はこのテーマについて考えることにします。
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1.米経済の不況
2.米政府の財政赤字の急増
→ 3.世界的なインフレ
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現在日本は深刻なデフレ状況にあります。したがって、世界的
なインフレといわれても日本人にはピンとこない人がほとんどで
あると思います。
インフレの火種は、FRBが2000年に短期金利を1%程度
の水準まで下げたことです。それまでの景気減速を受けての措置
としての利下げです。
しかし、2005年からは一転利上げに転じたのです。これは
原油高騰に起因するインフレの悪化を懸念しての利上げなのです
が、これが住宅ローンの金利の上昇を招き、2007年の金融危
機を誘発したのです。
ところが、金融危機と住宅バブルが崩壊して、米経済が減速し
不況に近づいたので、またもやFRBは2007年から利下げを
したのです。これはFRBとしてはやむを得ざる措置です。しか
し、これによってせっかく抑え込まれていたインフレが悪化する
のです。
この利下げには、FRB内部では景気を懸念する意見とインフ
レを懸念する意見が対立したのですが、バーナンキ議長は景気を
懸念して利下げを選んだのです。そのため、これによって世界的
なインフレに拍車がかかることになったのですが、幸いなことに
2008年の夏以降は、原油価格が下落に転じたので、インフレ
懸念は若干緩和されたのです。
しかし、今回の金融危機への米政府の対応で米国の財政赤字が
急拡大しており、ドルに対する潜在的な信用不安が起きているの
です。この事態を放置すると、いずれドルの価値下落が原油の再
高騰になって跳ね返り、世界的なインフレが再び出現する恐れが
あるのです。
世界的なインフレについてはいろいろな意見があるのです。日
刊ゲンダイの「国際政治ナナメ読み」の原田竹夫氏は、この世界
的インフレは米国がつくり出そうとしているとして、次のように
述べています。
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米国におけるマネタリー・ベース、すなわち「どれだけの量の
米ドルが出回っているのか」を示す指数を見ると、昨年9月頃
と比べて現在は実に2倍以上なのだ。つまり、世界は文字通り
「米ドル漬け」なのであって、インフレどころか、ハイパー・
インフレがいつ起きてもおかしくないのだ。しかも、バーナン
キ議長は「インフレ万歳」をモットーとする学者である。
――「国際政治ナナメ読み」/2009.2.24/23発行
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要するに原田氏は、最近にわかに巻き起こった「政府紙幣・無
利子国債の発行」は、米国の仕掛けではないかといっているので
す。その提唱者は高橋洋一氏であり、もともと小泉・竹中陣営の
人物なのです。それに現在の米国の金融の舵取りは、インフレ・
ターゲット論者であるバーナンキ議長が担っており、もはや世界
的なインフレは避けようがないと原田氏はいうのです。
そういうときに、日本円だけ例外であるのは困るのです。なぜ
なら、米ドルが暴落すると、行き場所を求めるマネーは一斉に円
へと殺到することは明らかであるからです。米国から見れば、こ
れほど面白くない話はないので、日本もインフレに巻き込んでし
まえというわけです。
この原田意見はにわかには信じられないですが、このことと、
米プリンストン大学のポール・クルーグマン教授が2008年に
ノーベル賞を受賞したことが不思議にリンクしてくるのは面白い
と思います。
ある米国通のエコノミストは、クルーグマンの受賞について次
のようにコメントしています。
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疑似の大恐慌に陥って、先進各国政府が公的資金の注入を決め
た。その理論的裏付けにタイミングがちょうど良かった。番狂
わせのダークホースが受賞となったわけで、まことにクルーグ
マンの強運です。 ――宮崎正弘著/WAC BUNKO
『やはり、ドルは暴落する!日本と世界はこうなる』
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宮崎正弘氏によると、クルーグマンという学者は、基本的には
リベラルであるが、米国の保守陣営からは蛇蝎のごとく嫌われて
おり、ウォール街は見向きもしなかったというのです。彼は目立
ちたがり屋であり、クリントン政権下では、大統領経済諮問委員
長のポストを狙って、猟官運動をして顧問に滑り込んだという経
緯があります。
宮崎氏は、ある経済事情通の言葉としてクルーグマンを次のよ
うに表現しています。クルーグマン教授は日本で人気があります
が、かなりイメージが変わると思います。
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かつてはレーガンべったり、クリントンのときは猟官運動で主
旨がえの論文を平気で書いた。まわりが冷たくなるやさらりと
ブッシュ批判に転じ、学問的理論はめちゃくちゃだ。
――宮崎正弘著/WAC BUNKO
『やはり、ドルは暴落する!日本と世界はこうなる』
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クルーグマンは学問的業績というよりもニューヨーク・タイム
ス紙のコラムニストとしてブッシュ批判を繰り返した人です。学
問的にはジクザクが激しく、ときおり学会から強いバッシングが
起きるのです。 ―――[大恐慌後の世界/37]
≪画像および関連情報≫
●ポール・クルーグマンについて
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クルーグマンが活躍を始めた頃の世界経済上の大事件は、ブ
レトン=ウッズ体制崩壊に伴う変動為替相場の採用だった。
為替自由化は、固定相場につきものの投機攻撃をなくし、為
替の安定化をもたらすはずだったのに、実際には過去に例を
見ない大変動を繰り返していた。クルーグマンは、市場の統
合の不完全性と様子を見ることのオプション価値が為替変動
を煽る結果となることを、これまた単純なモデルで説明して
いる。同時に外国為替市場での投資家の動きが、短期的にも
長期的にも合理的(経済学的な意味で)じゃないことを指摘
し、各種の通貨危機の自己成就的な発生メカニズムをモデル
化した。
http://cruel.org/econthought/profiles/krugman.html
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ポール・クルーグマン教授