んでいない日本の100年に一度の危機への対応。これに比べる
と、米国のオバマ政権の経済チームはスピーディーにコトを進め
ているように見えますが、本当のところはどうなのでしょうか。
しかし、大前研一氏によると、米国は「初期動作」を間違えて
いるというのです。どのように間違えたのかについて考えてみる
ことにします。
大前研一氏は、金融危機には次の3つのフェーズがあるといっ
ています。
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フェーズT 流動性危機
フェーズU 不良債権処理に伴う債務超過の危機
フェーズV 金融機関の貸し渋りによる事業会社の危機
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日本はバブル崩壊後15年以上経っていますが、いまだにフェ
ーズVを完全に脱却していないのです。これに対して現在米国で
起きている現象は、フェーズTの「流動性危機」ですが、米当局
がこれに対する対応を間違えたために、フェーズUとフェーズV
の現象が同時に起こっている――大前氏はこのように分析してい
るのです。
ここでいう米当局とは、金融危機の最初の段階――昨年の秋以
降、これに対処した人物は次の3人です。
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・ヘンリー・ポールソン ・・・ 財務長官
・ベン・バーナンキ ・・・ FRB議長
・ティモシー・ガイトナー ・・・ ニューヨーク連銀総裁
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大前研一氏によると、この3人は米国の経済の専門家の間では
「経済失政三銃士」と呼ばれているのだそうです。そもそも彼ら
は、最初の処理を誤ったのです。以下は、大前氏による「経済失
政三銃士」の評価です。
ベン・バーナンキFRB議長は、マクロ経済学者であって、実
体経済のことはよくわからないのです。バーナンキ議長は政策金
利を下げましたが、効き目はなく、それはマクロ経済学者の手に
余るものだったのです。そのため、実務家のポールソン氏に丸投
げしてしまったのです。
バーナンキ議長に下駄を預けられたポールソン前財務長官は、
ゴールドマン・サックスのトップ出身の実務家であるといっても
営業担当であり、そもそも今回の危機を招いた張本人の一人でも
あって、そのような人物に解決できる問題ではないのです。
リーマン・ブラザーズの倒産は、ポールソン氏の責任であると
もいわれています。リーマンを倒産させることによって、世界経
済に何が起こるか明確に見えていたとはとても思えないのです。
大前氏にいわせると、「何をしていいかわからず、手当たりしだ
いに何かをやっていた印象」と酷評しています。
それでは、今回オバマ政権の財務長官に就任したティモシー・
ガイトナー長官はどうでしょうか。
ガイトナー財務長官は優秀な人物ですが、官僚であり、実体経
済の実務に通じているわけではないのです。彼の口癖は「日本の
轍(てつ)は踏まない」――しかし、基本的には日本と同じこと
をやっています。当時日本の対応は「ツウ・レイト・ツウ・リト
ル」とさんざん批判されましたが、現在米国も同じことをやって
いるのです。まるでデジャヴ(既視感)です。
ガイトナー氏は日本の危機の対応を現地で見てきたようなこと
をいっていますが、彼が在日アメリカ大使館の金融アタッシュと
して日本にいたのは1988年であり、バブルの最中であって、
それが崩壊したときやその後の失われた10年について現地で体
験しているわけではないのです。
大前氏によると、日本がはまり込んだ「轍」とは、ボーリング
でいうところのガターに入り込んだボールであり、米国の対応も
それと同じであるというのです。
米政府は、昨年最大7000億ドルの不良債権買取りを柱とす
る金融安定化法を議会に認めさせています。これはかなり腰の引
けた対応であり、この程度の資金ではまったく足りないし、そも
そも実施する順番を間違えています。
最初にやるべきだったのは、フェーズTの「流動性危機」への
対応でなければならないのに、不良債権買取り制度を作って、フ
ェーズUの「不良債権処理に伴う債務超過の危機」に対応してし
まったのです。
しかも、7000億ドルを不良債権買取りに使うといって議会
を通しておきながら、ポールソン前財務長官は、これを資本注入
に用いたり、ビック3のつなぎ融資に使っている――これは完全
に脱法行為そのものです。
急ぐべきだったのは、流動性危機に対する対応であり、不良債
権買取りをやるのはその後でよかったのです。それではどうすれ
ばよかったのか――大前研一氏は次のように述べています。
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私の考えでは、本来、アメリカ政府は、まず世界中から約5兆
〜10兆ドル規模の資金をかき集めて金融機関の「ER――エ
マージェンシー・ルーム=緊急救命室」を設置し、金融危機の
フェーズTである「流動性危機」を止めることに全力投球すべ
きだった。 ――大前研一著
『さらばアメリカ』/株式会社小学館刊
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経済失政三銃士が100年に一度の金融危機への対応を間違え
たことによって何が起こったのでしょうか。
それは、普通なら金融危機のフェーズVで起きる「事業会社の
危機」が早々と起こってしまったことです。その典型的なものが
GMの破綻なのです。酔っ払い運転をしている日本は論外ですが
米国もひどいのです。 ―――[大恐慌後の世界/42]
≪画像および関連情報≫
●デジャヴ(既視感)とは何か
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一般的な既視感は、その体験を「よく知っている」という感
覚だけでなく、「確かに見た覚えがあるが、いつどこでのこ
とか思い出せない」というような違和感を伴う場合が多い。
「過去の体験」は夢に属するものであると考えられるが、多
くの場合、既視感は「過去に実際に体験した」という確固た
る感覚があり、夢や単なる物忘れとは異なる。過去に同じ体
験を夢で見たという記憶そのものを、体験と同時に作り上げ
る例も多く、その場合も確固たる感覚として夢を見たと感じ
るため、たびたび予知夢と混同される事もあるが、実際には
そうした夢すら見ていない場合が多く、別の内容である場合
も多い。 ――ウィキペディア
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経済失政三銃士