・政治力が、東アジアから撤退」について考えます。
既にここまでの検討において、少なくとも在日米軍基地からは
米空軍と海兵隊がグアムやハワイに撤退することについては指摘
しています。中国のミサイル攻撃に対処するための措置というの
がその表向きの理由です。しかし、世界最強の第七艦隊は神奈川
県の横須賀海軍基地に健在であるし、韓国には米陸軍を主力とす
る在韓米軍がいます。
ここで、第七艦隊について述べておく必要があります。かつて
民主党の小沢代表代行が「米海兵隊はいらない。第七艦隊だけで
十分」といって物議を醸しましたが、どれほどの日本人が第七艦
隊について知っているでしょうか。とにかく日本人は軍事につい
て疎いと思います。しかし、小沢氏にいわれるまでもなく、米国
は海兵隊のグアム移転を決めているのです。
さて、第七艦隊というのは、東経160度線以東の東太平洋を
担当海域とする第三艦隊とともに米太平洋艦隊を構成しているの
です。旗艦――司令部は、横須賀海軍基地を母校とする「ブルー
・リッジ」上にあります。旗艦には、海軍中将が座乗することに
なっています。現在の司令官は、ジョン・ミラー・バード海軍中
将です。横須賀を中心として、長崎県佐世保市、沖縄県、韓国の
釜山、浦項、鎮海、シンガポールなどに基地を展開しています。
航空母艦――原子力空母は「ジョージ・ワシントン」を主力艦
とし、50〜60の艦船、350機の航空機を擁しており、水兵
は平時2万人、戦時には6万人が動員されます。
なお、日本に関係のある米軍についての知識を得るのに、一番
手っとり早いのは次の番組です。2週間に1回ぐらいですが、か
なり内容のあるレポートを提供してくれます。日高義樹氏が直接
米軍の司令官や米国の要人に質問したり、実際に日高氏が原子力
潜水艦に乗ってリポートしたりします。確か6月だったと思いま
すが、第七艦隊の旗艦「ブルー・リッジ」に乗船してのリポート
もあったのです。
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日高義樹のワシントン・リポート/テレビ東京
日曜/16時00分〜17時15分
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これだけの米兵力が東アジアに展開していることの重みは大変
なものであり、これでは中国や北朝鮮はちょっと手が出せないの
です。しかし、北朝鮮が実戦で使用可能な核兵器を持つことにな
ると、朝鮮半島に緊急事態が生じたときは、第七艦隊は北朝鮮の
ミサイル攻撃を避けて、はるか洋上に避難する体制をとるという
のです。このように、日米安保条約は完全に空洞化してしまって
いるといえます。
伊藤貫氏の論文ではもっと重要なことが指摘されています。米
軍がこのように自国の防衛のためではなく、その国益のために世
界中に軍隊を展開するには当然のことですが、膨大なお金がかか
ります。米経済がしっかりしているときはいいのですが、現在米
経済は大ピンチなのです。
今年の米国の財政赤字はGDP比13%程度なのです。米経済
の見通しについては楽観論と悲観論がありますが、楽観論であっ
ても毎年GDP比5%以上の財政赤字が続くといわれています。
米国で最も優秀な投資家であるウォレン・パフェット氏は、米
経済について、次のように予測しています。
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2016年以降のある時点で、深刻な財政危機と通貨危機が米
国内に政治的動乱を惹き起こすだろう。
――ウォレン・パフェット
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さらに不安なことがあります。中国の軍事予算の実質規模なの
ですが、2010年代後半にも米国を凌ぐようになるといわれて
います。それと同時期に、購買力平価で測定した中国の実質経済
規模も世界一になると考えられます。
もっとわかりやすくいうと、為替レートで測定した名目GDP
の値に関係なく、中国人が実際に消費する財・サービスの総量が
世界一になるということです。
2010年代の後半期に中国が実質的規模において米国を抜き
ちょうどその時期に米国が深刻な財政危機と通貨危機に陥る――
パフェット氏はその時期を2016年と予測しているのです。
現在は既に2009年後半です。したがって、あと7年後とい
うことになるのです。そうすると、何が起きるでしょうか。
きっとそのとき米統領は、次の決断を下すことが予想されるの
です。オバマ氏が再選されていれば、オバマ政権の任期中に起き
ると思います。
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アメリカの勢力圏を縮小させる。東アジア地域の覇権を中国に
譲渡して、米軍を国内に引き揚げる。 ――伊藤貫氏
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伊藤貫氏は、米経済が深刻な状態に陥る予測の裏に次の事実が
あることを指摘しています。
1つは、戦後生まれのベビーブーマーが大量に引退する時期で
あるという点です。彼らの86%は、平均貯蓄率の高い白人なの
です。しかし、2000年から2007年までの人口増加統計に
よると、白人の比率は約30%――人口増加の過半数を占めるの
は、貯蓄率の低いヒスパニックと黒人なのです。
2つは、米国の医療費の増加です。現在はGDPの17%です
が、2010年代末には24%に達すると予測されています。現
在、オバマ政権の進めている医療保険拡大策は医療費の増額をも
たらす政策なのです。
過少貯蓄体質の悪化と医療費国家負担の増加によって、米経済
は2010代後半期に深刻な財政危機に陥るというのです。これ
が第2の理由です。 ―――[オバマの正体/31]
≪画像および関連情報≫
●ヒスパニックとは何か
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日本においてヒスパニックとは、メキシコやプエルトリコ、
キューバなど中南米のスペイン語圏諸国からアメリカ合衆国
に渡ってきた移民とその子孫をいう。ヒスパニックは人種概
念ではなく、自分あるいは先祖がスペイン語圏のラテンアメ
リカ地域出身であるかどうかという出自の意識、換言すれば
自分をヒスパニックと思うかどうかというアイデンティティ
の概念である。 ――ウィキペディア
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第七艦隊の旗艦と空母