2009年03月11日

●「米経済の2重の負のスパイラル」(EJ第2528号)

 史上最大級の7872億ドルにおよぶ米国の景気・金融対策は
「焼け石に水」といわれています。これに関して、昨日のEJで
述べた「2重の負のスパイラル」について、もう少し詳しく述べ
ることにします。「2重の負のスパイラル」を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.信用収縮スパイラル
        2.雇用減少スパイラル
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 米国の経済の背景には、これら2つの負のスパイラルがあって
景気の急減速の原因となっています。
 第1は「信用収縮スパイラル」です。
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 中古住宅価格の下落 → 不良債権の損失増大 → 住宅ロー
 ンの「貸し渋り」深刻化 → 中古住宅価格下落
           ――「週刊エコノミスト」3/10より
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、住宅価格の急落が信用収縮に結びつくのかということで
すが、それは米国の住宅ローンの特殊性にあります。その特殊性
とは、米国の住宅ローンが「ノンリコース型」であることです。
 住宅ローンが支払えなくなって家を手放したとき、日本では家
を売ってもローン債務を返済できない場合、ローン残額は本人の
責任になりますが、米国の場合は家さえ手放せば、残高の多少に
かかわらず、住宅ローン債務から逃れることができるのです。こ
れが「ノンリコース型」(非遡及方式)です。
 もともと米国がノンリコース型を採用したのは、大恐慌時に多
くの人々が住宅ローンの返済に苦しんだことが採用の理由になっ
ています。しかし、今回はそれがマイナスに働いています。
 ノンリコース型では、住宅の含み損はすべて金融機関が抱え込
むことになります。2008年の住宅差し押さえ件数が前年比で
81%増の233万件に急増した理由の一つはここにあります。
 住宅価格が下落を続けると、当然のことながら、住宅価格は住
宅ローンの残債務を下回ってきます。こういう状態を「ネガティ
ブ・エクイティ」というのです。
 ネガティブ・エクイティになっている世帯は、コロンビア・ビ
ジネス・スクールの推計によれば、2008年8月の時点で10
50万世帯、ネガティブ・エクイティの総額(含み損)は、84
60億ドル(約82兆円)に達しているのです。住宅価格の下落
は続いているので、最終的にはネガティブ・エクイティ世帯は倍
増することは確実です。これによって金融機関は一層の住宅の含
み損を抱え込むことになります。
 2007年末の時点で、サブプライム関連損失は1000億ド
ルであったのですが、2009年1月末にはそれが8000億ド
ル(約77兆円)に膨張しているのです。住宅価格が急落し、住
宅ローン破綻が急増したためです。この8000億ドルの損失の
なかで、米金融機関の損失は4750億ドル(約46兆円)に達
しているのです。
 第2は「雇用減少スパイラル」です。
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 住宅・自動車需要減少 → 生産・雇用減少 → 所得減少 
 → 個人消費縮小
           ――「週刊エコノミスト」3/10より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このスパイラルの「住宅・自動車需要減少」は、第1の負のス
パイラルである信用収縮スパイラルによって起こった個人向けロ
ーンの貸し渋りの結果です。これから金融機関が窮地に追い込ま
れるとこの傾向は加速する恐れがあります。
 今回の負の連鎖は、今までの不況期に比べると、雇用減少の連
鎖のスピードが非常に速いことが特色です。どうしてこんなにス
ピードが速いのでしょうか。
 今回のEJは、伊藤忠商事調査情報部チーフエコノミスト北井
義久氏の論文を参照させていただいていますが、北井氏によると
それはSCM――サプライ・チェーン・マネジメント技術の進歩
が影響していることを指摘しています。
 SCMとは何でしょうか。
 IT技術の進歩とマネジメントスタイルの改革によって、受注
から生産までをリアルタイムで効率的にコントロールするシステ
ムがSCMなのです。要するに需要に対して生産を効率的にコン
トロールできるシステムであり、1990年代以降世界中のメー
カーや流通企業に取り入れられています。
 しかし、SCMが導入されていると、今回のように、急速に住
宅投資・自動車販売の減少が生じると、その影響が末端の下請け
業者まで瞬時に伝わってしまうのです。好況のときは販売のチャ
ンス逃さぬよう機能するのですが、不況のときも超スピーとで波
及してしまうことになります。
 これら2つの負のスパイラルに対する米国政府の対応はどうな
のでしょうか。
 金融機関の損失については、政府からの資本注入2000億ド
ルを含めた資本増強――4200億ドルで一応埋め合わされては
いますが、住宅価格の下落が今後も続くことは確実であり、当然
資金は不足することになります。
 ガイトナー財務長官によるガイトナープランでは、不良債権の
買い取りを目指していますが、不況深刻化により企業倒産が相次
ぐなかで、不良債権の買い取り価格を確定することは困難であり
すべての関係者を納得させる不良債権買い取りのスキームがまだ
構築できていない状況です。
 雇用減少連鎖を止める対策としては、総額7872億ドルの資
金が使えますが、即効性が期待できるのは2883億ドルの減税
のみであり、他の対策にはその実施までに時間がかかるため、所
期の目的は果たせそうもない状況です。いずれにしてもこれでは
資金は不足しているのです。  ――[大恐慌後の世界/46]


≪画像および関連情報≫
 ●SCMとは何か
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  主に製造業や流通業において、原材料や部品の調達から製造
  流通、販売という、生産から最終需要(消費)にいたる商品
  供給の流れを「供給の鎖」――サプライチェーン)ととらえ
  それに参加する部門・企業の間で情報を相互に共有・管理す
  ることで、ビジネスプロセスの全体最適を目指す戦略的な経
  営手法、もしくはそのための情報システムをいう。
       http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/scm.html
 ●北井義久氏の論文『2番底/米国に複合不況をもたらす「信
  用」「雇用」の「負の連鎖」』/「週刊エコノミスト」20
  09.3/10より
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「2重の負の連鎖」の複合不況.jpg
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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