時代が終わったという人がいます。しかし、一概にそうはいい切
れないと思うのです。それは日高義樹氏の本を読むととくにそう
感じます。
日高氏は、ハドソン研究所の首席研究員として、日米関係の将
来に関する調査・研究に携わっている人ですが、軍事という面か
ら世界を見ることのできる数少ない日本人の一人です。
ハドソン研究所というのは、米国の保守派のシンクタンクとし
て知られ、ブッシュ政権の政策ブレーンなのです。したがって、
日高氏の著書を読むときは一応そのことを頭に置く必要があると
思います。
われわれ日本人は、ブッシュ前米政権によるイラク戦争は、無
謀にして粗野な戦争で、米国にとってベトナム戦争と同様に、大
きな失敗であったと考えています。そして、ブッシュ政権はイラ
クの治安を十分に解決しない状態で、オバマ政権に引き継いだと
いわれています。
しかし、日高氏が自著の第3章で次のタイトルを付けて論じて
いる部分を読むと、米国によるイラク戦争は正当性があったとは
いえないものの、完全に失敗であったともいい切れないのです。
もちろん、戦争展開の過程において、ブッシュ政権による大きな
ミスはたくさんあり、米国人兵士とイラク兵士だけでなく、大勢
のイラクの一般人も死んでいるので、決して褒められたことでは
ありませんが、ブッシュの戦争のすべてが無駄で、無謀で失敗で
あったとはいえない――このように日高氏はいっているのです。
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第3部 ブッシュがイラクで勝ったことをみんな忘れた
――日高義樹著/PHP
『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
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イラク戦争は、最初は実に素晴らしかったのです。最新鋭のタ
ンク、ヘリコプター、空軍力を駆使して、あっという間にサダム
・フセインを追い詰め、バクダットを占領し、数ヶ月後にはサダ
ム・フセインを捕え、死刑にしてしまったのです。
問題は、イラク軍が消滅してしまうと、米国の主力部隊は米国
本土に引き上げ、代わりにやってきたのは、基本訓練を終えたば
かりの新兵だったのです。これは米軍の油断としかいいようがな
いミスだったのです。テロリストたちは、その脆弱な米駐留軍に
付け込んだのです。
とくにイラクの北西部では、イランから侵入したテロリストた
ちが反政府軍と合流して、強固な拠点を作り、そこからバクダッ
ト市内にテロリストたちを送り込み、毎日のように大規模なテロ
攻撃を仕掛けたのです。
ここまでは、世界中の誰もが知っています。そして、このまま
ではイラクはベトナム戦争の二の舞になると世界中の人が考えた
と思います。当のオバマ氏も大統領選を通して、イラク戦争を徹
底的に非難し、最後に米軍はイラクから出ていかざるを得なくな
るだろうとまでいったのです。
しかし、ブッシュ大統領は自らが始めたイラク戦争がベトナム
戦争と同じ泥沼化するのを潔しとしなかったのです。そして、イ
ラク駐留米軍の増強を主張し、それを実行に移したのです。それ
を「ビッグ・サージ」というのです。それによって、ブッシュ政
権は多くの非難を浴びたのです。「ビッグ・サージ」は必ず失敗
する、と。その非難の先頭にたったのはオバマ候補であり、ブッ
シュ大統領を支持したのはマケイン候補だったのです。
ブッシュ大統領は、現地司令官にペトレアス陸軍大将、米軍の
最高司令官にミューレン海軍大将を任命し、短期間に米国の精鋭
部隊16個旅団をイラクに送り込んだのです。まるで本格戦争の
構えです。
米国陸軍の精鋭第82空挺師団や海兵第4師団が中心になって
イラク人の住宅を一軒ずつくまなく捜索し、しらみ潰しに敵を探
す作戦を敢行したのです。そのうえで、精鋭部隊による完全なる
占領体制を取り、テロリストたちをイラク国外に追い払い、戻っ
てこれないようにしたのです。
米軍はペトレアス司令官の巧妙なテロリスト対策や住民工作に
よって、イラク国内をなんとか安定させたのです。「ビッグ・サ
ージ」は見事に成功したのです。2008年夏までには戦闘は下
火になり、テロの数も大きく減り、失敗すると公言したオバマ候
補の予測は外れたのです。そして、マスコミもブッシュ政権を非
難しなくなったのです。その結果、「ビッグ・サージ」を早くか
ら支持していたマケイン候補の支持率が向上したのです。
日本では「自衛隊のいるところは非戦闘地域である」という迷
言を吐く元首相がいる国であり、イラクでの本格戦争のニュース
などはほとんど報道されることはないのです。
確かにイラクの米軍を増強する話は聞いていますが、「ビッグ
・サージ」などという言葉は聞いたことはないと思います。日高
氏によると、ビッグ・サージの成功は世界の軍事史の中でも稀有
のことであるそうです。
米国の保守系の人々は、これでマケイン氏の勝利は間違いない
と確信したといわれます。ところが、です。2008年9月15
日にリーマン・ブラザーズが倒産し、すべてが一変してしまった
のです。そして、米国民はオバマ候補を選択するという大きな賭
けに出たのです。日高義樹氏は次のように述べています。
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アメリカの人々は「ビッグ・サージ」を忘れ、オバマ大統領が
「ビッグ・サージは失敗する」と発言したことも忘れてしまっ
た。そして軍事問題にはまったく関心を払わず、金融の混乱を
「未曾有の危機である」と叫ぶオバマ上院議員を選んだのであ
る。 ――日高義樹著/PHP
『不幸を選択したアメリカ/オバマ大統領で世界はどうなる』
――――――――――― ――[大恐慌後の世界/52]
≪画像および関連情報≫
●旅団と師団はどう違うのでしょうか
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軍隊における部隊の単位です。人数や、規模は国や時代でま
ちまちですが、1師団が大体2〜4個連隊ぐらいで1万人ぐ
らいの集団です。旅団は師団より少ない単位で、だいたい1
2個連隊ぐらいで5千人ぐらいの集団です。上記の数はだい
たいの目安でしかなく、実際にはかなりの幅があるので、感
覚的に理解しておくのが良いと思います。なお軍の単位はだ
いたい、総軍>軍団(方面隊など)>師団>旅団>連隊>大
隊>中隊>小隊>分隊>班となります。
――ヤフー知恵袋より
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ペトレアス陸軍大将