2009年03月09日

●「批判が多いオバマ政権の景気政策」(EJ第2526号)

 オバマ大統領の就任前のことですが、米国のマスコミや政治家
たちは、オバマ大統領が著名な政治家や学者など、選り抜きの優
秀な人材をスタッフとして発表することに対して「ベスト・アン
ド・ブライテスト」という言葉を何回も使っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       The Best and the Brightest.
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見た日本のマスコミも、これも「称賛」の意味で使った
のです。しかし、米国のマスコミはこの言葉を必ずしも「称賛」
の意味で使ったのではなかったのです。
 「ベスト・アンド・ブライテスト」というのは、1972年に
米国のジャーナリストであるデビッド・ハルバースタムの手にな
る本の題名なのです。この本は、米民主党ケネディ政権のベトナ
ム戦略を分析しています。
 ケネディ政権といえば、今回のオバマ政権と同様にハーバード
などの優秀な大学を出た人材を政権スタッフに集めたのですが、
彼らは自分たちの能力を過信し、ベトナム戦争に関する国務省や
国防総省などの現場からの意見を軽視して取り上げず、現実にそ
ぐわない戦略を展開して戦争を泥沼化させたのです。
 ハルバースタムはこの事実を最大限の皮肉をこめて、本の題名
に「ベスト・アンド・ブライテスト」とつけたのです。優秀な人
ばかり集めても、チームとしてよい仕事は必ずしもできないとい
うぐらいの意味でしょう。
 これについて、既出の田中宇氏はなかなか印象的なことを書い
ています。久しぶりの民主党政権であるオバマ政権が、かつての
ケネディ政権と同じように優秀な人ばかりを集めようとしている
傾向――まさに「歴史は繰り返す」です。
 「歴史は繰り返す」は哲学者ヘーゲルの言葉ですが、この言葉
にあのマルクスは次の言葉を付け加えたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    歴史は繰り返す――
    一度目は悲劇として、二度目は茶番劇として
―――――――――――――――――――――――――――――
 このマルクスの付け足し部分を巧みに使って、田中宇氏は全米
の期待を担って発足したオバマ政権は「二度目は茶番劇」を演じ
ることになるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハルバースタムも指摘しているとおり、実はこの言葉は賛辞で
 はなく、この言葉を使ってオバマを賛美した気になつているの
 は明らかな誤用である。そして、誤用であるばかりでなく「二
 度目の茶番劇」であると私が感じるのは、オバマ政権は非常に
 高い確率で失敗すると予測されるからだ。オバマが就任する前
 のブッシュ政権時代に、米国を破綻させるようないくつもの仕
 掛けがセットされているため、オバマの大統領就任後1〜2年
 間で、経済、軍事、政治という国家戦略の全分野で、次々と崩
 壊が起きるだろう。最優秀の人々を集めても、それを防ぐこと
 は、ほとんど無理である。オバマ政権は、就任する前から失敗
 を運命づけられている。それなのに「最優秀の人材を集めたか
 ら、きっとうまくいく」と喧伝されるのは、まさに「二度目の
 茶番劇」である。          ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在米国では、ニューディール論争が盛んです。公共事業を柱
とするオバマ政権の景気刺激策に対して強い批判が出ているわけ
です。とくにネット上では論争がさかんです。
 保守派のシンクタンクにケートー研究所というのがあります。
2009年1月9日、ケートー研究所は、オバマ政権の景気政策
を批判する新聞広告を出したのです。そこには、220人の著名
な経済学者が署名しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私たちは政府支出が経済情勢を改善する方法とは信じない。フ
 ーバーとルーズベルトの政府支出増大は、米国経済を大恐慌か
 ら救い出すことはできなかった。    ――ケートー研究所
―――――――――――――――――――――――――――――
 米コラムニストのアミティ・シュラーズ氏は、次のようにニュ
ーディール政策を批判し、ニューディル政策は効果よりも副作用
の方が多いと主張しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は信頼できない場所になった。ルーズベルト政権下では、
 最もよかったときでも失業率は9%以上あった。この数字は、
 人々に希望を与えるものではなかった。
            ――「週刊エコノミスト」2/17号
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうしたニューディール政策批判に対して真っ向から反論して
いるのは、昨年のノーベル経済学賞受賞者、ポール・クルーグマ
ン・プリンストン大学教授です。クルーグマン教授は、ニューデ
ィール政策が思ったほど効果を上げていない理由について次のよ
うに主張しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ルーズベルト大統領はモルゲンソー財務長官が均衡財政にとら
 われ、思い切った支出をしなかったからだ。
            ――「週刊エコノミスト」2/17号
―――――――――――――――――――――――――――――
 クルーグマン教授は――これはサマーズ国家経済会議委員長も
同じ意見ですが――需要不足下での財政政策の有効性を説いてお
り、オバマ政権の景気対策は減税よりも公共事業を増やすべきで
あると提言しています。
 しかし、公共事業の場合、何をやるのかを決めるのに時間がか
かる点が問題です。何しろコトは急を要するからです。のんぴり
やっているときではないのです。――[大恐慌後の世界/44]


≪画像および関連情報≫
 ●デビッド・ハルバースタムとニュージャーナリズム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ベトナム戦争を知る世代にとって『ベスト&ブライテスト』
  (1972年)は忘れられない作品だ。当時最高の知性と見
  識を持っていたはずの、米国政財官のスーパーエリートたち
  が自分たちの傲慢さに気付かないまま、大勢の米国の若い兵
  士を戦地に駆り立て、死を強いる。その愚かしくも空虚な政
  策決定プロセスを、500回にも及ぶ関係者へのインタビュー
  を積み上げて暴いたのが、ジャーナリストで作家のデビッド
  ・ハルバースタム氏だった。
  http://waga.nikkei.co.jp/enjoy/book.aspx?i=MMWAe1034011062007
  ―――――――――――――――――――――――――――

「ベスト&ブライテスト」.jpg
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック