れています。この法律は金融機関が一般家庭の投資熱を煽った反
省から生まれたもので、証券業務と銀行業務を分離しています。
ところが、この法律は1994年に廃止されているのです。
この法案を廃案に追い込んだ立役者とされているのが、フィル
・ダレアム前上院議員であり、昨年の大統領選の共和党のマケイ
ン候補の経済顧問をしていた人物です。
そして、1999年に「グラム・リーチ・ブライリー法」が制
定され、金融機関同士の垣根が撤廃されたのです。これによって
銀行と証券の区別がなくなり、金融機関同士の競合が激化するこ
とになったのです。この法律の制定によって、金融投資テクノロ
ジーが発達し、デリバティブが激増したのです。
ここで、この法案の成立を推進したのは、クリントン政権で財
務長官をしていたロバート・ルービン氏とローレンス・サマーズ
氏であったという事実を覚えておくべきです。
1993年から2001年までのクリントン政権は、ITや不
動産バブルを政策的にもたらし、この法律を活用し、米経済を活
性化させているのです。
しかし、この「グラム・リーチ・ブライリー法」こそが、今回
の金融危機をもたらした元凶なのです。もし、この法律がなけれ
ば、保険会社のAIGが大量のCDSを抱え込むことも、投資銀
行(証券会社)が少ない資本でレバレッジを最大限に利かせて投
資に奔走することもなかったし、リーマン・ブラザーズも破綻す
ることはなかったのです。
オバマ氏は、大統領選にあたって、この「グラム・リーチ・ブ
ライリー法」を徹底して批判し、タックスヘイブンの濫用を防止
する法案を強力に推し進めていたのです。
タックスヘイブンとは、和訳すると「租税回避地」という意味
であり、外国資本や外貨獲得を目的として、意図的に税金を優遇
(無税または極めて低い税率)して、企業や富裕層の資産を誘致
している国や地域のことをいい、ヘッジファンドの顧客である富
裕層が税金逃れのために利用しているのです。オバマ氏はこれに
規制をかけようとしたのです。
このことは一般の国民から見ると、オバマ氏の主張は正当性が
あり、支持できるのに対し、ヘッジファンド業界やウォール街に
とってオバマ氏は脅威です。ヘッジファンド業界やウォール街と
しては、最良の選択は共和党のマケイン氏であり、次善の策はヒ
ラリー・クリントン氏なのです。
しかし、彼らの選挙分析によると、共和党のマケイン氏は形勢
が不利であり、クリントンも勝てそうもないと判断したのです。
ヘッジファンドは商売がら調査分析はお手のものなのですが、ど
のように考えても大統領はオバマ氏になると予測したのです。
ヘッジファンドの調査では、2008年4月の時点で、クリン
トン、オバマ両候補の献金総額は次のようになっていたのです。
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クリントン候補 ・・・・・ 860万ドル
オバマ候補 ・・・・・ 4250万ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
この調査結果を見て、ヘッジファンド業界はオバマ勝利間違い
なしと踏んで、オバマ候補に対する献金を加速させたのです。勝
ち馬に乗るのは彼らの常道だからです。
ヘッジファンド業界がマケイン候補に乗らなかったのは、支援
しても大きなリターンが見込めなかったからです。というのは、
マケイン氏の妻のシンディーさんは、ヘンズレー一族の出身であ
り、米国最大のビール販売会社であるヘンズレー株式会社の社長
であり、米国でも有数の資産家であって、選挙資金にはぜんぜん
困らなかったからです。
したがって、2008年9月のウォール街の崩壊は、富裕層に
属するマケイン候補には不利に働き、オバマ大統領の実現を後押
ししたのです。ヘッジファンド業界やウォール街の予測は、見事
に的中したのです。
注目されるのは、金融危機の元凶ともいうべきヘッジファンド
業界やウォール街から多額の献金を受けて大統領に当選したオバ
マ氏のスタンスです。選挙戦が終わった時点でヘッジファンドや
ウォール街は金融危機を引き起こした極悪業界とされてしまって
いたからです。
オバマ新政権が発足すると、オバマ大統領とティモシー・ガイ
トナー財務長官は、ウォール街の強欲資本主義者たちの仲間の中
にヘッジファンドを加えて、その情報開示や預かり資産の運用に
ついての透明性を求める動きを強化する方針を打ち出しているの
です。これは投資家の機密保持を何よりも身上とするヘッジファ
ンドにとって好ましい動きではなかったのです。
オバマ大統領とガイトナー財務長官によるこの公式な発言によ
って、オバマ新政権とヘッジファンド業界とは対立しているよう
に見えたのです。
しかし、不可解なことに、オバマ陣営は大統領の就任式の費用
をヘッジファンド業界に出してもらっているのです。このときの
費用は1億5000万ドル(150億ドル)もかかっています。
オバマ大統領は、国家財政が逼迫しているときであり、連邦政
府の予算は使わないことを宣言し、ロビー団体や特定の業界から
の資金も受け取らない方針を明らかにしていたのです。オバマ本
人の意向としては、ネットを通じて集める国民からの少額の寄付
をあてにしていたのですが、すでに多くの寄付を選挙資金として
集めていたので、期待したほどのお金は集まらなかったのです。
そこで最終的にオバマ陣営は、ヘッドファンド業界に募金の要
請を行い、ジョージ・ソロス氏をはじめとするヘッジファンド業
界の立役者たちはこぞってオバマ陣営の要請に応じたのです。
かくして、オバマ政権とヘッジファンド業界はこうした献金を
通じて切っても切れない関係になっているのです。これから規制
しようという業界とです。 −―[オバマの正体/07]
≪画像および関連情報≫
●「グラム・リーチ・ブライリー法」について
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1999年に米国の金融近代化法ができました。法案審議を
主導した各委員長名前を取って、「グラム・リーチ・ブライ
リー法」と呼ばれています。この法律で、グラス・スティー
ガル法によって銀行、保険、証券という金融業務を分離して
いた垣根が撤廃。金融に関するあらゆる業務が、金融持株会
社を創設することで、一つの母体で運営されることが可能に
なりました。米国の金融制度の大転換であり、金融制度は一
挙に世界恐慌以前のなんでもありの体制に戻されました。
http://www.kokuminrengo.net/2008/200811-economymotoyama.htm
●EJ第2489号/「グラム・リーチ・ブライリー法」
http://electronic-journal.seesaa.net/archives/20090114-1.html
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オバマ大統領とガイトナー財務長官