2009年02月25日

●「米国はどのくらい予算を使っているか」(EJ第2518号)

 ここにきて世界中が心配していることがあります。それは、米
国債がAAAランクを失い、引き受け手がいなくなることです。
 一体米国はどのくらい予算を使っている国なのでしょうか。中
国に次いで米国債を多く持っている日本としては、米国の予算に
ついても関心を持つ必要があります。
 2009年度――2008年10月〜2009年9月まで――
の米連邦政府予算は、総額で3兆ドルを突破しており、史上最大
の規模になっています。
 この予算には、不況に備えるための減税策を盛り込んだので巨
額になりましたが、これによって財政赤字額は4100億ドルに
膨らんでいます。
 しかし、国際政治ジャーナリストの田中宇氏によると、この赤
字額はインチキであるというのです。というのは、2009年度
予算には、イラクとアフガニスタンの戦費が700億ドルしか計
上されていないからであるというのです。
 確かに2008年度予算では、イラクとアフガニスタンの戦費
は、1890億ドルが計上されており、700億ドルではその半
分にも満たないからです。オバマ政権になって米軍がアフガンに
増強されることを考えると、少なくとも2009年度は1500
億ドル〜2000億ドルを超える戦費がかかるのは確実であるか
らです。
 米国のイラクとアフガニスタンの戦費に関しては、ノーベル賞
経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏の精力的な研究が次の本に
なって出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ジョセフ・E・スティグリッツ/リンダ・ビルムズ著
 『世界を不幸にするアメリカの戦争経済/イラク戦費3兆ドル
             の衝撃』/楡井浩一訳  徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この本はかなり難解であり、読み切るのはかなりきつ
いと思います。そこでこの本については、私が関連している企業
のサイトにその内容を6回にまとめてあるので、興味のある方は
参照していただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/09/post_121.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/09/post_122.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_123.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_125.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_126.html
 http://www.intecjapan.com/forum/2008/10/post_127.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国において心配なことはまだあります。政府健康保険と公務
員年金が破綻しそうなのです。一番危険なのはメディケアなので
す。2007年度から処方箋薬への保険適用が拡大されたことに
よって赤字が急増したのです。そして少なくとも2018年度ま
でにメディケアは破綻し、米政府に巨額の財政出動を強いると予
想されているのです。
 2008年1月の時点で、債券格付け機関であるムーディーズ
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米政府が(メディケア)健康保険や社会保障費への財政支出を
 削減する思い切った政策が採れなかった場合、米国債は10年
 以内に最優良格(AAA)を失うかもしれない。
                   ――田中宇著/光文社
     『世界がドルを棄てた日/歴史的大転換が始まった』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは大変なことです。米国債がAAAを失ったら一体どうな
るでしょうか。
 米国債の売れ行きは一挙に悪化し、利回りが急騰して米政府は
巨額の利払いを余儀なくされます。これが続くと、政府は国債の
利払いがやがてできなくなり、国家的な債務不履行に陥ってしま
う可能性があります。
 前掲の2009年度米予算は、実質成長率が2.2 %を前提と
しているのです。しかし、未曽有の経済危機で景気は一段と悪化
しており、赤字幅は一段と拡大することは必至です。何しろ累計
の公的債務は10兆ドルを突破しており、いまなお拡大しつつあ
るのです。
 しかも、米国の場合、対外債務残高が対外純資産残高を大きく
上回る世界最大の対外純債務国になっていることです。対外純債
務国になったのは、1986年のことです。
 米国債の海外の保有残高は増加を続けており、現在は40%を
超えているのです。そのうち、日本は中国に次いで約6000億
ドルを保有しているのです。つまり、米国は海外からのファイナ
ンスによって、国家財政を成り立たせているのです。
 日本も財政赤字は年間1000兆円もあって、財務省や財務省
寄りの政治家は大変だと騒ぐのですが、米国の場合とは抱える借
金の質がまるで違うのです。
 なぜなら、日本は世界最大の純債権国であり、日本国債のほと
んどは国内で保有されているからです。米国のように、純債務国
であって、海外の国債保有額が40%を超えている国とは違うの
です。日本の財務省は、格付け会社が日本国債の格付けを下げよ
うとするときはこの理屈で反論し、国民には1000兆円の借金
の大きさを訴えて増税の根拠にしようとしているのです。
 既に述べたように、FRBはドルの通貨供給量を示す「M3」
を公表していませんが、実際の通貨供給量の伸びは年間15%あ
前後と分析されています。望ましいM3の伸びは5%以下なので
り、これだけドルが増刷されると、ドルが基軸通貨としての世界
経済はひどいインフレになるのは当然のことです。
 五重苦のうちの第2の苦である「米政府の財政赤字の急増」は
以上の通りです。      ―――[大恐慌後の世界/36]


≪画像および関連情報≫
 ●『戦争経済』/スティグリッツの書評から
  ―――――――――――――――――――――――――――
  イラク戦争にかかった費用は3兆ドル。この膨大な経費は、
  アメリカ経済、そして世界経済にいかなる衝撃を与えている
  のか?ブッシュ政権によるコスト隠蔽操作を暴き、戦争とい
  う巨大ビジネスが引き起こす負の連鎖を看破する。本書はサ
  ブタイトルに「イラク戦費3兆ドルの衝撃」とありますが、
  政府は市民が戦争の巨大なマイナス面に気づかないようにし
  その情報伝達の周到な虚偽を、徹底的に暴いていきます。
  http://plaza.rakuten.co.jp/wakubuku/diary/200902140000/
  ―――――――――――――――――――――――――――

戦争経済/スティグリッツ.jpg
posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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