2009年08月06日

●「なぜ、FRBの出口戦略が問題なのか」(EJ第2628号)

 政権発足当時からここまでのオバマ大統領のやり方を見ている
と、そこにオバマ流のスタイルが見えてきます。例えば、政権の
重要課題のひとつである医療保険制度改革――オバマ大統領は、
ゴールデンタイムにテレビに出演し、巧みな話術で国民にその必
要性を喚起すると、あとは基本方針を示して議会に丸投げしてし
まう――そういうスタイルなのです。議会下院は与党が安定多数
を持っているので、最高司令官として自分は大枠を決めれば、あ
とはプロ集団のやることだと決めているようです。
 オバマ大統領は経済の問題についてもこのスタイルを踏襲して
います。しかし、経済の問題はより緊急の対応が必要なので、こ
ちらは人事を決めて完全に丸投げのようです。
 7月21日の議会証言で、バーナンキFRB議長は次のように
FRBの出口戦略について強調したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融危機や景気後退に対応した異例の政策手段は、必要に応じ
 て適時に撤回できることを国民や市場に理解してもらうことが
 重要だと信じている。米連邦公開市場委員会(FOMC)は出
 口戦略に関連した課題についてかなり注意を払っている。
        ――2009.7.22付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「出口戦略」とは、金融政策運営を危機モードから
平時に戻すことをいうのです。実はバーナンキ議長やFRBの幹
部は、ここ半年ほど、このことを何回も市場に訴えてきているの
です。しかし、FRBが出口戦略に着手するのが近いというわけ
ではないのです。それにもかかわらず、そのことを強調するの
は、次の心配があるからです。
 それは、FRBは出口戦略に失敗し、制御不能なインフレや新
しいバブルを発生させるという声が市場にあるからです。何しろ
FRBは2兆ドル規模の資金供給を行っており、財政赤字を背景
に将来のインフレを懸念する声が出てもおかしくはないのです。
これに景気の早期回復期待が重なると、長期金利が過度に上昇し
て、景気底入れを潰してしまう恐れがあるとバーナンキ議長は考
えたわけです。
 それに、FRBはいま非常に危険な状況にあります。現在、F
RBの保有する総資産のうち、回収リスクをほとんど考えなくて
もよい資産は全体の40%であり、これを除くと、FRBは実質
的に約1.2 兆ドルのリスク資産を抱えているのです。
 しかも、FRBの自己資本はほとんど増えておらず、473億
ドルしかないのです。したがって、リスク資産の4%程度が回収
不能になるだけで、FRBは債務超過に陥ってしまうのです。
 このようにバーナンキ議長が何よりも恐れているのは、長期金
利の上昇なのです。現在、米国では、今回の経済危機対応策につ
いて、2人のアカデミズムの大家による経済論争が話題を集めて
いるそうです。その2人の大家とは次の人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.ニーアル・ファーガソン・ハーバード大学教授
   2.ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 ニーアル・ファーガソン教授は、40歳代の若さを誇る有能な
歴史学者です。これまでの歴史学にはなかった彼自身のユニーク
な歴史観による英国史、米国史および20世紀史などの大著で有
名です。
 ファーガソン教授は、今回の経済危機は、70年代後半から米
国をはじめとする各国で始まり、公的・民間セクターで債務残高
を上昇させてきた「レバレッジの時代」の終焉を象徴するもので
あるとして、次のように主張するのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この経済危機に対し、財政赤字拡大という旧来の政策レジーム
 を用い、なおかつ短期的な対症療法で乗り切ろうとしても、長
 い「歴史の流れ」に抗することはできない。こうした虚しい試
 みを行うのであれば、近い将来において米国の「アルゼンチン
 化」をもたらしかねない。      ――ファーガソン教授
           ――『週刊エコノミスト』7月28日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 ファーガソン教授の議論の最終的な帰結は、長期金利の急上昇
とそれによるさらなる経済崩壊にほかならないというものです。
 これに対して、クルーグマン教授の認識はこれと大きく異なる
のです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済危機の局面では、家計の負債の減少などの民問部門の動き
 を考慮すると、米国全体で債務が飛躍的に拡大したとはいえな
 い。また、家計や企業は膨大な供給過剰のなかにあり、新規投
 資には消極的である。このため、米国は貯蓄超過にあり、マネ
 ーはその運用先に飢えている「カネ余り」の状況にある。しか
 も、これは米国だけの現象ではないうえ、余剰貯蓄は米国債に
 向かわざるを得ない。つまり、世界は大量発行される米国債を
 購入する投資家であふれており、中国が米国債を購入するか否
 かは重要ではない。         ――クルーグマン教授
           ――『週刊エコノミスト』7月28日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この論争は、中央銀行による量的緩和政策の効果が国債発行増
額による財政拡張政策によって相殺されてしまうかどうかという
点が焦点となっていいるのです。
 ファーガソン教授は、財政拡張が長期金利を上昇させ、金融緩
和の効果を阻害する――クラウディングアウト効果――を懸念し
ているのに対し、クルーグマン教授は、余剰貯蓄の存在が、長期
金利を低位安定させるので、財政拡張政策と金融政策は補完的で
あることを強調しているのです。
 この2人の学者の論争は、オバマ政権の経済政策をめぐって火
花を散らしているのです。    ――[オバマの正体/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「財政代理人」を演ずるFRB
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨年12月の定例会合で、米連邦準備制度理事会(FRB)
  は政策金利を「0から0.25 %のレンジ」まで引き下げ、
  今後はバランスシート拡大を通じて未知なる金融政策を追求
  すると宣言した。一連の金融危機が深刻化する以前、FRB
  のバランスシートは9000億ドル台前半だったのに、リー
  マン・ブラザーズ破綻以降は2倍に膨れ上がり、事実上の量
  的緩和に突入している。日銀が2001年に導入した量的緩
  和との違いを指摘して、FRBのバランスシート拡大政策を
  「クレジット緩和」と呼ぶ向きもある。実際、日銀の白川方
  明総裁は、FRBの政策は古典的な意味での「量的緩和」で
  はないとの解釈を示す。FRBも量的緩和という言葉は使っ
  ていない。  http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/642
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真出所/『週刊エコノミスト』7月28日号

クルーグマンとファーガソン.jpg
クルーグマンとファーガソン
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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