、核戦力は西側優勢、通常戦力
   は東側優勢だった。そういう中で世界が反核に動けばソビ
   エトにとって有利となる構造だったわけだ。原爆忌の広島
   で北朝鮮や中核を擁護するデモ隊が行進するというのもこ
   れを裏付けている。
      http://taro-iseki.blog.so-net.ne.jp/2009-08-16
  ―――――――――――――――――――――――――――

『日本の、これから「核」』.jpg
『日本の、これから「核」』
posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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