2009年08月12日

●「北朝鮮に同情的な米国務省」(EJ第2632号)

 米国の対北朝鮮政策を考えるうえで米国務省という役所の体質
を知っておく必要があります。米国務省の官僚は、概して理想主
義的な考えを持ち、成績優秀な学生であった人が多いのです。き
わめて進歩的であり、人道主義的であり、リベラルな人たちなの
です。この点国防総省やCIAなど、他の省庁の官僚と大きく異
なるのです。こういうタイプの人は民主党議員に多いのです。
 こうした人たちがアジアの歴史を調べると、野蛮な侵略者はあ
くまで日本人であり、その哀れな被害者は朝鮮半島の人たちや中
国人――こういう図式でとらえてしまう傾向があるのです。した
がって、国務省の官僚のほとんどは北朝鮮に同情的であり、日本
に批判的な傾向があります。したがって、どんなに日本が拉致問
題を米国に訴えても彼らには通じないのです。
 もうひとつ大事なことは、1994年のカーター訪朝によって
締結された米朝核枠組み合意が結果として大失敗であったことを
国務省自体は失敗と考えていないことです。いや、官僚のみなら
ず、民主党系の議員の多くも同じ考え方であるということです。
 その証拠があります。2007年に米シークレットサービスと
財務省は、マカオのデルタ銀行に隠されていた金正日の麻薬資金
を押収したことを覚えておられるでしょう。このニュースを聞い
て多くの日本人は、米国はなかなかやるじゃないかと考えて、拉
致問題の解決に期待感を示したものです。
 しかし、これに猛然と反対した民主党の大物上院議員がいるの
です。それは誰あろう現国務長官のヒラリー・クリントン上院議
員なのです。このとき、ヒラリーと米国務省は、いったん凍結さ
れたその麻薬資金を金正日に返すことに賛成したのです。
 国務省自体がこういう考え方ですから、クリストファー・ヒル
氏がブッシュ前大統領の指示にしたがわず、二国間交渉をしても
民主党議員は非難するどころか、賞賛したのです。
 そして、オバマ政権になるやオバマ大統領は、共和党の反対に
もかかわらずヒル氏をイラク駐在の米国大使に栄転させているの
です。元国連大使で、対北朝鮮強硬派のジョン・ボルトン氏は、
次のように嘆いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (米国の)北朝鮮政策は、国務省のリベラルにのっとられてし
 まった。         ――ジョン・ボルトン元国連大使
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、米国は北朝鮮をどのように見ているのでしょうか。口で
は「核の脅威」を唱えているものの、なぜか今ひとつ真剣さはな
いようにみえます。
 かつて米国は、北朝鮮の戦車や歩兵部隊が、38度線をこえて
韓国に侵入してくる事態を懸念していたのです。そのため、米国
は冷戦後、それまで西ドイツ各地に集めていた米軍の戦闘部隊を
戦車をはじめとし、上陸用舟艇や車両、大砲などの兵器を莫大な
費用をかけて、朝鮮半島に持ち込み、世界最強の地上部隊を朝鮮
半島に展開していたのです。
 しかし、現在米国では、朝鮮半島の軍事力を大幅に削減させて
います。それは現在の北朝鮮が経済的には破綻状態にあり、新し
い兵器を購入する力がないので、その膨大な軍事力を維持できな
くなってきつつあるからです。
 1995年に北朝鮮は大飢饉に見舞われ、300万人が餓死す
るという悲惨な事態が起こったのです。そういう状況にもかかわ
らず、異常と思えるほど軍事力を増やし、経済を一層破綻の淵に
追い込んだのです。
 そして今や北朝鮮の国内総生産は年間262億ドルになってし
まったのです。これは韓国の30分の1であり、国民一人当たり
の収入は、日本円にして年間1800円に過ぎず、国民の数も韓
国の半分以下であり、しかも栄養状態が悪いので、平均寿命も世
界でも最も短いグループに属しているのです。
 そんな弱小国である北朝鮮を世界一の軍事力を持つ米国が韓国
に駐留までして守る必要などないのです。今や韓国の兵力が北朝
鮮を圧倒しているからです。このように強大化しつつある韓国の
兵力について、日高義樹氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのうえ韓国の地上部隊は、逆に北朝鮮に攻めこむ軍事能力を
 持ちはじめている。これまで比較的おくれているといわれた空
 軍も、日本の自衛隊よりも先に新しいF15E戦闘爆撃機を装
 備するなど、兵力の増強がめだっている。北朝鮮は、膨大な数
 の歩兵と古い戦車や大砲を持っているが、コンピュータの時代
 になって、韓国の近代兵器には対抗できなくなっているうえ、
 アメリカ軍はイラク戦争で十分使いこなした最新鋭兵器をいつ
 でも使う体制をつくりあげてしまった。
        ――日高義樹著『オバマ外交で沈没する日本』
                        徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それほど韓国軍が強大になっているのなら、米軍は引き揚げれ
ばよいではないかと誰でも考えますが、むしろそれを一番恐れて
いるのは当の米国自身なのです。
 米国が恐れているのは、韓国が北朝鮮を破り、北朝鮮を韓国が
合併すること、それに北朝鮮という国が経済的に瓦解してしまう
ことなのです。なぜなら、そういう事態になると、在韓米軍が駐
留する理由がなくなってしまうからです。そうすると、アジア大
陸から米軍がいなくなることになってしまうからです。
 この事態は絶対に避けたいと米国は考えています。そのために
北朝鮮という国は米国にとって必要であり、「北朝鮮の脅威」は
残しておく必要があります。したがって、金正日が少しぐらい勝
手なことをやっても適当にあしらっておく――これが米国のやり
方なのです。それに中国にとっても北朝鮮はなくなっては困る国
なのです。          ―――[オバマの正体/22]


≪画像および関連情報≫
 ●日高義樹氏について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1935年名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。59年NH
  K入局、外信部を経てニューヨーク支局長、ワシントン支局
  長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を
  経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に92年退
  職。ハーバード大学客員教授などを務めた後、現在はハドソ
  ン研究所首席研究員として日米関係の将来に関する調査・研
  究の責任者。全米商工会議所会長顧問。
  ―――――――――――――――――――――――――――

日高義樹氏と近刊書.jpg
 
日高義樹氏と近刊書
posted by 平野 浩 at 10:05| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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