回復のために膨大な資金を注ぎ込む一方において、軍事費を何と
か減らそうと苦慮したあとが窺えます。経済が混乱している中で
米国は中東で泥沼の戦争を継続しており、そのなかで国防予算を
減らすことはきわめて困難です。それに、本当に大幅に減らして
しまうと、米国は世界の主導的な大国として軍事的優位を維持で
きなくなってしまうのです。
基礎になる通常の兵器の購入や兵員などの給料など合わせると
2010年度の国防予算は5340億ドル――これはブッシュ前
政権が組んだ2009年度の国防予算よりも120億2000万
ドル増えただけです。
これに加えて、中東での戦闘経費を計上しなければならないの
です。2009年度は1300億ドルであるので、同程度の予算
は必要です。これでは「チェンジ」を標榜しながらホワイトハウ
ス入りしたオバマ大統領としては、国防予算の金額としては、あ
まり変わり映えしないものになっています。
しかし、国防予算の中身を見ると、ブッシュ政権とはかなりの
違いがあるのです。まず、オバマ大統領は52隻の新しい艦艇の
建造を中止しています。原子力空母は12隻体制は維持するもの
の、新規の発注を延期しています。さらに、F22戦闘爆撃機の
生産台数を大幅に減らし、その代わりに、レーダーに映らない機
能は持ちながら、より多目的なF35の開発に力を入れる計画に
なっています。
これに加えて、チャンドラー司令官の提案である「パシフィッ
ク・ビジョン」を早急に取り入れるとなると、さらに国防予算は
膨らむことになります。中でもお金がかかるのは、通信衛星の防
衛経費です。
米太平洋軍は、一部の特殊レーダー通信や偵察用を除いて、一
般の衛星を使用しています。この状態のまま仮に中国と戦争がは
じまると、中国側によって通信衛星破壊が行われ、米軍は戦争開
始と同時に、口もきけない、耳も聞こえない状態になってしまう
のです。したがって、何としても通信衛星を防衛して米国の通信
体制を防衛する必要があるのですが、これには莫大な経費がかか
ってしまうのです。
問題はこれによって何が起きるかです。それは当然のことなが
ら地域防衛――地域安全のための行動や兵器が制限されるのは避
けられなくなります。そうなると、日本をはじめアジア極東の安
全にも費用をかけられなくなるはずです。つまり、米国はこれま
でのようなかたちで、日米安保条約を維持することは困難になっ
てきているのです。
この動きは、オバマ政権の予算編成の過程で、はっきりしてき
ています。それは沖縄の海兵隊のグアム移転のための費用です。
事前の話し合いでは、移転の費用は折半ということになっている
のです。日本の負担は、3億6000万ドルになっており、米国
は2010年度の国防予算に9億3450万ドルを計上したので
す。しかし、米下院はこの6月にこの予算を承認したのですが、
予算から2億1110万ドルを削減しているのです。
この削減額は、海兵隊のグアム移転費用のうち米国負担分に該
当するのです。どうして削減されたのかというと、オバマ大統領
が議員たちを説得できなかったからです。
どうして説得できなかったのでしょうか。それはオバマ大統領
が明確な極東アジア政策をもっていないからです。とくに対日政
策をもっていない。オバマ氏は、海兵隊のグアム移転の目的とし
て、沖縄の基地周辺住民への配慮という建前だけを述べて、中国
からのミサイル攻撃の危険について説得力のある説明をしていな
いのです。あの演説がうまいオバマ大統領にしてこの説得力のな
さは、彼自身がこの問題について熱心ではないからです。
日高義樹氏は、「オバマ大統領は日本にあまり好意を持ってい
ない」といっています。それは、オバマ氏が民主党の政治家であ
ることと無関係ではないのです。それは、オバマ大統領が進歩勢
力の民主党の大統領であり、日本を保守勢力とみているので、日
本に対して冷たさがあるのです。かつてのクリントン政権も同様
であったといえます。
オバマ大統領がなぜ日本に冷淡なのかについて、日高義樹氏は
次のように分析しています。
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アメリカでは共和党はあくまでも基本的にはビジネスマンの党
である。第二次大戦後、アメリカの共和党はビジネスのうえか
ら日本を重要な同盟国と考えてきた。共和党の首脳は日本の経
済力やドルに対する協力的な姿勢を高く評価し、日本を大切に
思ってきた。軍事力を持たないと決意した日本をアメリカが全
力を挙げて守り、日本の安全保障に責任を持つことになんの疑
問も感じなかった。しかしながら、民主党のオバマ大統領はそ
うしたビジネスマンの共和党を敵だと考えている。(一部略)
共和党と日本が強く結びついていることはオバマ大統領にとっ
て好ましくない。敵の味方は敵、つまり共和党の味方は敵、日
本は敵ということになる。進歩派のオバマ大統領は労働組合勢
力を政治の基盤としているため、日本の保守勢力である自民党
には好意を持っていない。この結果当然のことながら、日本の
安全について冷淡になり、北朝鮮や中国寄りになる。
――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
徳間書店刊
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米国国民の3分の1以上が「国際的に責任をとる必要はない」
と考えているということは、米国にとって日本の安全を維持する
ことが必ずしも米国の国益に直接つながるとは考えていないこと
を意味します。今後さまざまな情勢を分析しないと何ともいえま
せんが、今までの日米関係とは相当違ってくると考えられます。
日本はもっと自主的に国土の防衛ということを真剣に考えるとき
にきていると思います。 ―――[オバマの正体/29]
≪画像および関連情報≫
●米国防予算可決/2009.7.30
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【ワシントン共同】米下院は30日、政権が生産中止を表明
した最新鋭ステルス戦闘機F22の追加調達条項を削除した
2010会計年度(09年10月〜10年9月)の国防歳出
法案(国防予算案)を可決、同機の米軍向け生産中止が確定
した。法案はF22の輸出禁止も規定、日本が次期主力戦闘
機として導入するのは絶望的となった。F22をめぐる議会
との対立はオバマ政権側に軍配が上がった形。だが法案には
大統領が拒否権行使をちらつかせて反対する次世代戦闘機F
35の代替エンジン開発や大統領専用ヘリコプターへの資金
拠出が含まれており、上院を舞台にした駆け引きは今後も続
く見通し。
http://kumanichi.com/news/kyodo/international/200907/20090731004.shtml
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ロバート・ゲイツ国防長官