2009年02月27日

●「米国は本当に強いドルを推進するのか」(EJ第2520号)

 2月24日に行われた日米首脳会談では何が話し合われたので
しょうか。それにしても米国は、一週間前にいきなり米国まで一
国の首相を呼びつけておいて、昼食も出さないというのは少し失
礼なのではないかと思います。
 これについて、当の米政府元当局者は次のようにいって、オバ
マ政権の対応を批判しています。
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 支持率が低いとはいえ、急に首相を招待した割にはそっけない
               ――MSN/産経ニュースより
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 今回の日米会談で米国側は、何を日本に期待したかについて、
26日付けの日本経済新聞は次のように伝えています。
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 先のアジア訪問で最後に中国を訪れたヒラリー・クリントン国
 務長官は滞在中各所で「保有米国債の維持」への期待を隠さな
 かった。「基軸通貨であるドルの信頼の維持が一番大事だ」。
 米国の狙いを読み取るかのように麻生首相は会談後、記者団に
 繰り返した。  ――2009年2月26日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生首相の会談後の記者会見での発言から推測すると、オバマ
大統領は「ドルの信頼の維持」が重要であり、両国が協調して基
軸通貨を守っていこうという趣旨の発言をしたことは確かである
と思われます。
 これを聞いて「ミスター円」こと榊原英資氏は、記者の問いか
けに対して次のように述べています。
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 ドルは現在そんなに悪くない。それなのに、「ドルの信頼の維
 持」を会談で持ち出したことは、米国債をさらに多く買って欲
 しいというメッセージではないか。      ―榊原英資氏
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 米国の抱える五重苦の4番目は、まさにオバマ大統領が心配す
る「ドルの信用不安」なのです。
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       1.米経済の不況
       2.米政府の財政赤字の急増
       3.世界的なインフレ
     → 4.ドルの信用不安
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 ここ数年にわたって米国の経常収支の赤字が増えていますが、
増加分の約半分が原油を輸入するときの代金が原油高騰で増加し
た分なのです。幸いにして原油価格は2008年後半に下落した
ので最悪の事態に陥らないで済んでいますが、もし経常収支の赤
字がこれ以上増え続けると、世界の投資家に「米国債などの米国
の金融資産に継続して投資し続けても大丈夫なのか」という懸念
を抱かせることになります。これがドルの信用不安を引き起こす
ことになります。
 ブッシュ政権の8年間に米政府は、ドル紙幣を刷りまくって財
政赤字を急増させています。しかし、為替相場では、ユーロ高や
円高はほとんど進んでいないのです。どうしてこのようなことが
起こったのでしょうか。
 それは、EUや日本が自国の輸出産業を守るため、ユーロ高や
円高になるのを防いだからです。たとえば、利上げを見送って低
金利を続けたり、通貨供給を増大させて、ドルが信用不安を起こ
して弱くなると、自国の通貨もそれに連動させて意図的に弱くす
る政策――弱いふり政策――をとって、自国通貨が上がるのを必
死になって防いだのです。
 ところで、レーガン政権以降現在まで、米当局からさかんに聞
かされた次の言葉があります。
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        強いドルが米国の利益になる
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 しかし、既出の田中宇氏によると、「強いドル」は日欧の「弱
いふり政策」によって、結果としてそうなったのであって、米当
局としては「ドル安」政策に傾斜しているというのです。
 確かに調べてみると、米政権が本気になって「強いドル」戦略
を実行したのは、ひとつの例外を除いて、80年代初めのレーガ
ン政権の1期目と、ニューヨーク・ウォール街の要請に応じて世
界の余剰資金をひきつけようとしたクリントン政権の一時期に過
ぎないのです。
 2004年にドル安ユーロ高が進んだとき、当時のスノー財務
長官は、次のように述べて、ドル安になっても「市場介入はしな
い」と明らかにドル安を煽っているのです。
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 (当局の介入など)市場原理以外の作用で為替を動かそうとす
 る努力は、歴史的にみてうまくいかないことが分かっている。
               ――米スノー財務長官(当時)
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 ひとつの例外というのは、ブッシュ政権の対円政策なのです。
ブッシュ大統領は小泉首相(当時)の改革路線を後押しする目的
で、2003年から翌年2月にかけての日本財務省による大規模
な円売り・ドル買い介入を黙認したのです。
 円安傾向を受けて日本からは巨額の超低金利資金が米金融市場
になだれ込み、住宅ローンなどの債務をまかなったのです。これ
によって、ドルはユーロや英ポンドなど欧州通貨に対しては下落
しましたが、証券化商品の開発で欧州の余剰資金を引き寄せるこ
とに成功したのですが、これがあの忌まわしいサブプライム問題
を引き起こす原因となったのです。
 したがって、日本はサブプライム問題に決して無関係ではなく
むしろそれを可能にする巨額の超低金利資金を米金融市場に提供
する役割を担ったのです。  ―――[大恐慌後の世界/38]


≪画像および関連情報≫
 ●米国の国際収支と双子の赤字/2005.2.11
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  2004年のアメリカの経常収支の赤字は6千億ドルで、財
  政赤字は4千億ドルである。アメリカは政府部門が4千億ド
  ルもの財政赤字を出し続けているにもかかわらず、国民の慢
  性的な過剰消費体質のため貯蓄が不足しており、政府の財政
  赤字を自国内で賄う事ができない。それどころか、民間部門
  が貿易赤字を出して、官民一体となった赤字地獄に陥ってい
  るのであり、これをアメリカの双子の赤字問題という。
         http://www.kjps.net/user/khy/intro1.html
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スノー元財務長官.jpg
スノー元財務長官
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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