と子供2人の世帯で年収9903ドル以下――は、2005年度
の統計で1600万人で、それまでの5年間で26%も増えてい
ます。これに2007年度から住宅市況の悪化によるローン破綻
者がこの層に加わってくることになります。
2006年〜2007年になると、貧富の格差は一層ひどくな
り、ティファニーの売り上げは2割増になったものの、中産階級
や貧困層が日々購入するスーパーなどの小売業の売り上げが減少
しているのです。
これは米国にとって深刻な事態なのです。なぜなら、貧富の拡
大と中産階級の衰退は、米国の国力の衰退を意味するからです。
米経済を支えているのは70%を超える消費ですが、その消費を
支えているのが、中産階級であるからです。
その中産階級は、1970年代までは政府の優遇策――所得税
の累進制や高い相続税率など――を受けて育てられてきたのです
が、1980年代からはそれらが弱められることによって、中産
階級の収入は頭打ちになっていったのです。
これに対応して米国の中産階級の人々は生活レベルの維持・向
上を図るため、次の方法で対処したのです。
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1.共稼ぎ――女性の職場進出
2.休まず労働時間を増加する
3.クレジットカード利用借金
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第1の方法は、「共稼ぎ――女性の職場進出」です。
給与の頭打ちを打破するため、妻も働きに出ることによって給
与自体を2人分にしたのです。米国の家庭で夫婦共稼ぎの家庭は
1970年には38%であったのに対し、最近では70%を超え
ているのです。
第2の方法は、「休まず労働時間を増加する」です。
収入を増やすもうひとつの方法は、休まないで多く働くという
ことです。最近の米国人は実によく働くのです。米国人の労働時
間は、この30年間に15日長くなっているのです。ヨーロッパ
の人々よりも労働時間が350時間も多くなり、日本人の労働時
間を抜いています。
第3の方法は、「クレジットカード利用借金」です。
しかし、それだけ働いても、よりレベルの高い生活をしていく
には、収入は足りなかったのです。そこで住宅ローンやクレジッ
トカードを利用するようになってきたのです。
米国の住宅価格は、1990年以降上昇が続き、2002年か
ら2006年はとくに急上昇したのです。それに合わせて、住宅
ローンの借り入れも全米で増加したのです。
これに伴い、米国の個人消費の額は1995年以来毎年4%ず
つ伸びており、これは世界の伸びの2倍に当たるのです。その一
方で、クレジットカードの債務不履行率は史上最高の5%前後に
達したのです。
田中宇氏は、給与が増えなかった30年間の米国の中産階級の
生活について、次のようにまとめています。
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米国の中産階級は、給料単価が増えなかったこの30年間、こ
れらの方法(上記の3つの方法)によって収入を増やし、共稼
ぎと長時間労働で疲労困憊しながらも、旺盛な消費を続け、米
経済を成長させ続けた。多くの人々にとって、つらいが充実し
た30年間だった。しかし、2007年からの住宅バブルの崩
壊は、何とか回ってきていた中産階級の生活を破壊することに
なつた。 ――田中宇著/光文社
『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
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1960年代までは、製造業の社員の生活は「米国の豊かさ」
の象徴だったのです。いま振り返ってみると、この時代が米国民
にとって最良の時代であったといえます。当時、米国は国内で消
費する商品の96%を自国内で作っていたのです。
しかし、1980年代以降米国では、市場原理が重視されて、
国内の産業はあまり保護されなかったため、米企業――とくに自
動車産業などの製造業は国際競争にさらされ、人件費の安いアジ
アなどの企業に勝てず、いくつもの業種が衰退して市場から脱落
していったのです。
ところが最近では、米国は商品の多くを輸入に頼っているので
す。米国の製造業ではテレビも冷蔵庫も自国では作っておらず、
ほとんどの部品を日本や韓国に頼っているのです。
とくに自動車産業では新しいテクノロジーの導入を怠り、燃費
の良い車の生産が遅れ、日本や韓国の後塵を拝したのです。今こ
こにきて、オバマ政権がビックスリーを救済するかどうか検討し
ていますが、実際問題としてこれからの立て直しは容易なことで
はないと思われます
21世紀の車はハイテク車そのものであり、しかも、環境にや
さしく、燃費に優れていないと消費者には受け入れてもらえない
のです。米国は、ハイテク技術の優れた国といわれますが、工業
用ロボットや半導体製造技術などの製造業全般のハイテク技術の
ほとんどは日本が持っており、米国が持っている産業技術は、防
衛や薬品などのごく限られた分野のものに過ぎないのです。
1980年代からの米国では何が変わったのでしょうか。
製造業はもう古いので、経済をサービス業中心に転換すべきで
ある――この考え方によって、米国では金融業が伸びたのですが
そこに大きな落とし穴があったと思われるのです。
日本においてもこの20年ほどの間にサービス業は伸びていま
すが、製造業も伸びているのです。それは、日本がいろいろな非
関税障壁を設けて、国内製造業を保護してきたからなのです。米
国は気前の良い市場開放によって、虎の子の製造業を破滅に追い
込んだといえます。 ―――[大恐慌後の世界/40]
≪画像および関連情報≫
●米国の製造業は死滅しつつある
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米国の雇用全体に占める製造業の割合は、60年代には30
%以上だつたが、最近では10%以下で、2000年からの
5年間で18%も雇用が縮小した。米国の製造業はまさに死
滅しつつあり、それは貿易赤字の増加につながっている。米
国の貿易赤字の大半は、工業製品の輸入によって生み出され
ており、製造業が衰退しているので貿易赤字はドル安になっ
ても減りにくい。 ――田中宇著/光文社
『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
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