り上げました。本来出自については本人であるオバマ氏に責任は
ないわけですが、ことは大統領の資格にかかわる問題であり、そ
れを隠していることには問題があります。
ところで、オバマ米大統領は、大統領に就任してからは、選挙
期間中にしきりに訴えていたことと異なることをいくつもやって
いるのです。いわゆる「オバマの変節」です。それは小さいこと
から大きいことまでいろいろありますが、これについては少しず
つ明らかにしていきます。
オバマ大統領は、2009年1月20日の大統領就任演説にお
いて次の趣旨のことを述べています。
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アメリカの経済はひどく弱体化しており、一部の強欲な資本主
義者と「多くの一般の国民」が、難しい決断を避け、新しい時
代に備えることができなかったことにその原因がある。
――オバマ米大統領就任演説より
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つまり、米国の経済が弱体化してしまったのは、一部の強欲な
資本主義者と多くの一般の国民が難しい決断を避けたことが原因
であるといっているのです。
しかし、選挙期間中にオバマ氏は同じ趣旨のことを何回も繰り
返し訴えているのですが、そのさいには、米国経済を弱体化させ
た責任は、「一部の強欲なウォール街のファンド・マネージャー
や金融機関の経営陣にある」とはっきりと特定していて、「多く
の一般の国民」は入っていなかったのです。もし、オバマ氏が国
民にも責任があると本当に思うなら、選挙のときの演説でもはっ
きりとそういうべきであったのです。しかし、それをいえば選挙
は負けていたかもしれないのです。
また、選挙期間中の演説で訴えていたグリーンニューディール
政策や500億ドルの資金を投入して500万人の新たな雇用を
創出するなど、具体的に政策を訴えていたのに、就任演説ではそ
ういう具体的な目標や数字は影をひそめ、きわめて抽象的ないい
回しに後退してしまっているのです。たとえば、米国の産業競争
力を高めるために、大学や医療を無料化するという表現は、「新
しい時代の要請に合うように大学を変えていく」という抽象的表
現に後退しています。
そしてかつてのケネディの演説のように、国家の困難に立ち向
かうには、すべてを国に頼るのではなく、国民一人ひとりが困っ
ている人に親切心や無私の心で救いの手を差し伸べ、国民全体の
責任ある態度と行動によって、難局を乗り切ろうと、ここでも国
民の責任を強調しているのです。
もっともこれは仕方がないことであるかもしれないのです。オ
バマ氏は選挙中は米国がそこまで傷んでいるとは考えていなかっ
たのではないかと思います。しかし、実際に政権を担当するにあ
たってあまりにも厳しい米国の実情を知り、自分が選挙中に訴え
てきた「チェンジ」をすることがいかに困難であるかわかってき
たので、表現を大幅に後退せざるを得なかったのでしょう。そし
て、次のように国民に対して責任ある役割を求めるトーンの就任
演説にならざるを得なかったと考えることができます。
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この試練を乗り越えるためには、資本主義も社会主義もない。
あるのは責任主義である。国家に頼る気持ちを捨て、国民一人
ひとりがどれだけ責任ある役割に目覚めるかである。
――オバマ米大統領
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オバマ氏は、選挙を通して次の3つのキーワードで有権者に訴
えてきたのです。
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1.ホープ ・・・・・ 希望
2.チェンジ ・・・・・ 変革
3.ビリーブ ・・・・・ 信ずる心
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この中で最もインパクトが強かったのは「チェンジ」です。一
体何をチェンジさせるのでしょうか。
よく考えてみると、米国をここまで凋落させたのは、一部の強
欲なウォール街のファンド・マネージャーや金融機関の経営陣だ
けではなく、多くの一般の国民にもその責任はあるのです。
というのは、貯金をせず、計画的に頭金を準備することなく、
欲しいものがあればローンで何でも手に入れるライフスタイル、
欲しいものはすぐに手に入れたい、そうでなければ満足できない
という消費行動が多くの国民の間で定着していたことは確かなの
です。それが家電製品ぐらいであればまだよかったのですが、や
がて車や住宅までそのような計画性のない消費行動で手に入れる
ようになっていたのです。
オバマ氏がチェンジさせたかったのは、米国社会に定着してい
るこういう消費行動だったのではないでしょうか。しかし、そう
いう国民のライフスタイルをチェンジさせるのは容易なことでは
ないのです。多くの米国民は、オバマ大統領をあたかも救世主の
ように考えていて、現時点でも多くの期待を抱いています。
これについて、既出の浜田氏は次のように述べています。
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一般国民は勝手といえば勝手である。勝手につくりあげた夢に
酔いしれ、厳しい現実を見ようとはしない。そうした夢がいつ
までもつのか?ハネムーン期間と呼ばれている就任後「最初の
100日間」は過ぎたが、まだオバマ大統領への期待感は残っ
ている。しかし、多くのアメリカ人の不満や失望感が爆発する
恐れは、日増しに高まりつつある。
――浜田和幸著、『オバマの仮面を剥ぐ』/光文社刊
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−―[オバマの正体/06]
≪画像および関連情報≫
●オバマ米大統領就任演説より
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政府はやれること、やらなければならないことをやるが、詰
まるところ、わが国がよって立つのは国民の信念と決意であ
る。堤防が決壊した時、見知らぬ人をも助ける親切心であり
暗黒の時に友人が職を失うのを傍観するより、自らの労働時
間を削る無私の心である。我々の運命を最終的に決めるのは
煙に覆われた階段を突進する消防士の勇気であり、子どもを
育てる親の意思である。(一部略)いま我々に求められてい
るのは、新しい責任の時代に入ることだ。米国民一人ひとり
が自分自身と自国、世界に義務を負うことを認識し、その義
務をいやいや引き受けるのではなく喜んで機会をとらえるこ
とだ。困難な任務に我々のすべてを与えることこそ、心を満
たし、我々の個性を示すのだ。 ――オバマ米大統領
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オバマ米大統領就任演説