2006年01月31日

国家財政に関する国会議員の認識度(EJ1764号)

 国の財政は粗債務ではなく純債務で見る――このことを国会議
員は知っているのでしょうか。
 菊池教授は、国会議事録から純債務について発言している議員
の記録を著書で発表しているので、このいくつかを取上げてご紹
介しましょう。
 2005年3月14日の衆議院予算委員会で自由民主党の秋元
司議員は、谷垣禎一財務大臣に対して次の質問をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 秋元議員:財務省は債務ばかりを公表して、政府が保有してい
      る多額の金融資産を公表していない。今後、債務を
      公表するときは、金融資産も発表して欲しい。
      (中略)財務省は単に債務残高を強調するが、格付
      け会社が日本国債を 相次ぎ格下げした2002年
      には、豊富な外貨準備などを考慮していないと反論
      しているではないか。
 谷垣大臣:年金積立金や外貨準備は使い道が決まっていて、簡
      単に取り崩せない。
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 相殺できるできないは問題ではないのです。しかし、そういう
資産があるのですから、一国の債務はそれを引いて純債務残高で
みるのが世界の常識なのです。谷垣財務大臣の発言は完全な言い
逃れであるといってよいと思います。一般会計と特別会計のとき
も同じ論法で逃げています。
 1997年〜1998年にマレーシアで通貨危機が起こったと
きの話です。マレーシア政府は直ちに年金基金を担保にして中央
銀行が国債を発行し、景気振興策を取って経済を復興させ、危機
を脱出しています。日本もこういう政策をとるべきなのですが、
まったく逆のことをやっているのです。
 年金積立金は国が国民から徴収したものであって、国民の資産
であり、こういう使い方ができるのです。谷垣氏の発言や答弁を
聞いていると、いかにも財務省の官僚のいうがままに答弁してい
るようにみえます。
 菊池教授は、日本では、財政を純債務でみるという国際常識を
とる学者や国会議員はまだ少ないといいます。しかし、過去にそ
ういうことを発言している国会議員はいるのです。不思議なこと
にいずれも自由民主党の議員ばかりであり、野党の議員は少ない
のです。
 2002年11月25日の参議院予算委員会の「経済政策に関
する集中審議」の中で、自由民主党の木村仁議員は小泉首相に対
して次の質問をしています。
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 木村議員:700兆円という概念が国民全体に染み付いて、大
      変国民が閉塞感を感じていることも事実であります
      から、よく考えてみれば、700兆債務は持ってお
      りますけれども、日本政府は430兆の金融資産を
      持っているのです。年金基金、外貨準備その他あり
      ます。使えないカネですけど、財産には違いない。
      それを差し引くと純債務で比較すれば、ちょうど、
      GDPの50%、これはアメリカ、イギリス、EU
      の同じベースで比べたのと同じであります。
                     ――参議院議事録
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 これに対して、小泉首相はまともに回答していないのです。わ
かっているのかいないのか、困ったことです。
 2001年1月23日、経済財政担当相に就任した麻生太郎氏
(現外務大臣)も、その就任記者会見において、次のように述べ
ています。
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 日本は世界最大の債権国だし、国・地方の長期債務から国有財
 産などを差し引いた純債務のGDP比率は欧州諸国の平均程度
 である。国が明日から破産するような状況にはない。
         ――2001年1月24日付、日本経済新聞
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 自由民主党の日出英輔議員も、2002年7月10日の参議院
予算委員会で同趣旨の質問をしているのですが、これについては
省略します。しかし、なぜ、与党議員ばかりなのでしょうか。
 外国の経済学者も同じことをいっています。元FRB副議長で
現プリンストン大学のアラン・ブラインダー教授は、次のように
いっています。
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 小泉首相はフーバーの轍を踏むべきではない。財政逼迫といわ
 れているが、日本政府の純債務は、債務総額が示すほど悪くな
 い。重要なのは、財政支出の縮小か拡大かではなく、財政刺激
 を維持しながら、その形式をいかに変えてゆくかだ。
   ――『週刊東洋経済』2001年8月11〜18日号より
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 もうひとつおかしいのは、マスコミの論調なのです。菊池教授
は、既出の秋元司議員の国会での発言に関して次のように述べて
問題視しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 粗債務でも純債務でも、いずれのデータを使っても日本の財政
 状況が先進国のなかで相当悪いことに変わりはない。にもかか
 わらず、健全化をゆっくり進め国民負担増や歳出カットを小幅
 にしたい立場から見ると、純債務ベースの方が都合がよい。
         ――2005年3月15日付、日本経済新聞
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 断っておくが、日本の財政は純債務ベースで主要各国と比較す
ると別にわるくはないのです。これでは、純債務論者は財政危機
を先送りしようとしていることになります。新聞は政府の提灯持
ちなのでしょうか。         ・・・[日本経済06]


≪画像および関連情報≫
 ・秋元司議員発言に関する菊池教授の意見
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  秋元議員の指摘は、「日本の財政を国際的レベルで正しく把
  握しよう」とするものである。そうすれば、増税しか手段を
  見出せない政府に、新たな対応策が出てくることを指摘して
  いるのである。この秋元司議員の質問を契機として、自民党
  内には、純債務を重視する見方が増えてきたと報じられてい
  る。これは財政改革を遅らせるためでなく、日本の財政事情
  にあった財政政策をとるべきであるとの認識が出てきた結果
  といえよう。
  菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
      はない」これだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1764号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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