2009年03月25日

●「AIGはなぜボーナスを払ったか」(EJ第2537号)

 話を日本から再び米国に戻します。米国発のグローバルな金融
危機の根本原因を解決すべき米オバマ政権の金融の責任者、ガイ
トナー財務長官とバーナンキFRB議長がAIG問題での責任が
問われています。
 3月18日に米議会の公聴会に呼ばれたAIGのリディ会長兼
最高経営責任者(CEO)は、ボーナス支給はAIGを破綻寸前
に陥れた住宅ローン担保証券に絡むデリバティブ取引を処理する
人材の流出を防ぐためやむを得なかったと釈明しています。
 どういうことかというと、住宅ローン担保証券という時限爆弾
の信管を外す技術を持っている者は、その爆弾を開発した技術者
しかいない――そのため約束しているボーナスを支払って、彼ら
を引き止めるしかなかったというのです。
 現代の最先端の金融技術の知識のない人にとっては、リディC
EOの釈明は言い訳に聞こえるかもしれませんが、これは本当の
ことなのです。これについて、リチャード・クー氏は自著で次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの金融商品(住宅ローン担保証券など)のリスク特性は
 これらの商品を実際に組成した人たちにしか把握できないとい
 う点である。極めて高度な数学を駆使してつくられたこれらの
 商品は、外部の人たちがそのリスク特性を知ろうとしたら、そ
 の証券の構成部分である個々の金融商品の過去のデフォルト率
 などを一つ一つ調べ、それをもう一回組み合わせて全体のリス
 ク特性を計測しなければならない。その作業にはクウォンツと
 呼ばれる高度な数学の知識を持っているチームが必要であり、
 またその作業には一つの証券につき数週間の時間が必要だと言
 われている。           ――リチャード・クー著
  『日本経済を襲う二つの波/サブプライム危機とグローバリ
              ゼーションの行方』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 米金融サービス委員会は24日(本日)に、ガイトナー長官と
バーナンキFRB議長を証人として呼び、AIGボーナス問題の
審議を続ける方針のようですが、こんなことをしていると、「大
統領の金融安定化の試みの障害となり、指導力への信頼に傷がつ
く恐れがある」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)という
指摘も出始めているのです。
 しかし、米国人は楽観的なところがあり、簡単には落ち込まな
い強さを持っていると指摘する人もいます。これに同調するのは
既出の日高義樹氏です。日高氏によると、国際政治のうえから見
て、大国としての要件として次の5つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.広く大きな国土を有している
      2.多くの国民を有していること
      3.資源をふんだんに有している
      4.優れた技術を有していること
      5.教育レベルが高く優秀である
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1に、大国は「広く大きな国土を有している」という特性が
あります。
 広い国土は、戦いをするに当たって、敵の攻撃を吸収する被害
吸収能力を持つことを意味しており、大国の要件です。
 第2に、大国は「多くの国民を有していること」という特性が
あります。
 人口が少なければ、世界の政治にもビジネスにも手を広げられ
ず、他国に大きな影響を与えることは不可能なのです。
 第3に、大国は「資源をふんだんに有している」という特性が
あります。
 ふんだんな資源がなければ戦うこともできないし、自分の利益
を守ることも困難です。資源が豊富なら輸出できます。
 第4に、大国は「優れた技術を有していること」という特性が
あります。
 進んだ技術に基づくモノづくり技術を持っていなければ、政治
力を発揮できず、世界に君臨することは難しいのです。
 第5に、大国は「教育レベルが高く優秀である」という特性が
あります。
 優れた国というのは、教育レベルの高い優秀な国民を多く有し
ているので、世界の国に対して影響力を持てるのです。
 どうでしょうか。これら5つの要件をすべて満たす国は、世界
でひとつ、アメリカしかないのです。したがって、米国はこれか
らも大国であり続けると日高義樹氏はいいます。
 米国の力が衰えて、ドルが基軸通貨の地位を維持できなくなる
という人が増えています。確かにドルに問題が多いことは確かで
す。しかし、ドルに取って替わる通貨はあるのでしょうか。
 ユーロがある――こういう人がいます。ユーロがつくられてか
ら10年が経過し、国際的には重要な通貨になっています。しか
し、それだけでは、基軸通貨にはなれないのです。それはEUの
経済圏が小さいことです。
 ユーロを通貨とする国々の国民総生産は全部合わせても、米国
の13兆ドルに及ばないのです。それにユーロは世界通貨として
つくられておらず、独自の利益を主張する地域通貨なのです。や
はりドルしかない――日高氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドルを世界の基軸通貨として通用させているのは、その背後に
 あるアメリカの軍事力と政治力、そしてアメリカの金融機関の
 システムなのである。この金融機関のシステムが混乱し、アメ
 リカの人々が政治力に対する自信を失ってしまったことから問
 題が生じてきた。         ――日高義樹著/PHP
 『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
―――――――――――――――――――――――――――――
軍事力も基軸通貨には必要なのです。[大恐慌後の世界/55]


≪画像および関連情報≫
 ●苦境に立つガイトナー財務長官
  ―――――――――――――――――――――――――――
  リディ会長の証言で、米連邦準備制度理事会(FRB)は3
  か月前から、ガイトナー長官は2週間前からボーナスの存在
  を知らされていたことが明らかにされ、公聴会の面々が驚い
  た。「AIGが経営危機に陥った時、ガイトナー氏はどこに
  いたのか?」共和党議員が最近、議会で財務長官を攻撃する
  常とう句だ。ガイトナー長官は、ニューヨーク連邦準備銀行
  総裁だった08年9月、リーマン・ブラザーズ破綻の余波で
  破綻の瀬戸際に立たされたAIGへの政府支援策をまとめた
  張本人だ。“暴挙”と言われる巨額ボーナス支給を見過ごし
  支援を重ねた監督責任を問う声が高まっている。オバマ大統
  領は18日、「これほど忙しい財務長官はいない。すべての
  責任は私にある」と長官をかばったものの、財務長官の進退
  問題に発展すれば政権に大きな打撃となるのは確実だ。
                ――ニューヨーク 山本正実
  ―――――――――――――――――――――――――――

AIGリディ会長兼CEO.jpg
AIGリディ会長兼CEO
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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