2009年08月04日

●「米国債のサブプライムローン化の進行」(EJ第2626号)

 かつて米国債は、経済成長のための重要な原資だったのです。
米国債は、ドル資産という基軸通貨国の特権を武器に世界中に売
りさばかれ、高い流動性を有していたのです。この国債による資
金が過剰消費に伴う米国の巨額の経常赤字を補い、米国は高い経
済成長を成し遂げてきたのです。
 ところが、サブプライム問題が発生した2008年の秋からは
状況が一変したのです。国債による資金は、サブプライム問題で
大きな損失を蒙り、自力で立ち行かなくなってしまった大手金融
機関や大企業、そして過剰債務を抱えて破産状態に陥った個人を
救済する資金に化けてしまったのです。
 この現象について三菱UFJ証券の水野和夫チーフエコノミス
トは、これは投資の失敗によるキャピタルロスの穴埋めという視
点から「米国債のサブプライムローン化のはじまりである」と指
摘しています。
 成長のための投資からキャピタルロスの穴埋め――この変化は
必然的に米国債の減価につながるのです。いうまでもないことで
すが、国債は税収で償還されるものです。しかし、その税収自体
が減っているのです。
 現在の米国は、国民の30%が生活資金を借金に頼っている状
況なのです。したがって、増税はおろか、税金の徴収ですら困難
な状況であり、国債の償還が厳しくなっています。
 そして、米国債のキャピタル・ロスは、ドルの減価で調整せざ
るを得なくなります。つまり、米国債下落分をドル安という為替
調整で穴埋めすることになるのです。ここにドル安不安が生まれ
ることになります。
 こういう米国債の不安リスクは国債の売れ行きにはっきりとあ
らわれているのです。それは、投資家が長期国債よりも短期国債
にシフトしているところにあらわれています。
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      08年4月までの1年間 09年4月までの1年間
  短期国債    1106億ドル     4535億ドル
  長期国債    3092億ドル     2689億ドル
                  ――米財務省の資料より
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 2008年4月までの一年間では、短期国債1106億ドルに
対して長期国債は3092億ドルで、長期国債が短期国債の3倍
であり、長期国債にシフトしていたのです。
 しかし、2009年4月までの一年間で、短期国債4535億
ドルに対して、長期国債は2689億ドルと1.7 倍に逆転して
しまっているのです。
 その首謀者は、このほど日本を抜いて米国債の保有高で首位に
なった中国なのです。中国は欧米向けの製品輸出が増えて、この
3月末の時点の外貨準備は、世界最大の1兆9537億ドル積み
上がっているのです。このように、米国債保有高は4月末時点で
7635億ドルとトップに立ったのです。
 中国は日本と違ってはっきりとものをいう国であり、米国債の
保有によって、戦略的にも中国は有利なポジションを占めるよう
になっているのです。米国の手綱は中国に握られてしまっている
のです。
 そのためオバマ政権は、ガイトナー財務長官に中国を訪問させ
米国債の購入に協力を求めていますが、中国はそんなに甘い国で
はないのです。現にガイトナー財務長官と面談した中国人民銀行
元政策委員である余永定氏は次のようにガイトナー財務長官にク
ギを刺しています。
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  中国は米国債を当然のように購入し続けるわけではない
           ――余永定中国人民銀行元政策委員
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 さらに、7月27日と28日の2日間にわたって、ワシントン
で行われた初の米中戦略・経済対話における米国の低姿勢ぶりは
世界の超大国としてのかつての矜持はなかったと考えます。
 この経済対話の米側の出席者は、ガイトナー財務長官、バーナ
ンキFRB議長、サマーズ国家経済会議(NEC)議長と、経済
のキーパーソンのフルメンバーが出席しているのです。
 7月29日の日本経済新聞では、戦略・経済対話について次の
ように報じています。
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 米中戦略・経済対話(SED)では、従来と「攻守」が逆転し
 ている。中国が、米国の財政再建を強く求める一方、米国の人
 民元切り下げ要求は弱まっている。中国が世界一の米国債保有
 国となり、発言力が増大したためだ。(中略)悪化する財政を
 抱える米国が「守勢」に回る今回の構図は、06年以来続いて
 いるこれまでのSEDと比べ、様変わりしている。
         ――2009年7月29日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 その中国は、明らかに米国債下落リスクに対してはっきりと手
を打っています。長期国債を減らし、短期国債を増やすとともに
これまで毎月のように米国債保有額を増加させてきたのに、この
4月については、前月比44億ドルを減少させているのです。
 さらに、6月5日には、中国が外貨準備で「IMF債」を最大
で500億ドル購入することを明らかにしています。ドルに偏重
した外貨準備の運用を何とか多様化させようとしていることは確
かなことです。
 この中国の動きには、BRICsのロシアとブラジルが呼応し
たのです。ロシアは、保有する米国債を売却してドル資産での運
用を低下させ、IMF債を100億ドル引き受けると表明し、ブ
ラジルも同様に100億ドルのIMF債の引き受けを表明してい
ます。インドも近くこれに追随する予定であり、BRICs全体
で、総額700億ドルを超えるIMF債を購入することになると
思われます。          −―[オバマの正体/16]


≪画像および関連情報≫
 ●IMF債とは何か/2009.7.2付、産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ワシントン=渡辺浩生】国際通貨基金(IMF)は7月1
  日の理事会で、設立以来初めてとなる債券発行を正式決定し
  た。日本や米国など主要加盟国からの融資に依存していた資
  金調達手段が多様化し、金融危機に陥った国への支援にIM
  Fの財源を拡充する。中国やブラジル、ロシアが最大700
  億ドル(約6兆7000億円)分を購入する意向を表明。新
  興国のIMFへの発言力拡大に道を開く契機にもなる可能性
  がある。             ――産経ニュースより
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090702/fnc0907022329026
  ―――――――――――――――――――――――――――

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米中戦略・経済対話
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | オバマの正体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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