2006年02月02日

名目成長率と実質成長率(EJ1766号)

 現在、政府は政府の債務残高、すなわち、国債の残高を何とか
して減らさなければと考えているわけです。そのためには、何を
するべきでしょうか。
 80兆円必要なのに40兆円しか税収がない。だから、国債を
40兆円発行して穴埋めをせざるを得ない。したがって、国債発
行残高はどんどん増える。しかし、このままいくと国家が破綻す
るので、大増税をしてなるべく国債を発行しないようにする――
これが財務省が現在考えているロジックです。
 国の立場になって考えてみると、国債を発行してお金を集める
のも、税金として取り立てるのも最終的には同じことなのです。
そして、いずれもそれを負担させられるのは国民なのです。
 しかし、国債の場合は国の借金として明らかにされるし、借金
の残高があまりにも増えると国際的に信用を落とすことになりま
す。それに金利も支払う必要がある――だから、国としては税金
で取り立てる方がずっとありがたいと考えているのです。
 しかし、この場合、税収が増加すれば増税をしなくても問題は
解決するのです。そうであるとしたら、どうしたら、税収を上げ
るかに智恵を絞るべきではないでしょうか。
 財政理論のなかに「ドーマーの定理」というのがあります。そ
れは次のようなものです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目GDPの成長率が国債のコストより高ければ、国債残高は
 自然に減少していく。         ――ドーマーの定理
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これを逆にいうと、GDPの名目成長率が国債のコストよりも
低ければ、国債残高は増えていくということになります。
 日本のケースに当てはめてみます。日本政府の国債発行のコス
トは平均2%ですが、GDPの名目成長率はゼロないしマイナス
です。つまり、GDPの名目成長率は国債のコストよりも低いの
で、国債残高は増えていくことになります。
 この状態から脱出するにはGDPの名目成長率を上げればよい
ことになります。しかし、日本はデフレ下にあり、その状況で名
目成長率を安定してあげることはきわめて困難なことなのです。
したがって、日本にとって何よりも急務なのはデフレを解消する
こと――これに尽きるのです。
 ところで、経済の話には「名目」と「実質」という言葉がよく
出てきます。これがわかっていないと、何かと不便なのでここで
説明しておくことにします。
 ごく簡単にいうと、名目と実質には次の違いがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     名目 ・・・・・ 貨幣価値で換算したもの
     実質 ・・・・・ モノの単位で測ったもの
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 金利を例にとって説明します。ある企業が銀行から100万円
を1年間借りたとします。利息は年5%とします。そうすると、
1年後には105万円返済する必要があります。この場合は、貨
幣価値で測っているので、「名目金利」というのです。
 ところで、100万円借りた企業が商品を作ってそれを売り、
その売り上げで借金を返済したいと考えたとします。その商品の
売価を1個100円とすると、モノで測ると1万個分の借金をし
たということになります。
 物価上昇率がゼロのとき、借金を返すには商品の価格は変わら
ないので、1年かけて1万5百個の商品を売る必要がある。この
場合は、モノで測った金利、「実質金利」も5%で変わらない。
 しかし、物価上昇率が5%のとき、商品は1個105円になる
ので、借金を返すには商品を1万個売ればよいことになります。
この場合、金利は商品で測るとゼロになります。このように、物
価の変動を考えると、お金で測った金利とモノで測った金利は、
違ってくるのです。
 GDPの成長率でも「名目成長率」と「実質成長率」がありま
す。しかし、注意しなければならないのは、デフレの状況の下で
は、名目成長率で見るべきだということです。
 少し難しい話になって恐縮ですが、デフレ状況をあらわす指標
として「GDPデフレーター」というものがあるのです。これは
総合物価指数といわれるものであり、経済全体の物価動向を示す
指標として使われています。
 このGDPデフレーターは、1998年から現在にいたるまで
ずっとマイナスになっています。これがマイナスであるというこ
とは、デフレであるということなのです。
 ところで、GDPの実質成長率は次の計算をして、算出された
数値とほぼ一致するのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    実質成長率=名目成長率−GDPデフレーター
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 デフレの状況の下では、GDPデフレーターはマイナスになり
ます。例えば、名目成長率がマイナス2%とし、GDPデフレー
ターがマイナス4%とすると、実質成長率はプラス2%というこ
とになるのです。
 そうすると、新聞は「日本経済は順調に成長」などと書き、名
目成長率の数値を省いて報道することがあるのです。理屈は物価
が4%下がるということは、一年前に100円だった商品は96
円で買えることになり、実質的にはプラス成長であるということ
なのです。
 しかし、名目成長率はマイナス2%なのですから、現在がデフ
レ下にあるということを考慮しないと実態を間違って認識してし
まうことになります。
 財務省の役人などは、このあたりを巧みに使い分けて実態をよ
く見せようとする場合があるので、注意が肝要です。デフレの場
合は名目値が悪くなるので、国民の目を実質ベースに向けさせよ
うとするのです。          ・・・[日本経済08]


≪画像および関連情報≫
 ・経済成長率
  GDP(国内総生産)の成長率のことで、4半期(3ヵ月)
  あるいは1年でどれだけ増えたかをパーセントで表したもの
  である。前期の経済成長率=(前期のGDP−前々期のGD
  P)÷前期のGDP×100で計算する。
  経済成長率には、名目成長率と実質成長率がある。名目成長
  率は、時価で示した名目国内総生産の増加率である。名目国
  内総生産には物価上昇(インフレ)も含まれるため、物価上
  昇が高いと、金額的には大きくなる。この名目成長率から物
  価上昇分を調整し、実質的な生産量を計算したのが、実質成
  長率である。
  http://www.nikkei4946.com/today/basic/95.html

1765号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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