2009年03月10日

●「オバマ政権で米国は復活するか」(EJ第2527号)

 米国では「オバマ政権で米国は復活する」という祈りにも似た
楽観論が広がっていますが、本当に復活できるのでしょうか。
 このテーマも本日で45回になり、そろそろしめくくりをする
ところに来ていますが、ここまでの情報を分析する限りでは、そ
れは非常に困難なことと思われます。
 そもそも今回の事態は、何によって引き起こされたのかについ
てよく認識しておく必要があります。米国では、今回のサブプラ
イム問題に端を発する世界的な金融・経済危機を引き起こした元
凶は、アラン・グリーンスパン前FRB議長であるといわれてい
ますが、グリーンスパンだけが元凶ではないのです。
 グリーンスパンも元凶の一人には違いないものの、正確にいう
ならば、ロバート・ルービン元財務長官、ローレンス・サマーズ
国家経済会議委員長たちによって、1993年のクリントン政権
以降15年間にわたって継続された自由放任主義(レッセフェー
ル)が原因で引き起こされたものというべきである――そのよう
に考えるべきです。
 一体彼らは何をやったのでしょうか。もう既に周知されている
ことですが、問題を整理しておきます。
 米国は金融を解放し、世界中のお金を取り込み、それを自由に
加工してさまざまな金融商品を作って売りさばいたのです。その
なかのひとつがサブプライムローンを小口債券化して組み込んだ
金融商品なのです。なぜ、そのようなインチキ商品を売りさばく
ことができたのでしょうか。それらの商品の販売にあたっては、
ほとんど規制が行われなかったのです。
 それを支えた法律が、1999年の「金融制度改革法/グラム
・リーチ・ブライリー法」です。これによって、銀行業務と証券
業務の垣根が取り払われたのです。
 米国は、1929年の大恐慌の教訓から、銀行業務と証券業務
を完全分離する銀行法――グラス・スティーガル法を1933年
に制定したのですが、それを改正したのが「金融制度改革法」な
のです。これによって、規制がなくなったのです。
 銀行業務と証券業務の垣根をなくすことによって、銀行は巨大
な資金を使って証券会社のように証券化商品を作り、大量販売で
きるようになったのです。
 それらの金融商品の販売過程において、次の2つの業種が誕生
したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.格付け会社 ・・・ 商品のランク付けを行う会社
  2.モノライン ・・・ 金融保証業務専門の保険会社
―――――――――――――――――――――――――――――
 Bランクの商品でも「AAA」の格付けを与えれば、ブランド
商品になるので、いくらでも売れます。行き場のない世界マネー
がこれに飛びついたのは当然です。しかも、モノライン保険会社
は証券の発行主体から保証料をとって債務不履行時には保証して
くれるというのですから、いうことはありません。
 後になって、格付け会社はモノライン保険会社が保証してくれ
るから「AAA」を付けても大丈夫だといい、保険会社は保険会
社で、「AAA」と格付けされていたので保証したというような
勝手なことをいっているのです。
 ことを大きくしたのは、金融市場がグローバル化されていたこ
とです。そのため、サブプライムローンという毒を含んだ商品は
世界中に販売されてしまったのです。
 問題は、このようにして、経済・金融危機を引き起こす原因を
作ったローレンス・サマーズ国家経済会議委員長と、サマーズ氏
が財務長官をしていたときの部下であるガイトナー現財務長官が
組んで経済・金融危機解決に当たるという構図にあります。まし
て、サマーズ委員長もガイトナー財務長官も、もともとはロバー
ト・ルービン元財務長官の弟子なのです。
 問題を引き起こした張本人がその問題の解決に当たる――普通
では考えられないことですが、現在の米経済のかじ取りは、サマ
ーズ委員長、ガイトナー財務長官、バーナンキ議長が行っている
のです。このコンビで本当にうまく行くのでしょうか。
 ガイトナー財務長官は、ブッシュ政権のときは、ニューヨーク
連銀の総裁を務めていたのですが、そのとき彼がやったことは、
金融危機を悪化させ、一部の金融機関を助けるというチグハグな
処理をやっています。そのうえで金融機関同士の共食いを黙認し
ているのです。
 百歩譲って、そのときの処置は、ガイトナー氏の上司であるバ
ーナンキ議長やポールソン前財務長官がやったことであり、ガイ
トナー氏の責任ではないとしても、彼の財務長官就任後の政策の
切れ味は必ずしも鋭くないのです。
 ところで、オバマ大統領は、2月17日、米国史上最大の78
72億ドル(約76兆円)の景気対策法案に署名しています。確
かに金額としては大きいのですが、金額の大きさに驚いていては
本質を見失います。
 米国金融界の規模20兆ドルが半分ぐらいに急縮小している現
在、7872億ドル程度の公共事業をやっても効果は少ないと思
われます。明らかに「ツウ・リトル」なのです。
 米国の景気が急減速している背景には、次の「2重の負のスパ
イラル」があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.信用収縮スパイラル
          2.雇用減少スパイラル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「信用収縮スパイラル」に対しては、ガイトナー財務長官が2
月10日に発表した「新金融安定化対策/ガイトナー・プラン」
があり、「雇用減少スパイラル」に対しては、2月17日にオバ
マ大統領がサインした総額7872億ドルの資金が使えますが、
米国史上最大規模とはいえ、規模・内容の両面において不十分な
のです。           ――[大恐慌後の世界/45]


≪画像および関連情報≫
 ●信用不安の元凶はCDS/深尾光洋氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨年夏のサブプライム問題の深刻化から始まった米国の金融
  不安は、欧州諸国を巻き込んだ世界規模の金融危機に拡大し
  た。特に9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻以後、米
  国最大級の保険会社であるAIG(アメリカン・インターナ
  ショナル・グループ)の急速な経営悪化、一部MMF(マネ
  ー・マーケット・ファンド)の元本割れ、モルガン・スタン
  レーなどに対する預かり資産の大量引き出しなどが重なり、
  世界のドル短期金融市場は閉塞状態に陥っている。こうした
  危機は1929年の大恐慌以来のことといえよう。本稿では
  当初は米国の住宅金融市場に限られていた金融不安が、世界
  的に拡大した背景を探った上で、日本の金融システムへの影
  響を分析する。
  http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fukao_m/08.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●写真「2番底」/「週刊エコノミスト」2009.3/10

ガイトナー財務長官.jpg
ガイトナー財務長官
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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