ある景気対策を行う必要があります。現在、日本、米国をはじめ
とする各国がやっている景気対策は、どう考えても速効性がある
とはいえないでしょう。
「有事の経済理論」に基づく景気対策として、大前研一氏は次
の具体策を提案しています。
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個人に対して、バランスシートと減価償却の概念を導入する
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日本のGDPの60%は個人消費なのです。公共投資や企業の
設備投資などよりもずっと大きいのです。したがって、そういう
個人が消費したくなるようなインセンティブを考え出せばよいの
です。そういうアイデアはいくつもあるはずです。
住宅を新築・増改築したとします。この場合、その建築にかか
る費用を10年間で減価償却できるようにするのです。つまり、
建築費用を10年間に分割して、その年の損失とみなして、所得
から控除するのです。
これをやると、相当の高額所得者でない限り、10年間は所得
税がゼロになります。そのため、住宅購入や増改築をしようとす
る人は増えるはずです。もちろん、この場合、それができる資金
を持つ人だけしか対象にはなりませんが、国全体としてみた場合
住宅の新築・増改築の動きがさかんになることは確実なので、景
気対策としては有効であるといえます。
これに関連して大前氏は「書斎減税」を提案しています。サラ
リーマンが勉強するために書斎(定義は必要であろうが)を持っ
た場合、その改築費用に加えて、PCやソフトウェア、机、椅子
本棚などの購入代金をすべて必要経費として認め、税金から還付
するというものです。
この書斎減税のアイデアを大前氏が以前から提案していたこと
を私は知っています。エリートや学者の提案だという批判はあり
ますが、これは大前氏自身が若くとして米国に留学し、米国の大
学の奨学金をもらったうえで授業料免除、それに加えて生活費ま
で支給されるというかつての米国の最も寛大なる部分を体験して
いる人であるからこそ出てくる提案であると思います。
他の国の人間に対して、優秀であればこれほどの援助をしてい
るのです。まして自国民であれば、学生でもサラリーマンでも書
斎を作ったり、学校に通って自己投資をする人には経費を還付す
るべきであると大前氏は主張するのです。これに関連して大前氏
は次のように述べています。
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努力すれば報われる社会のほうが悪平等社会よりもずっと国民
の「格差感」は少ないはずだ。政府が無理して創り出す偽物の
雇用ではなく、世界との競争に勝てる人材が増えることで結果
的に達成される雇用こそ重要だと認識すべきである。
――「SAPIO/3/25」/小学館刊
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さらに企業に対しては、減価償却の期間を短くする対策を打ち
出すべきであると大前氏は主張します。これについては、良い前
例があるのです。
かつてロボットの減価償却を2年にしたところ、企業は先を争
って導入したことがあります。また、PCの減価償却期間を6年
から1年にしたときも企業へのPC導入が一挙に進んだのです。
このように減価償却期間を短くすると、景気の調整弁として有効
に機能することは実証済みです。
こうした対策は、定額給付金などより、すぐに実施できる対策
であるのに日本政府はなぜやらないのでしょうか。現在の政府は
財務省そのものであって、増税には熱心ですが、減税に関しては
とにかく頑なであり、アタマが固いのです。そういうアイデアが
出されると、その実現性を検討するより前に、いかにしてそれを
潰すかを先に考えるのです。
それでは、雇用についてはどうでしょうか。
雇用に関しては、速効的な解決策はないとして、大前氏は次の
ようにいっています。
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実は、雇用問題の有効な解決策はない。これは政治家が最も言
いたがらないことだが、この問題にエブリワン・ハッピーの答
えはないのである。答えがないなら政府は何もしないほうがよ
い。人々は政府に期待することをやめ、ヒナ鳥のようにエサを
座して待つのではなく、自己研鋳して何とか職に就こうと努力
するだろう。 ――「SAPIO/3/25」/小学館刊
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大前氏は、短期の雇用対策は実を結ばないといいます。フリー
ターや派遣切りの対策をいくらやっても少なくとも経済は上昇し
ない。派遣切りをいくら法的に縛っても、企業は海外に生産拠点
を移すだけである――大前氏はこのようにいうのです。
以上が大前研一氏の有事経済理論による景気刺激対策です。何
しろ100年に一度の金融危機であり、どのような奇抜な案でも
真摯にその有効性を検討すべきです。
東京大学経済学部長の伊藤元重氏も、逆転の発想を提案してい
ます。それは「3年後から消費税を10%まで引き上げる」こと
を条件に、2年分の増収分として見込まれる25兆円を前倒しし
て、景気対策に使うというものです。
伊藤氏の考える使い方は、将来の日本を良くするための投資と
して温暖化ガス抑制のための投資を上げていますが、とても国民
の理解は得られないと考えられます。ただでさえ不況で苦しい
のにそのうえ増税をされることの反発はすさまじいものになるは
ずです。むしろ国民の反発を抑えるため、それこそ定額給付金と
して配布するのも一案であると思います。25兆円の原資があれ
ば、相当多額の給付金を配布できます。そのぐらいのことをする
時期にきているのです。 ――[大恐慌後の世界/57]
≪画像および関連情報≫
●減価償却について知る/固定資産と減価償却
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普通は、パソコンや自動車などは一年で駄目になるのではな
く数年間は使えます。ですから、これらに対する支出は一年
間の収入に対応するのではなく、数年間の収入に対応すると
考えられます。そこで、いったん固定資産という勘定科目に
プールしておき、減価償却という名目で少しずつ費用として
処理するのです。
http://www.h4.dion.ne.jp/~zero1341/g/24.htm
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