2009年08月05日

●「長期金利の上昇にどう対処するか」(EJ第2627号)

 オバマ政権が一番問われているのは経済運営ですが、一般的評
価では、ガイトナー財務長官もバーナンキFRB議長もよくやっ
ているといわれています。
 オバマ政権の経済運営を一言でいうと、積極財政による景気刺
激と低金利政策による住宅市場の回復ですが、このところ長期金
利が急上昇しているのです。
 米長期金利は、ほぼ定位置であった2%台前半の位置から5月
以降3%台半ばまで上がり、6月10日には一時4%を超えたの
です。長期金利への上昇圧力には、次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.景気回復期待
          2.財政悪化懸念
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の長期金利の上昇は、後者、すなわち、2009年会計年
度の1.8 兆ドルという米国の史上最大の財政赤字をどうファイ
ナンスするかが問われているものと考えられます。
 長期金利はどのレベルまで上がっても大丈夫なのでしょうか。
 経済学的にはいろいろ理論がありますが、どこまでなら大丈夫
なのかという観点に立つと、経済の基礎的要件――ファンダメン
タルズの範囲内ということになります。
 それでは、米国の場合、ファンダメンタルズに見合う長期金利
水準はどのくらいになるのでしょうか。
 これについて、明治安田生命チーフエコノミストの小玉祐一氏
は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 物価変動を除いた実質長期金利は基本的に潜在成長力に見合っ
 た水準に決まる。長期自然利子率という概念だ。米国の潜在成
 長率は、足元では2.5 %前後まで下がっているとの見方がコ
 ンセンサスである。米連邦準備制度理事会(FRB)は、適切
 な金融政策のもとで、長期的に実現するインフレ率を1.7 〜
 2.0 %(中央値)と置いている。これが市場の長期インフレ
 期待に一致すると考えると、名目長期金利は2.5 %+2.0
 %=4.5 %くらいであれば、ファンダメンタルズで説明でき
 るということになる。           ――小玉祐一氏
         ――『週刊エコノミスト』7月14日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、米国のファンダメンタルズを中心に考えると、長期
金利は4.5 %までは説明がつくし、大丈夫であるといえます。
小玉氏によると、もし、長期金利が5%を超えるようなことがあ
ると、FRBが動き、力づくでも抑え込みにかかるだろうが、お
そらくそのようなFRBの出番はないといっています。
 しかし、長期金利が上がると、住宅ローンの金利が上がるので
す。なぜなら、長期の住宅ローンの金利は、国債の金利を基準と
して決められているからです。
 実際に米国の長期金利の上昇を受けて、住宅ローンの申請者は
急減しています。景気回復が定まらないなかでの金利上昇は、底
入れの兆しがあらわれている住宅市場の足を引っ張る結果になる
恐れがあるので、FRBは相当慎重に長期金利の動きを見守って
いるものと思われます。当面はこういうプロセスが自律的に長期
金利の上昇を抑えるように働くと考えられます。
 米国の長期金利の上昇について、朝日ライフアセットマネジメ
ント常務執行役員である高尾義一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 4%まで上昇する過程で、米国債のクレジット・リスクが意識
 されたことは、まず問違いない。5月13日付の英『フィナン
 シャル・タイムズ』に、「米国債のトリプルAが危ういのでは
 ないか」という記事があった。米ムーディーズ・インベスター
 ズ・サービスが、2年前に医療や年金など社会保障費増大に伴
 う財政悪化を警告したが、現状はその警告よりもはるかに悪化
 していると指摘。「1917年以来、維持している米国債のト
 リプルAがいつまで続くか」と、疑問を呈している。
         ――『週刊エコノミスト』7月14日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 一方、7月31日に発表された2009年4月〜6月の実質成
長率は、GDP対比マイナス1.0 %と、マイナス幅が大きく縮
小しており、景気の悪化ペースに歯止めがかかりつつあります。
 これを受けて、オバマ米大統領は7月31日、ホワイトハウス
で演説し、「経済が正しい方向に向かって進んでいる重要なしる
し」であり、「方向性にやや楽観的になっている」と述べて、景
気は悪化に歯止めがかかり、回復途上に戻りつつあるとの認識を
示しています。
 むしろ心配なのは、不良債権問題なのです。既に述べているよ
うに、米大手銀行の決算が問題なく収まっているのは、会計基準
の緩和によるものなのです。それに、はじめから落としどころが
決まっていたと思われるストレステスト(資産査定)の結果でも
あります。既出の小玉氏は、ストレステストは「偽りの安心感」
を市場に与えた可能性があると懸念を表明しています。
 なぜなら、現在の米国の失業率は9.4 %であり、ストレステ
ストが悲観シナリオとして設定している失業率8.9 %を大きく
オーバーしているからです。そのため、米国家計の過剰債務問題
は、むしろ今後一層深刻化する恐れがあるのです。
 ところで、FRBは大丈夫なのでしょうか。
 なぜなら、FRBにはリーマン・ショック以降、不健全な資産
が急速に拡大しているからです。未曾有の金融危機に対応するた
め、FRBは従来の短期金融市場での金融調節の枠組みを大きく
超えて、あらゆる手段を使って、民間セクターに資金を供給して
いるので、不健全な資産を多く抱え込んでいるのです。
 もし、そういう不健全な資産は将来FRBに大きな損失を計上
させ、財務内容を棄損させる懸念が大きいのです。もし、そうな
ると、中央銀行の信頼は地に落ちます。[オバマの正体/17]


≪画像および関連情報≫
 ●長期金利について/日本銀行のウェブサイトから
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  長期金利は、その時点の金融政策の影響も受けはしますが、
  それとは別の次元で、長期資金の需要・供給の市場メカニズ
  ムの中で決まるという色合いが強く、その際、将来の物価変
  動(インフレ、デフレ)や将来の短期金利の推移(やこれに
  大きな影響を及ぼす将来の金融政策)などについての予想が
  大切な役割を演ずる、という特徴があります。なお、新聞等
  で長期金利の動きが報じられる時は、債券、とくに長期国債
  (満期までの期間が10年弱のもの)の値動きがしばしば取
  上げられます。これは、債券を売る(供給する)ということ
  は、長期資金を調達(需要)する、債券を買う(需要する)
  ということは運用(供給)するということなので、債券「相
  場」の動きが、長期金利の動きをそのまま表すからです。債
  券「相場」が値上がりすれば長期金利は低下、値下がりすれ
  ば、長期金利も「相場」として動くということです。
   http://www.boj.or.jp/type/exp/seisaku/expchokinri.htm
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ホワイトハウスでのオバマ演説.jpg
ホワイトハウスでのオバマ演説
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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