2006年01月26日

なぜ、債務をかさ上げするのか(EJ1761号)

 日本の粗債務が795兆円であることは、昨日のEJで述べた
通りです。しかし、政府は多額の金融資産を持っているのです。
財務省は金融資産の方は隠して、粗債務の795兆円だけを強調
し、危機をあおっているのです。
 それでは、政府の金融資産はどのくらいあるのでしょうか。金
融資産については、毎年末に内閣府が「国民経済計算」として発
表しています。
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     社会保障基金 ・・・・・ 254兆円
     内外投融資 ・・・・・・ 136兆円
     外貨準備 ・・・・・・・  90兆円
     ――――――――――――――――――
                  480兆円
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 ここで内外投融資とは、政府の国内外への投資と融資のことで
あり、外貨準備とは、急に外貨が必要になることに備えて政府が
保有している外国通貨のことです。
 そうすると、純債務は次の式で明らかになります。
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 粗債務795兆円−金融資産480兆円=純債務315兆円
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 粗債務から金融資産を引くと315兆円――これが純債務なの
です。それにしても、480兆円といえば、日本のGDP(5O
O兆円)に匹敵する額であり、これほどの金融資産を保有する国
は日本しかないのです。したがって、日本の財政を主要他国と比
較するときは純債務で見るべきなのです。これでも日本は財政危
機といえるのでしょうか。
 それに日本は世界一の債権国――世界一の海外債権を持つ国な
のです。最新のデータは2003年末のものですが、132兆円
が海外に投資されているのです。
 どこからこれほどのお金が出てくるのかというと、このベース
になるものは、1400兆円を超す個人金融資産なのです。それ
では、この1400兆円の個人金融資産がどのように使われてい
るのでしょうか。
 菊池英博文京女子大学教授の著書にその詳細が掲載されている
ので、以下にわかりやすく示します。2003年末の「国民経済
計算年報」データ(「国民経済計算年報」)を使っています。
 2003年末の個人金融資産は1452兆円、そこから金融機
関などで3兆円使われ、残りが1449兆円――これが次の4つ
の部門で使われているのです。
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  ≪金融資産/1449兆円≫
  家計   380兆円 ・・ 住宅ローン/消費者ローン
  企業   558兆円 ・・ 企業活動で必要な投資融資
  政府   379兆円 ・・ 国の純債務分に投入
  海外   132兆円 ・・ 海外に投入
  ――――――――――――――――――――――――――
      1449兆円
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 このように実際に数値を当たってみると、日本の財政は別に問
題はないように見えます。2000年1月に経済企画庁(現内閣
府)は、1998年度末の国の貸借対照表を次のように発表して
います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           資 産         負 債
    金融資産 363兆円  国債など 403兆円
    固定資産 326兆円  その他  155兆円
    土  地 162兆円  正味資産 293兆円
    ――――――――――――――――――――――
         851兆円       851兆円
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 これによると、国は363兆円の金融資産を持ち、固定資産を
326兆円、土地を162兆円保有しており、合計で851兆円
の資産を持っているのです。
 これに対して負債の方は国債その他で558兆円あるものの、
資産と相殺すると、正味資産293兆円を有する堂々たる資産国
家ということになります。
 ところが不思議なことが起こったのです。2000年10月に
大蔵省(現財務省)は次のように発表したからです。
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 1998年度末で日本国は最大776兆円の債務超過である
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 経済企画庁が正味資産293兆円であると発表した1998年
度末のデータがなぜ776兆円もの赤字になるのでしょうか――
にわかには理解できないものがあります。
 大蔵省の説明によると、次の追加債務があって、それを差し引
くと、776兆円の債務超過になるというのです。
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          公的年金債務
          公務員給与/退職金
          郵便貯金
          保険準備金
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 これらの総額は、「正味資産293兆円+776兆円」により
1069兆円と巨額になります。しかし、これらの債務はすべて
見合いの資産があるのです。郵便貯金にしても簡易保険にしても
運用資産というものがあります。公的年金には保険料徴収権、公
務員給与や退職金には徴税権があります。大蔵省はそういう資産
を無視して債務のかさあげをはかっている――菊地氏はそう訴え
ています。             ・・・[日本経済03]


≪画像および関連情報≫
 ・2005年/森田実政治日誌[477]
  大増税反対の精密な理論書が出版された。これで大増税は阻
  止できる!菊池英博(文京学院教授)著『増税が日本を破壊
  する』(ダイヤモンド社発行)を読み、小泉内閣が宣伝する
  借金795兆円のカラクリを知ろう――本当は「財政危機で
  はない」理由を知れば、日本国民は自信を回復することがで
  きる。

1761号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本は本当に破綻危機なのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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