ルは何に使われたのでしょうか。
このことを考える前に、そもそもTARPの7000億ドルは
何のために使う資金として用意されたのかということを知ってお
く必要があります。
住宅ローンは、米国の金融システムにおいて大きな割合を占め
ていますが、そのほとんどは証券化され、金融機関をはじめとす
る投資家が保有しているのです。住宅ローンを返済できなくなる
人が多くなり、住宅の差し押さえが実行されると、住宅市場が悪
化し、金融機関に大きな損失が発生することになります。
そこで政府が不良債権化したそれらの住宅ローン関連証券を買
い取り、住宅ローンの条件を緩和して住宅市場のさらなる悪化を
食い止めるというのがTARPの狙いであったのです。
しかし、TARPが承認され、住宅ローン関連証券を買い取る
前に、次々と大規模な金融危機が襲ってきたのです。金融システ
ムが麻痺してしまうと大変なので、TARPの資金を使って急遽
金融機関へ資本注入をせざるを得なかったのです。
そのため本来の目的である住宅ローン関連証券の買い取りは行
われておらず、住宅ローンの債務不履行や差し押さえを食い止め
ることはできていないのです。そこで、一時は住宅ローンの不履
行による差し押さえを凍結していた政府系住宅金融機関も現在で
は差し押さえを進めているのです。
しかし、公的資金を注入された金融機関がその資金を住宅市場
の安定化や新規の貸し出しに使っているならまだ良いのですが、
大手金融機関に注入された公的資金は国債購入に回されるという
結果に終わっているのです。もともと米国にお金があるわけでは
なく、国債を発行して資金を用意しているので、どうしてもこう
いうことになってしまうのです。このように、TARPの資金は
本来の目的とは違う目的に使われているのです。
このTARPの資金は、100億ドルがゴールドマン・サック
スに流れています。ゴールドマン・サックスはこの100億ドル
を市場金利より低い条件で受け入れています。しかし、そのとき
この資金は幹部の給料やボーナスに使ってはならないという条件
が一応付けられているのですが・・・。
時の財務長官はゴールドマン・サックスのCEO出身のポール
ソン氏であり、その財務長官が自分の出身母体の企業に100億
ドルを有利な条件で融資する――きわめて不健全です。しかも、
その資金の使い道について、FRBも当の財務省も一切公開して
いないのです。
どうしてゴールドマン・サックスが優遇されるのかというと、
ゴールドマン・サックスがAIGの最大の債権者であることが影
響していると思われます。このAIGという保険会社は、シティ
グループと同様に米国が絶対に潰せない金融機関であるといわれ
ているのです。
そして、現在TARPの権限は、ガイトナー財務長官が一手に
握り、現在公的資金を銀行救済という名目で注入し続けているの
です。彼は歴史上最大の規模とスピードで、公的資金を使ってい
ます。しかし、その注入先は浜田和幸氏にいわせると、「仲間」
「内輪」「友達」に限られているというのです。これについて、
浜田氏は次のようにいっています。
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これは、市場の競争原理をまったく無視しており、アメリカの
自由競争社会の在り方を根底から覆してしまったと言ってもい
い。ちなみに、ガイトナー財務長官の首席補佐官はゴールドマ
ン・サックスのロビイストでならしたマーク・パターソン氏で
ある。もはや、アメリカにおいては、資本主義は死んだと言っ
ても過言ではないだろう。
――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
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このように現在、TARPを通して資本注入を受けている金融
機関は、米国消費者教育財団のレポートによると、この10年間
に50億ドル(5000億円)を超える資金が金融機関からワシ
ントンの有力政治家に対して政治献金として投入されているとい
う事実がレポートされているのです。
目的は、金融機関にとって有利な法案作りや運用を加速させる
ためであり、そのためにウォール街から実に3000人を超える
ロビイストが送り込まれているというのです。
ロビイストというのは、ロビー(政治家の控室という意味)で
活躍する者という意味であり、政治的圧力団体の代理人として政
党や議員や官僚、さらにはマスコミや世論に働きかけて、その団
体に有利な政治的決定を行わせようとする人たちのことです。
あの「グラス・スティーガル法」を廃案にしてしまったのも金
融機関によるロビー活動の成果なのです。多くの証券会社が献金
を積み重ね、5億ドルを超える資金を政治家に提供してきたとさ
れています。現在、ワシントンには、4万人を超えるロビイスト
たちが暗躍しているといわれています。
とくに政治家に対してこれまで巨額な献金をしてきたのは、ゴ
ールドマン・サックス、シティグループ、そしてメリルリンチで
あり、これら3社は献金御三家と呼ばれています。
これらの政治献金は、55%が共和党の政治家に、残りの45
%は民主党の政治家に流れていたのですが、2008年に関して
は、オバマ効果によってその大半が民主党に流れているというこ
とがいえます。このように巨額のウォール街の資金が、長年にわ
たってワシントンに注ぎ込まれているのです。そのため、財務長
官のポストは、ほぼ例外なくウォール街の金融機関のCEOの指
定席になっているのです。
オバマ大統領は、選挙中の公約として、「自らの政権からロビ
イストを一掃する」といっていたのです。しかし、彼が大統領に
なってもロビイストの数が減ったという話は一向に聞こえてこな
いのです。 −― [オバマの正体/11]
≪画像および関連情報≫
●町田徹の“眼”/2009年7月17日
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7月に入って、米市場がもたついている。異例の速さでめど
がついたゼネラル・モーターズ(GM)の再建、過去最高益
を記録したゴールドマン・サックスの四半期決算公表といっ
た予想外の好材料が続いても、ニューヨーク株式市場はそれ
らの好材料にほとんど反応せず、ダウ平均(工業株30種)
は15日の終値が8616ドル21セントと6月の高値(8
799ドル26セント、12日)すら追い抜けない状態に陥
っているのだ。
http://diamond.jp/series/machida/10084/
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浜田和幸氏