2009年08月07日

●「IMF債とBRICsの狙い」(EJ第2629号)

 最近経済新聞や雑誌によく出てくる用語で、よく似ていてその
違いがわかりにくいものがたくさんあります。次の3つの言葉の
意味がわかるでしょうか。
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           1.TARP
           2.TALF
           3.TBTF
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 第1の「TARP」とは何でしょうか。
 これは、EJの今回のテーマに何回も出てきますが、「不良資
産救済プログラム」のことです。前ブッシュ政権自体に創設され
7000億ドルの資金が用意されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   不良資産救済プログラム
   Troubled Asset Relief Program
―――――――――――――――――――――――――――――
 第2の「TALF」とは何でしょうか。
 これは、EJでははじめて登場する言葉です。「TALF」は
資産担保証券(ABS)市場の機能不全を解消するため、学生ロ
ーン、自動車ローン、クレジットカードローン、中小企業向けロ
ーンを裏付けとするトリプルA格のABSの購入者に資金を融通
する制度なのです。消費者向けローンの約40%はABSとして
証券化されていますが、金融危機の影響でABS市場が機能不全
に陥り、ローンの実行も減っています。消費者や中小企業のデフ
ォルトが増大すれば投資家がABSに高い利回りを要求し、融資
金利が上昇する恐れがあります。
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   ターム物資産担保証券貸出制度
   Term Asset-Backed Securities Loan Facility
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 第3の「TBTF」とは何でしょうか。
 これは、今までに何回も登場しています。ファニーメイ(連邦
住宅抵当公庫)、AIG、シティグループなどの大手金融機関は
TBTF組織であるといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   巨大過ぎて潰れない
   To Big To Fail
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 あるFRB幹部は、TBTFを瓶から抜け出て巨大になった魔
人に例え、今さら瓶には戻せないといっていますが、非常にうま
い表現であると思います。
 さて、EJ第2626号で、BRICs各国が米国債を売って
IMF債を引き受ける動きについてご紹介しましたが、これにつ
いてもう少し詳しく述べることにします。
 まず、米国の財政赤字の数字を押さえておきます。2009年
度(2008年10月〜2009年9月)の米国の財政赤字は、
1.8 兆ドルに達するのです。名目GDP比で13%――金額・
比率ともに過去最大です。
 それでは、財政赤字の累積である政府総債務残高は、2010
年度には名目GDP比で100%近くに迫ることは確実であると
いわれているのです。そういう年である2009年にFRBは戦
後なかった領域に足を踏み入れようとしています。それは、3月
18日に連邦公開市場委員会(FOMC)が長期国債を3000
億ドルまで、買い入れることを発表したことです。
 FRBは日本の日銀に当たる中央銀行です。そういう中央銀行
が国債の買い入れをするのは基本的にはタブーなのです。なぜな
ら、それをやると、財政支出の歯止めが利かなくなり、インフレ
圧力を高めることになるからです。
 米国内には、デフレになるくらいならインフレの方がマシ――
こういう意見もあり、FRBが国債を買い入れることによってイ
ンフレ圧力を高めるなら良いじゃないかという受け止め方もある
ようです。しかし、これはセオリーに反するのです。3月以降、
米長期金利は上昇し、米ドルは売られるようになっていったから
です。専門家は、これは「悪い長期金利の上昇」であり、「悪い
米ドル売り」であるといっています。
 昨年の秋以降の米金融危機に端を発した中東欧などの金融危機
によって、IMF(国際通貨基金)への融資の要請が相次いだの
です。しかし、IMFにはお金がなかったのです。
 そこで米国を含むG20諸国は、4月にロンドンで開催された
第2回金融サミットで、IMFの融資枠を従来の2500億ドル
から7500億ドルに急増させることで合意したのです。そのた
めIMFは創設以来はじめて「IMF債」で資金集めをすること
になったのです。
 IMF債は、ドル、ユーロ、ポンド、円の4通貨から構成され
るSDR――IMFの特別引き出し権――建てになるものと思わ
れています。
 ここでわかりにくいのは、SDRです。IMFの特別引き出し
権とは何でしょうか。
 これをまともに説明すると、かなりわかりにくい話になるので
簡単にいうと、SDRは合成通貨と考えればよいのです。この通
貨は一種のバスケット――ドル、ユーロ、ポンド、円のバスケッ
トなのです。日経平均みたいなものです。
 つまり、SDRを実在する通貨と同様に使えるようにしようと
いうものです。これに真っ先に賛成したのが、ロシアであり、中
国です。なぜでしょうか。
 それは、SDR建てのIMF債を購入することで、IMFの帳
簿上にバッファーを作り、外貨準備機構へと切り替えようとして
いるのです。これによって、ドルの基軸通貨制を切り崩すことを
狙っているのです。しかも、中国はSDRに自国通貨の元を追加
させようとしているのです。       [オバマ正体/19]


≪画像および関連情報≫
 ●SDRとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  IMF加盟国はIMFに対し、借入れを行うことができるが
  1970年以降、IMFを経由して他の加盟国からの資金調
  達が可能となった。SDRは1960年代初頭に発生した国
  際通貨危機の教訓をもって1968にIMFの総務会決議に
  よって創設され、翌1969に発効された。創設当初は当時
  の1ドルと同じ基準を採用したが、1973年の変動相場制
  を受け、標準バスケット方式と呼ばれる方式を採用している
  のである。これは世界貿易において1%以上のシェアを持つ
  通貨を元にSDR価格を評価する方式で、個別の通貨と比肩
  した場合により安定性が増すという利点があった。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真出所/『週刊エコノミスト』7月14日特大号

第1回BRICsサミット.jpg
第1回BRICsサミット
posted by 平野 浩 at 04:34| Comment(1) | TrackBack(1) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして☆
素敵なサイトですね^^応援してますよ♪
Posted by メル友 at 2010年05月26日 10:26
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