番目は「米政府の財政赤字の急増」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.米経済の不況
→ 2.米政府の財政赤字の急増
―――――――――――――――――――――――――――――
経済評論家の高橋乗宣氏によると、米国経済は今日まで30年
間にわたって「虚構の繁栄」を続けたといっています。米国は基
軸通貨国としての特権をフルに活用し、「虚構の繁栄」を作り出
すことによって、経済の実力とは大きくかけ離れた「強いドル」
と「強い米国」を今まで維持してきたのです。
米国の「虚構の繁栄」は、次の3つの基本的な経済政策によっ
て30年間維持されたということができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.2つの思想に裏打ちされたレーガノミックス
2.永遠の成長が続行するニューエコノミー神話
3.最先端金融技術/証券化を使った金融バブル
―――――――――――――――――――――――――――――
「虚構の繁栄」を作る基礎となったのは「2つの思想に裏打ち
されたレーガノミックス」です。1981年から1988年まで
のロナルド・レーガン大統領政権下で推進された政策です。
2つの思想とは「新自由主義」と「小さな政府」の2つです。
これはケインズ主義とは対極に位置する経済政策であり、供給側
――サプライサイドを強化する政策手法なのです。
企業や家計の大幅減税、規制緩和、そして歳出削減のための金
融引き締めを実施するというのがその主な柱です。企業の減税を
すれば、企業は設備投資や生産増加などの経済活動を積極的に行
うはずであるという読みがあり、あわせて、家計部門の税負担を
下げることによって消費が活性化し、企業の業績は向上し、税収
が増えると考えていたのです。
しかし、消費は拡大したものの、税収は伸び悩み、財政を悪化
させる結果となり、歳出削減にも失敗したので、財政赤字はさら
に拡大したのです。
しかし、大幅減税とインフレ退治のための金融引き締めを同時
に行ったところ、金利上昇とドル高を招く結果となり、その結果
ドル高は米国の製造業を壊滅状態に陥れ、多くの企業が倒産する
ことになったのです。
このレーガノミックスがいかに失敗であったかについて高橋乗
宣氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
1980年に1万1000件余りだった企業倒産件数は、82
年には2万5000件近くまで急増した。特に鉄鋼や自動車な
ど主要な製造業の業績悪化は著しく、多くの企業で工場閉鎖や
労働者の解雇が行われた。そして1983年の失業者数は10
71万人と、戦後初めて1000万人の大台を突破したのであ
る。 ――高橋乗宣著/東洋経済新報社刊
『世界恐慌の襲来/日本経済は「最悪の10年」に突入する』
―――――――――――――――――――――――――――――
このように、このサプライサイド経済学は明らかに失敗といえ
るのですが、その後日本の小泉政権が「改革」と称して家計の減
税抜きでこの経済政策を導入し、これによって日本経済にさまざ
まな問題を残す結果となったのです。
続いて、「虚構の繁栄」を継続させる結果となったのは「永遠
の成長が続行するニューエコノミー神話」なのです。1990年
から2000年代初頭にかけての経済繁栄期です。
そもそも経済というものは、景気の上昇と後退を繰り返しなが
ら成長していくものなのです。しかし、このような景気循環は過
去のもので、景気は後退しないまま成長が続くというのがニュー
エコノミー論なのです。
米国の場合、前の時代からの規制緩和や経済のグローバル化、
労働市場の流動化などがニューエコノミーを支える要因になり、
米国は空前の好景気を謳歌したのです。
しかし、これはバブルだったのです。ニューエコノミー景気を
あのグリーンスパン元FRB議長は次の言葉で表現したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
根拠なき熱狂/irrational exuberance
―――――――――――――――――――――――――――――
高橋乗宣氏は、ニューエコノミーの評価として次のように述べ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
米国は2000年まで長期的な経済成長ができたのは、新たな
経済理論が発明されたからでは決してなく、積極的な個人消費
や海外からの資金流入によって、内需が拡大したためにすぎな
かった。国内純投資の対GDP比率が急上昇したが、表裏一体
の関係として経常収支の赤字は拡大していくばかりであった。
――高橋乗宣著/東洋経済新報社刊
『世界恐慌の襲来/日本経済は「最悪の10年」に突入する』
―――――――――――――――――――――――――――――
続いて米国では、空前の住宅・不動産投資ブームがサブプライ
ム問題が顕在化するまで続くのです。そしてこの時代の経済を支
えたのは「最先端金融技術/証券化を使った金融バブル」であっ
たのです。
最先端の金融技術を使った証券化の手法は「ハイリスク・ハイ
リターン」ならぬ「ローリスク・ハイリターン」を可能にする夢
の金融商品を実現させたかに思われたのですが、そのようなうま
い話が長続きするはずはなく、リーマン・ショックによって証券
化商品自体の信頼性が失われると、売りが売りを呼ぶパニックと
なり、金融危機へと突入してしまったのです。
米国経済は、以上の3つの経済政策によって30年の「虚構の
繁栄」を築いたのです。 ―――[大恐慌後の世界/35]
≪画像および関連情報≫
●レーガノミックス/再生する米国経済
―――――――――――――――――――――――――――
1998年8月のロシア金融危機と引き続く金融市場の混乱
は順風満帆の米国経済に冷水を浴びせる事件であった。ロシ
アで金融危機が勃発するや米系ヘッジファンドの中にはかな
り大きなダメージを被るところも出てきた。特にマートンシ
ョールズという二人のノーベル経済学者を有するロングター
ム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が九月に破たん
の危機に瀕した際は、ニューヨーク連銀が音頭を取ってLT
CMの清算を回避するなど極度に緊迫した場面も見られた。
http://homepage2.nifty.com/tanimurasakaei/re-ga.htm
―――――――――――――――――――――――――――
高橋乗宣氏