本国債の格付けを次のように下げています。
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スタンダード・アンド・プアーズ ・・・・・・ Aa3
ムーデテーズ・インベスターズ・サービス ・・ A2
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S&Pの「Aa3」というランクは、G7の主要7ヶ国中最低
の水準であり、MDの「A2」は、ギリシャ、イスラエル、ポー
ランド、南アフリカ共和国並みの水準であって、アフリカのボツ
ワナ共和国よりも低くランクされたのです。ボツワナ共和国は日
本の最大の援助国であり、この国の国債と同格にされたのですか
ら、屈辱的な格下げです。
問題はこのときの新聞論調は、一貫して次のようなものだった
ことです。
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政府の債務残高が高く、財政赤字が増加し、GDPに対する比
率が上昇していることが原因である。したがって、日本はもっ
と債務残高を圧縮する必要がある。
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実はこれはきわめて見当違いの主張なのです。興味深いのは、
格付け会社に対する財務省の対応の内容です。国債格下げの発表
が行われると、財務省は次のように抗議を行っています。
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日本は世界最大の貯蓄超過国であり、国債はほとんどが国内で
極めて低い金利で安定的に消化されている。また、世界最大の
経常収支黒字国であり、外貨準備も世界最高である。
――菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機
ではない」これだけの理由』
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この財務省の主張は正しいし、抗議は当然なのですが、注目す
べきは、ここで財務省が主張していることは国内向けとは異なり
純債務論を展開していることです。明らかに財務省は国内と海外
でことばを使い分けているのです。
S&PにしてもMDにしてもそんなことは、わかっているので
す。それならば、なぜ、国債を格下げしたのかというと、小泉政
権の経済政策に懸念を持ったからです。
1998年に首相に就任した小渕恵三は、国民からの人気は低
かったものの、適切な積極財政の展開によって、橋本政権の経済
失政による景気低迷を復活させ、3年連続で50兆円を切ってい
た税収を50兆円台に復活させているのです。
小渕政権がなぜ税収を増やすことができたかというと、財政再
建問題を凍結させ、金融システムの安定化、景気回復と経済の安
定成長を目指して、積極的な財政政策を駆使した景気振興策をと
ったからです。
しかし、2000年4月に小渕は急病に倒れ、森喜朗政権が発
足するのです。そして、森政権による2001年度の当初予算は
6年ぶりの緊縮型だったのです。この流れは2001年に発足し
た小泉政権に受け継がれ、続いていくことになるのです。
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2001年予算総額 ・・・・・ 82.7兆円
2002年予算総額 ・・・・・ 81.2兆円
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財務省は少し景気が回復基調に乗ると、財政を引き締め、予算
を緊縮型にして何回も失敗しているのです。橋本政権が失敗した
ことを懲りもせず、繰り返すのです。
2001年は財政面の引き締めに加えて、2002年4月から
定期預金のペイオフ実施を宣言しています。そのため、定期預金
の資金が普通預金と当座預金に移動したのです。
銀行にとっては、安定性のある定期預金が少なくなると、貸し
出しを増加させにくくなるものです。そのため企業間に信用収縮
が起こり、銀行貸し出しは急速に冷え込み、これが景気を押し下
げる要因となったのです。
そして、2001年度の税収は再び50兆円の大台を割ってし
まい、47.9兆円に減少したのです。しかし、このときは現在
よりも8兆円も税収は多かったのです。亡き小渕首相の経済政策
の名残りがあったからです。
しかし、小泉政権による2002年度予算は、前年比マイナス
1.7%の81.2兆円とさらに減少します。これは2年連続の
緊縮予算であり、実に47年ぶりのことだったのです。典型的な
デフレ予算であるといえます。1998年からデフレが進行して
いるのにこういう経済政策をとったために、この時期からデフレ
が一段と深刻化してしまったのです。
デフレでは投資が不足するのです。こういうときに財政再建を
やろうとし、公共投資と財政投融資を減額しているのですから、
デフレが加速するのは当然のことです。
S&PとMDはこういう小泉政権の経済政策を懸念して、日本
の国債を格下げしたのです。S&Pは日本の財政を純債務でとら
えて評価するのに対し、MDは粗債務でとらえるという評価方法
の違いはありますが、ともに日本の名目成長率が低迷し、その回
復が困難であることを見抜いて国債の格下げをしたのです。
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デフレ政策の継続が名目成長率を低迷させているために、国民
の債務負担度合い(各名目GDPに対する政府債務の比率)が
上昇していくのが問題だ。 ――格付け会社のコメント
――菊池英博著、前掲書
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小泉政権が緊縮財政の継続と大増税を実施すれば、さらなる国
債の格下げは不可避でしょう。そうなると、日本経済は文字通り
緊急事態になってしまうはずです。しかし、ここまで説明した通
り、日本は財政危機ではないのです。 ・・・[日本経済05]
≪画像および関連情報≫
・小渕恵三という人物の知られざる一面
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ピアニストの中村紘子も小渕を高く評価する一人である。小
渕は十年ほど前から中村の家で開かれるピアノパーティーの
常連客になっている。クラシック音楽の鑑賞をはじめとする
小渕の芸術好きは有名で、休みがとれると好きな絵の展覧会
やコンサートにせっせと足を運んでいる。小渕は、政治家な
ら必ず付きものの宴席にはほとんど顔を出さない。出したと
しても、すぐに帰ってしまう。小渕は某夜ひそかに料亭に集
まって陰謀をこらすといった政治家にありがちなビヘイビア
とは、およそ無縁な男である。
――佐野眞一著、『凡宰伝』
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