日本の財政の現状は、対外債権国であること、それに豊富な金融
資産を有していることなどにより、純債務でみる限り財政危機で
はない――そのようにいってよいと思います。
しかし、反論する向きも多いでしょう。純債務でみても200
4年の純債務のGDP率は78.4%――かなり多いではないか
と。確かにその通りですが、これについてはEJ第1762号で
述べたように、財務省の債務のかさ上げ(2001年以降)工作
の結果なのです。これを補正してみると、60%ぐらいになるの
です。これなら、何も問題はないはずです。
問題は財政赤字がなぜ増えたかです。それは税収が激減してい
ることが原因です。税収が減少している状況において増税をすれ
ば、税収はさらに減少します。小泉政権が発足した2001年の
税収は47.9兆円でした。
その前年の2000年度は、小渕政権が積極財政を展開して、
橋本政権のとき3年連続で50兆円を切っていた税収を50兆円
台に回復させ、国債新規発行額を4.5兆円減額させることがで
きていたのです。
それなのに、2001年度がなぜ50兆円を大幅に割ったのか
というと、小渕政権を引き継いだ森政権が緊縮財政をひき、定期
預金のペイオフ解禁などを強行したためであることは既に述べた
通りです。さらにその森政権を引き継いだ小泉政権が構造改革と
称して2年連続してさらに緊縮財政を続けたので、2003年度
に税収は遂に41.8兆円まで減少したのです。
2004年度は主として大企業のリストラ努力と若干の景気の
回復基調によって45.5兆円に戻しています。デフレが進行し
ているときでも景気は循環しており、落ち込みがきついときは一
時的に景気は浮上しますが、長続きしないのです。
小泉政権はこれを「構造改革の成果である」と自画自賛してい
ますが、けっしてそうではなく、その証拠に2005年度は44
兆円と再び落ち込んでいます。ちなみにこの税収44兆円は19
86年度並みの数字なのです。構造改革によって日本経済は大き
く陥没し、実に20年前の税収しか上がらない経済に落ち込ませ
てしまったのです。
その結果として、政府長期債務、すなわち、長期国債発行残高
は、2004年度末で490兆円――2000年度末が350兆
円ですから、140兆円も増加してしまっているのです。一体何
のための構造改革だったのでしょうか。この状態では税収が50
兆円台に戻ることはありえないのです。
追って構造改革がいかに日本経済を破壊したかについて検証し
ますが、小泉政権の経済政策は明らかに失政だったのです。それ
は税収が落ち込んで、2000年度の50兆円台に回復しない事
実を見れば明らかなことです。
現政府は、2001年度から2004年度までに1.6兆円の
公共事業費を圧縮したことを成果として強調しています。しかし
同じ3年間の税収の累計額は23兆円にも達するのです。
2000年度の税収の50.7兆円から、2001年度〜20
04年度のそれぞれの税収を引いた額を合計した数字です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2001年度 50.7−47.9= 2.8兆円
2002年度 50.7−44.1= 6.6兆円
2003年度 50.7−41.8= 8.9兆円
2004年度 50.7−45.5= 5.2兆円
―――――――――――――――――――――――
23.5兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これによると、公共事業を1.6兆円削減しても、その結果と
して税収を23兆円も失ったのです。この場合、政府は1.6兆
円の削減成果のみを強調し、税収の大幅減少についてはふれてい
ませんが、あまりにも一面的な見方といえます。
デフレが進行しているときは、投資関連の財政支出は減らして
はいけないのです。少なくとも前年同額か増加させるのが常識な
のです。削減してしまうと、その削減額をはるかに上回る税収の
減少につながるからです。
しかし、政府はその失敗を反省するどころか、逆に改革の成果
を強調して、失敗の埋め合わせに大増税をやろうとしている――
理不尽な話です。しかし、それを大多数の国民は仕方がないと受
け入れようとしているのです。何と寛容な国民なのでしょうか。
つまり、こういうことになります。
純債務という観点から日本の財政をみると、そのGDP比率は
欧州諸国並みであって、現状は財政危機ではないといえます。し
かし、財政赤字は増え、政府債務は増えている――その原因は、
国の経済政策が間違っているからです。
しかし、国が間違いを反省せず、このままの政策を継続しよう
とすると、大増税しかないことになります。そうなると、日本の
財政そのものが破綻してしまうことになります。したがって、こ
れは「財政危機」ではなく、「政策危機」である――菊池英博教
授はこういうのです。
菊池英博教授は、銀行マンの出身であり、国内のみならず、米
国やヨーロッパ、オーストラリアなどの営業店で、長年にわたる
銀行経営の豊富な体験を持つ実務派の学者です。その主張は理論
的であると同時に実践的であり、きわめて説得力があります。
1995年から、文京女子大学(現文京学院大学)の教授をさ
れていますが、そのかたわら衆参両院で開かれる公聴会などで、
公述人を務めるなど、国の経済政策に関して多くの提言をされ活
躍している気鋭の学者です。
その菊池教授が現政権の経済政策は完全に間違っており、現在
の経済政策を続けると、本当に財政は破綻するといっているので
す。しかし、その提言が素直には受け入れられない不可解な基盤
のようなものがあるのです。 ・・・[日本経済07]
≪画像および関連情報≫
・公共投資はGDPの増加に寄与する――菊地教授意見
―――――――――――――――――――――――――――
・「公共投資はGDPの増加に寄与していない」――この言
葉は、当初から小泉純一郎氏と竹中平蔵氏がよく宣伝し、
マスコミも使っている。しかし、事実に反する発言であり
大間違いである。
・1998年度と1999年度の公共投資が2000年度の
GDPを押し上げ、税収は50.7兆円に達している。
・しかし、2001年度に小泉構造改革が出てきたため、効
果が吹き飛んでいる。これは、橋本政権に次ぐ2度目の失
敗といえる。
・公共投資のGDP成長への寄与度合いを減殺させているの
は、効果が出るか出ないうちに、すぐに緊縮財政に転じて
しまうからである。
菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
はない」これだけの理由』
―――――――――――――――――――――――――――
