2001年10月22日

生保契約の解約権をめぐる最高裁判決(EJ726号)

 今朝は生命保険についての話です。昔から生命保険の死亡保険
金は、指定受取人の固有財産であるということに相場が決まって
いたのです。これは生命保険という金融商品の最大の特色という
べきものであり、その販売に当たっても生保セールスマンが強調
すべきポイントだったはずです。
 しかし、最近の生保セールスマンはその大事な特色を知らない
人が多いようです。これは、生保会社によるセールスマン教育が
徹底されていないことの証明といえます。また、最近は、図解入
りで生命保険のことを解説する本が多く出ていますが、この大事
なことにはふれていないものが多いのです。
 私は3年ほど前から、「保険情報」紙にパワーポイントのスラ
イド作品を制作する連載を続けており、今年の6月からは「生命
保険シリーズ」の制作を行っています。その第125回と126
回で「保険金は差し押さえの対象になるか」というテーマを取り
上げたさい、この問題についてリサーチしたところ新しい重要な
ことがいくつかわかったので、今朝は少し固いですが、このテー
マを取上げたいと思います。
 新しい重要なこととは、最近税務署が国税を滞納している企業
の財産を差し押さえるさい、その企業が加入している生命保険契
約を差し押さえ、税務署が、その契約を解約して滞納分に当てる
ケースが多くなっているということです。
 継続中の保険契約については、確かに以前から税務署としては
他に差し押さえる財産がないときは最後の手段としては、差し押
さえることがあるということは聞いていたのですが、滅多にやら
ないと考えていたのです。それが頻繁に行われているとは、それ
だけ不況が深刻化している証拠といえます。
 しかし、それだけではないのです。一般債権者による貸金の取
り立てにおいても、1999年9月9日にそれを認める最高裁の
判決が出ているのです。これによって、継続中の生命保険契約は
普通の財産と同じように差し押さえができることになるのです。
 生命保険の受取人の地位は本来不安定です。というのは、受取
人は契約者によって自由に変更できるからです。といっても、不
自然な受取人変更は、生保会社はなかなか認めないはずです。保
険金殺人事件が多発しているので、生保会社は慎重なのです。
 しかし、この契約者の受取人変更権を契約者自身が放棄するこ
とも可能です。生命保険契約の申込書の中に「私は保険金受取人
変更の権利を留保します」と書いてありますが、それを「・・・
留保しません」と変更することによってそれは可能になります。
しかし、そのようなことを契約前に、説明するセールスマンは少
ないようです。
 このように不安定な地位の受取人も被保険者が死亡すると、受
取人の地位は確定します。それどころか、その死亡保険金は受取
人の固有財産であって、何人もそれに手をふれることはできない
のです。
 夫が被保険者と契約者で、妻が受取人の契約において、契約者
が死亡したとします。この場合、契約者に多大の借金があったと
いう場合でも、妻が受け取る保険金には差し押さえはできないの
です。これが、死亡保険金が固有財産であるという意味です。
 ですから、「借金で首が回らないので保険なんか入れない」と
断るお客に対して、「借金があるからこそ生命保険に加入すべき
です。手付かずにご家族に財産を残すために・・・」といって説
得したものです。
 しかし、継続中の生命保険契約の場合は違うのです。税務署が
国税滞納企業を差し押さえる場合、はじめに預金や売掛金、不動
産などをチェックし、他に差し押さえる財産がなくて、解約返戻
金が企業に入る生命保険契約がある場合は、差し押さえを行うと
いうのです。
 この場合、契約者や受取人が誰になっていても、差し押さえた
保険契約の解約権は税務署側にあり、税務署長の名前で解約がで
きるのです。しかし、企業が加入している養老保険の加入形態は
役員や従業員が被保険者で契約者と受取人が企業という形と、契
約者が企業で受取人が役員や従業員という形があります。
 これらの契約の目的は、役員の退職慰労金や従業員の退職金と
して使われるケースが多く、保険契約の差し押さえラッシュは多
方面で問題化しつつあります。そのため、税務署としても保険契
約の差し押さえは最後の手段といっているのですが、ここにきて
その件数は増加しているそうです。
 しかし、税務署の差し押さえよりもショックなのは、一般債権
者による貸金取り立てで、生命保険契約の解約権を最高裁が認め
たことです。
 いきさつを説明します。この裁判は、知人にお金を貸した東京
都内のエンジン修理業者が、約束通り貸金が返済されないので、
その知人が契約していたM生命の生命保険(定期付終身保険)の
解約返戻金請求権を差し押さえたうえ、解約しようとしたところ
M生命に拒否されたので、提訴したものです。
 一審の東京地裁は、債権者の解約権を認めM社に54万円の支
払いを命じたのですが、M社はこの判決を不服として直接最高裁
に上告して法的判断を求めていたのです。
 しかし、1999年9月9日、最高裁第一小法廷として初めて
「債権者の持つ解約権を認める」という判決が示されたのです。
この判決に関与した裁判官は5人ですが、そのうち1人の裁判官
は「上告人に解約返戻金の支払いを命じた原判決には法令の解釈
を誤った違法性がある。原判決を破棄し、被上告人の本件請求を
棄却すべきである」という反対意見を述べたのですが、5対1で
解約権を認める判決が出てしまったのです。
 反対意見を述べた裁判官は、解約返戻金請求権を差し押さえる
ことは許されることであるが、その契約の解約権を行使すること
は問題であるとしています。
 この最高裁の判決は生命保険人として研究すべきテーマである
と思います。なぜなら、この判決は生活保障としての生命保険の
機能を著しく脅かすものであるからです。

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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